脳筋×天才による魔法×科学のヒーロー!!
待雪草
魔法と科学、奇跡の融合ヒーロー誕生!?
「テメッ!?安全は保証されてるって言ったよな!?」
「ああ言ったとも。私の想定通りであればとネ!見たまえよ!!計器が指し示す数値の高さを!!いやはや、想定以上の成果だよ!」
「はっ倒すぞこのマッドサイエンティスト!!」
プスプスと全身から黒煙を上げながらも、元気一杯に叫ぶ鍛え抜かれた上半身裸の男は、人相の悪い顔を更に悪くしながら無数の機械とコードで繋がっているパソコンの前で大はしゃぎをしている白衣を着た女性へと詰め寄っていき、二人の間に設けられた強化ガラスに勢いよく激突する。
「ダッ!?」
「鳥頭かネ君は?機器が壊れない様に最新式の強化ガラスで遮っていると説明しただろう?」
額を押さえながら蹲る赤髪メッシュの男を、猫の様な目で呆れながら見つめ肩をすくめる女。
一見すると、ヤクザか何かと見えてくる男と科学者らしい女は決して、関わることのない二人に見えるのだがこれでも歴とした治安の守護者達であった。
「こちとら黒焦げなんだよ!!テメェが、提唱したこのなんだ?『ユニゾンシステム』だが、なんだかの実験で危害が無いつうから、ラーメン奢りで参加してやったのに……なんで、焦げてんだ!?」
「落ち着きたまえよフィラ君。ユニゾンシステムは、今現在、広く知れ渡っている魔法と最近、王都を中心に広まってきた科学を融合させ未知の力を引き出すシステムであり、開発者であるこの私、キュキュリア・ギュリーの天才な脳を持ってしても、予測しきれん事柄が多いのだ」
「なげぇ!」
「……つまり、事故は起きるさ☆」
星が飛び散るのが思わず、幻視出来るほどの綺麗なウィンクと共に笑顔を浮かべるキュキュリアについに、フィラは堪忍袋の緒がブチっと切れる音を聞き、プルプルと右手を震わせながら強化ガラスを全力でぶん殴ってしまう。
バギィ!という音共に強化ガラスにはヒビが入る。
「相変わらずの馬鹿力だネ、フィラ君!」
「帰る!!」
そう言いい、電子ロックと魔力防御がされている扉を力づくで破壊すると、そのままフィラは近くの籠に置かれていた自分のスーツの上着を手に取ると羽織り、キュキュリアの実験室を出て行ってしまった。
残されたキュキュリアは、やれやれと呆れながらもすっかり冷めた珈琲を口に含みながら、愛おしげに観測されたデータを見つめながら、空いている手でパソコンのキーボードを目にも止まらない速度で叩いていく。
「……長い付き合いだと言うのに、いい加減彼も慣れないものかネ」
魔法とは、生まれながらに人間の身に宿る力、魔力を用いて火を起こしたり水を生み出したりなど、個人差はあるものの誰もが使えるものだ。
その資質によってランク分けがされており、よほどの修練を積まない限りこのランクが変動する事はなく、腕に巻かれた腕章によって区分される。
最高は紫であり、そこから藍、青、緑、黄、橙、赤、黒となっており王都にあるラーメン屋求めて、歩くフィラの腕章は最低を示す黒であった。
「あーくそ……あのマッドサイエンティストめ……危険性を先に説明するって事が出来ねぇんか……」
不機嫌そうに歩くフィラを王都の人々は恐れと共に避けて行く中、キュキュリアに対する文句をツラツラと呪文の様に唱えるフィラの姿は、その人相も相まって怖いのだが彼が避けられているのには理由がある。
「まーた機嫌悪そうだよ……《黒色の鬼人》さん……」
「あの人の同僚、《紫の天人》キュキュリア様だろ?相当振り回されてるって話だぜ……」
一つは王都警備隊と呼ばれる王都で起きた犯罪を取り締まる組織に、魔法が使えないのにも関わらず身体能力だけで所属しているという畏怖からであり、もう一つは奇人変人、王都が抱える人災として有名のキュキュリアが監視の為にも無理やり所属させられた『王都警備隊特異装備開発局』通称、《特装局》唯一の配属者である事から彼に関わるとキュキュリアがもれなく着いてくるという、厄介さから避けられていた。
「……他の連中もいつもの間にか辞めてるしよ……俺も辞める時か?」
「キャァァ!?ひったくり!!」
