覇道による学園戦略~第一戦:鬼の風紀委員長VS大企業の息子~
@onizuka2025
プロローグ
鉛色の世界に雨音が響く。その夏は雨が多かった。
だから皆、雨を犯人に仕立て上げようとしていた。
「あの夜も土砂降りだったろ? いや予報の方じゃそうでもなかったが、場所によっては酷かったんだ。瞬間的にどしゃっときた時が確かにあった。な? それで見えなくなっちまったんだろうな。運が悪かったよ」
普段は顔も見せない叔父が、ハルの肩を叩く。何度も叩いた。叩く度に「運が悪かった」と繰り返す。その言葉をハルの身体に刷り込むように。
「だからハル君も、馬鹿なこと考えるんじゃないぞ? な? これから、社長夫人とお坊ちゃんが来てくださるんだから。わざわざ来てくださるんだぞ? こんなことあることじゃない。すこーしくらい、愛想良くしないと。な? わかるだろ、おじさんの言うこと。ん?」
「…………」
「なぁ、わかるだろ? 叔父さんたちも立場ってものがあるんだ。ハルくんがそんな態度じゃ困るんだよ。お母さんが亡くなって悲しいのはよくわかる。誰よりもわかってる。けど叔父さんたちのことも、少しは考えてくれないと。な?」
ハルが答えないでいると、叔父はじれたように呻いた。
その時、外門の先で車が止まる。
叔父が雨の中を駆け出した。
「どうもどうも、お足元が悪いなか、ご足労おかけしまして――いえいえ、もう本当に、そんなお言葉をいただけるだけであれも浮かばれます」
叔父がぺこぺこと頭を下げながら、自分は濡れたまま降車する者たちに傘を差し続ける