「あん?」
現実逃避をしていたフィラの耳に悲鳴が届き、振り返ってみればお腹を大きくした妊婦が、自分に向かって走ってくる小汚い服装の男に向けて、手を伸ばしながら倒れていた。
「……つまんねぇ犯罪してんじゃねぇよ」
上着のポケットに手を突っ込んだまま、フィラはこちらに向けて走ってくる男の方へとゆっくりと歩き出すその目からは、言葉とは裏腹に気怠さは無くなっており鋭く男を睨みつけていた。
「どけぇ!邪魔だ!!」
男は魔法で作り出した風を纏うナイフを振り回しながら走っており、少しでも掠ってしまえば斬りつけた傷跡を更に、風の刃が傷付け出血が激しくなる危険な魔法の為か人々は男の進路上から我先にと逃げている。
そんな中、一人向かってくるフィラの姿はかなり目立ち、すぐに男に発見された。
「っっ!?黒色の鬼人!?なんで!?」
「馬鹿かお前?王都管轄の俺が王都に居て、なにが悪いかよ」
「くそっ……所詮は魔力無しの奴だろ!?こうなったら──」
自らの魔力を操作し、身体を強化しようとした男は気がつけば夕暮れの空を眺めており、なにがなんだか分からないまま、顎から走る激痛とグラグラ揺れる視界に疑問を思う前にその意識はブラックアウトし、地面に叩きつけられた。
男を蹴り上げた体勢のフィラは、男が立ち上がらないのを確認すると足を下ろし地面に落ちていたバックを拾い、立ち上がって頑張って追いかけて来ていたのか思いの外近くに来ている妊婦へと手渡す。
「ほらよ」
「あ、ありがとうございます!」
「仕事をしただけだ。それと身重の身体は大切しろ」
妊婦の返事も聞かずに、背を向けたフィラは倒れた男を米俵の様に担ぎ上げるとそのまま、雑踏の中に消えて行くのだった。
「やぁやぁ、聞いたよ!ひったくり犯を派手に捕まえたそうじゃないか!」
……耳がはえーなこいつ……つか、朝からウルセェ。
こちとらその犯人のせいで、駐屯所まで行く羽目になって、なにが起きたのかという説明と顎の骨を砕いたことに対するやり過ぎで説教を受けて、疲れてんだわ。
「そのせいでラーメン食い損なってるんだよこっちは……というかお前、また泊まったな?」
珈琲の飲みかけと、中途半端に食われたクッキー、挙げ句の果てにお湯を入れたところで研究に意識が割かれて、そのまま忘れさられたカップ麺の伸び切った哀れな姿……片付けするの誰だと思ってんだこの野郎。
「君のデータは実に参考になってネ……気がついたら日が昇っていたよ!」
「寝てねぇって事じゃねぇか!!さっさと、備え付きのシャワーで汗でも流して、寝ろ!!掃除は俺がやるから」
「……君が入れてくれても良いのだよ?」
俺に枝垂れかかりながら、甘える様な上目遣いをしてくる無駄に整った顔面をノータイムで鷲掴みにして、そのままシャワー室に放り込み、扉を閉める。
「乙女に対する態度かい!?」
「ウルセェ!乙女語るなら、せめて俺に言われる前に風呂に入れ!あと、胸成長しろペッタン!」
「ペッ──!?ハレンチだぞ君!」
文句を言っているキュキュリアを無視し、部屋を片っぱしから掃除して行く。
食いかけや飲みかけは、勿体無いが全て袋に叩き込み、二重にしてからゴミ袋に放り込み、使った皿や箸などを流しに入れ、全て洗い乾燥機の中に入れスイッチを押す。
そしてまぁ、コイツの世話をしているせいで今更見慣れた白衣や、服と共に放り捨てられている色気のねぇ下着達を纏めて、洗濯機に放り込み洗剤を入れこれもスイッチを入れる。
俺が魔法を使えれば、もうちょい楽なんだが……まぁ、科学のお陰で便利な機械があるのは正直、助かる……全部、キュキュリアお手製ってのが、心配だが。
「ふぅー、さっぱりしたよ」
キュキュリアの方を見ずにタオルを放り投げると、助かるよという返事が返ってきた。
やっぱりあの野郎、身体を拭きもせずに出てきやがったな……どうして、こう天才ってのは私生活が壊滅的なんだ?それともコイツだけか?
「あぁ、そうだフィラ君。君が警備隊と仕事をしている時に気をつけてほしいことがあるんだが」
「なんだ?」
珍しいなコイツが俺の心配をするなんて……今日、人類は滅びるのか?
「よっと……君は《魔昂薬》という存在は聞いているかネ?」
「……知らんな」
「少しは考えたまえよ……まぁ、知っているとは私も思っていなかったが。所謂、麻薬の一種でネ、魔力の流れをかなり活性化させるらしいがその代償に使用者は、凄まじい興奮と破壊衝動に駆られるらしい。被害は今のところ、王都では確認されていないが、出所の一切が不明なため安心は出来んと上は大慌てだ」
なんでお前がそんな事って聞こうと思ったが、どうせ魔法で洗脳かハッキングでもして手に入れたんだろうとすぐに予想が出来たから、口を閉じゴミ袋を担ぎ、振り返ればそこには全裸に白衣を羽織っただけのキュキュリアがソファで横になっていた……目を閉じている辺り、寝るつもりか。
「実験は?」
「午後からにしよう……君は見回りでもしてくると良い……グゥ」
「……相変わらず寝るの早ぇな」
可能な限り音を立てない様に研究室から出て、ゴミを焼却炉に叩き込みもくもくと黒煙が上がるのを少し眺めてから歩き出す。
「午後まで時間があるな……とりあえず、王都を見回って昼前に食い損なったラーメン屋に行くか」
それにしても《魔昂薬》か……聞いたこともない薬の名前だが、一先ずこうして街中を見ている限りいつもの活気ある平和な光景だ。
ガキが笑い声を響かせ、母親や父親がそれに振り回されてながらも楽しげにして、出店の呼び込み担当の一人だってのに周囲の話し声に掻き消されねぇ馬鹿でかい声を出し、ジジィやババァはゆっくりと自分達の時間を過ごしている……いつもの王都だな。
「ふぅ……やっぱり、ここの醤油ラーメンはうめぇな」
一杯、500ゴルってのもありがてぇ、それでいてどんぶり一杯のラーメンが食えるとありゃ、通いたくなるのが男のサガよな。
さてと、そろそろ良い時間だしキュキュリアの奴を起こしてクソ濃い珈琲でも飲ませてやらねぇとアイツの脳は、ずっと眠ったままだからな……失敗したら被害を受けるのは俺だしとっとと、帰って……
「ありゃあ、昨日のひったくり犯か?」
出てくるには早すぎるし、妙にキョロキョロと周囲を見渡しているのは明らかに不審者だな……あ、しかも裏路地に入って行きやがった。
「追いかけるか」
また誰かを狙ってるとなるとみすみす犯罪を見逃すことになる。
慌てて奴を追いかけて、裏路地に入るがそこは王都の繁栄と共に置き去りにされた場所に相応しい迷路で、かなり入り組んでおり僅かな痕跡を頼りに追いかけて行くが、遠い背中に追いつく事は出来ず見失ってしまう。
「……チッ、どこ行きやがった?」
浮浪者共に話を聞くにしても、思いっきり警備隊の制服を着ている俺に警戒心剥き出しで話しかけようすると、何処かに逃げて行きやがる。
あーもう、一旦出直すか……あ?
「こ、これで、お、俺も強くなれんだよな!?」
「はい。そのための我々ですから」
「……なにしてやがる?」
闇雲に動き回った結果、何かの取引現場に到着したらしく、そこには俺の呼び掛けに怯えた様な表情を見せるひったくり犯と濃い化粧のせいで、表情が全く分からないピエロの格好をした女が立っていた。
「黒色の鬼人じゃあ、ありませんか。なるほど、なるほど、これは確かに貴方の様な弱い人間には手に余る相手ですねぇ」
「随分と余裕な態度を見せるじゃねぇかピエロ女。待ってろ、今すぐ引っ捕らえて……!」
「おぉ、怖い怖い!」
言葉と共に地面に何かを叩きつけると白い煙幕が広がり、ピエロ女とひったくり犯の姿が見えなくなる。
「舐めるなこの程度で怯む俺ではない!」
煙幕があろうが知ったことではないと思いっきり、走って突っ切るとそこには先ほどより距離を取ったピエロ女が口元に三日月の様に笑みを浮かべながら、片手で拘束しているひったくり犯の首元に注射器を突き立てている姿があった。
「ひっ!?お、俺、おれれれれれれれれれれ!!!!!」
身体をビクンビクンっと震わせながら、空を仰ぎ見るひったくり犯の姿は誰がどう見ても正常ではなく、ピエロ女が突き刺した注射器に何か原因がある事は、俺でも分かる。
「さぁ、ではショータイムのお時間です」
マントを広げ、恭しく頭を下げたピエロ女の姿が掻き消える。
瞬間移動?ほとんどの予備動作無しにやってみせた辺り、紫クラスのやつか?チッ、なんにしても犯罪者を取り逃すとはな。
「まぁ良い。テメェから話は!?」
「あ、ハ、アハアハアハアハアハアハ!!!!!ナンダ、コレ、サイコウノキブンジャナイカ!!」
「……魔昂薬ってやつか」
真っ赤に変色し身体の大きさが二倍以上に膨れ上がり、明らかに狂った声を発しながら全身に風を纏うその姿は、先ほどの気弱そうに見えるひったくり犯とは全く似ても似つかない化け物だ。
「見てくれだけが強くても──がっ!?」
「アハハハ!!」
いつの間にか接近してきていたひったくり犯の拳が俺の腹に勢いよく当たり、窓を破りながら勢いよく吹き飛ばされる。
幸い、転がり込んだ店は既に潰れているらしく被害は最小限と言えるのだが、なんだ強くなるにしても限度があるだろ!?
「オマエ、ヨワイ!!オレ、サイキョウ!!」
「……はっ、たった一撃入れただけで調子に乗るなよ薬中!」
壊れたテーブルの木片を手に取り、俺を追いかけて壁をぶち壊しながら入ってきたひったくり犯に全力で振り下ろすと、バキッと音共にその体に触れた木片は粉々に砕け散り、呆気に取られた俺は綺麗なカウンターを顔面に喰らい、数回地面を跳ねながら、またしても窓を破り外に転がり出てしまう。
「……くそ……なんなんだ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
「ッッ、早く逃げろ!!此処は危ねぇ!!」
いつの間にか表に出てしまったのか!?視界内には、多くの人々が心配そうに俺の方を見ていた。
「ハハハハハ!!」
「くそっ!!」
「きゃあ!?」
後ろから聞こえてきた声と共に全てを破壊しながら迫る暴風から守るために、近くに来た女性を抱き締めこの身を盾にする。
沢山の悲鳴と共に破壊音が地に伏せた俺の耳に届くが、どうにも身体が思う様に動かない……目だけで周りを伺うと美しいと思っていた王都の光景は崩れ去り、瓦礫の山と逃げ惑う人々で溢れかえっていた。
「だ、大丈夫ですか!?怪我が……」
「大丈夫だ……だから、逃げろ……」
こんな状況でも俺を心配するとは優しい女性だ……だが、今は逃げてくれ、あのイカれ野郎から可能な限り遠くに。
「ハハハ!」
イカれ野郎は倒れた俺にもはや興味はないのか、手当たり次第に風をぶつけて破壊の限りを尽くしている。
奇跡的に死体は見えないが、崩れた建物に居た人間が居たとすれば……間違いなく死んでいる……クソが、俺はただ倒れてる為に警備隊になった訳じゃねぇんだぞ……
「きやぁぁ!」
「オマエ!!アノトキノオンナ!!コロス!!」
運命とは残酷らしく、逃げ遅れたと思われる昨日の妊婦が、隠れていた場所をイカれ野郎に見つかり、暴風の的にされようとしているのが見えた。
「ォオオオオオオ!!」
「グッ!?」
火事場のクソ力というのだろう。
ピクリとも動かなかった身体を叩き起こし、全力の体当たりでイカれ野郎を突き飛ばした。
「早く……逃げろ!!」
「う、動けなくて……」
「なに!?」
よく見れば崩れた瓦礫の隙間に足が挟まっていた……くそ、こんな一刻を争うときに……いや、迷っている時間はないか。
急いで妊婦へと駆け寄り、瓦礫に手を伸ばすが、普段なら簡単に動くであろう瓦礫はピクリとも動かない。
「傷のせいで力が……」
軽く力んだだけで激痛が全身に走る。
「ッッ、に、逃げてください!!もう私とこの子はダメです!!それにあいつが!!」
気配でなんとなくだが、イカれ野郎が戻って来ているのを理解していたが、どうやら妊婦から見える場所まで戻ってきている様だ。
「警備隊が市民を見捨てられるか!!俺は理不尽に誰かの命を奪わせねぇ為に警備隊に入ったんだ!誰も見捨てねぇ!!」
だから、無駄に怪力な俺の身体、力振り絞れやぁぁぁあ!!!!!
「瓦礫が……!ありがとうございます!」
妊婦は俺の最後の馬鹿力でどうにか抜け出したらしく、挟まっていた片足を引きずりながらだが、この場を離れていく後ろ姿を見ながら安心した俺は、ゆっくりとイカれ野郎へと振り返る。
「ヨワイ!ヨワイ!ナニガデキル???」
「……はっ、テメェを死ぬ気で足止めくらいはしてやらぁ」
死ぬ覚悟を決めて握り拳を構え──「君に死なれると私が困るナ!!フィラ君」──なんで、テメェが此処にいる!?キュキュリア!!
「何故って顔だネ!時間になっても君が来ないから、もしかしたらと思ってネ!コレを持ってきて正解だったよ!!」
その言葉と共にシリンジとシリンジを差し込む四角い装置が取り付けられたベルトが俺の目の前に投げ飛ばされる……コレは、ユニゾンシステムじゃねぇか!?
「君のデータに合わせてある!!使いたまえ!!」
「大丈夫なんだろうな!?」
「
キュキュリアが時間稼ぎとして、水の弾丸をイカれ野郎へと放つのを、見ながらベルトを拾い上げ俺は、迷いなく腰に巻きつけ、右側から四角い装置を叩くとキュキュリアの声が流れる。
『ユニゾンシステム起動』
「……信じるからな
右手を真っ直ぐ突き出しながら左手でシリンジを挿入し、突き出した右手を太陽を掴む様に掌を広げながら上へと伸ばし、上げきった瞬間力強く握り締める。
握り拳が顔の横にくる様に勢いよく下ろすと同時に、覚悟を決めてシリンジを左手で叩く。
「変身!!」
魔法によって粒子化された科学の結晶、形状記憶合金が俺の変身という言葉を
鈍い鉄の輝きが俺の全身を包み込むと同時に魔法による強化が一斉に施され俺の髪色と同じ赤へとその色を変える。
元より怪力な身体はスーツとなった形状記憶金属に刻まれた強化魔法による身体の活性化を受け、全身に溢れんばかりの力が満ちていき、俺の変身が完了した合図がベルトより放たれる。
『魔法と科学の融合!!叡智の先へ!!』
ノリノリなキュキュリアの音声と共に俺には備わっていない筈の
「……マジで成功しやがった」
「ははは!流石は私だネ!!ぶっつけ本番でもどうにかなった様だ!!」
「テメェ!」
「おっと、話は後だ。くるぞフィラ君!」
今日の飯にピーマン入れてやるから覚悟しとけよキュキュリア!
ま、今はとにかくこのイカれ野郎をとっとと、ぶっ潰すのが先か!!
「オラァ!」
「グァ!イタイ!イタイ!」
「テメェが良い気になって傷つけた連中よりは、マシな痛みだろうが我慢しろ!」
ユニゾンシステムのお陰で、俺の拳はイカれ野郎の風に阻まれることなく、奴の肉体を直接ぶん殴る事が出来る様で、連続で殴り飛ばすと先程までの威勢が嘘の様に、イカれ野郎は苦痛の声を上げながら下がっていく。
「チョウシニノルナ!!」
ゴツい腕を前に突き出しながら、風の大砲を放つイカれ野郎だが、そんな見え見えの攻撃を喰らう訳がねぇーだろうがよ!
避けて驚いている間に鼻っ面をぶん殴り、吹き飛ばすと負けを悟ったのか腰の引けた体勢で逃げ出そうとしやがる。
へっ、薬で気が強くなってるだけで結局、チキンのままかよ。
ベルトに装着されたシリンジを更に押し込むと再び、キュキュリアの音声が流れる。
『エネルギー充填……収束率100%、キックOK!』
「あいよ!!これで、おわりだぁぁ!!」
右半身を前にし前へ勢いよく、走り出しイカれ野郎に追いつく直前に跳躍、白く輝くほどに魔力が溜まった右足でイカれ野郎を蹴り飛ばすと、そのまま叩き込まれた魔力に耐える事が出来ず爆発四散した。
「……いや、とんでもねぇ威力だな」
「あの麻薬に手を出した者の末路は、暴走した魔力による死だ。君が気に止む必要はないよ」
「そうか……遅いか早いかの差って訳か……」
最悪、殺す覚悟はしていたが……こんなにも簡単に一線を越えることになるとはな……
『WARNING!!WARANING!!』
「……おい」
「ふむ……冷却が追いつかなかったようだネ!」
「ようだネ!じゃねぇ!!」
ボンっといつもの爆発が起き、俺とキュキュリアは揃って黒焦げになるのだった……相棒って信じた俺が間抜けだったな!!クソ!!
「……なるほどなるほど。アレが倒すべき敵の姿ですか」
間抜けを晒す彼らを建物の屋上から、ピエロ姿の女は笑顔を浮かべながら見ていた。
「良いでしょう。商売仇が居るというのは心が躍るものです……またどこかで縁がありましたらお会いしましょう?」
そう言い残し、夜の闇へと彼女は消えていくのだった。
脳筋×天才による魔法×科学のヒーロー!! 待雪草 @matiyukisou
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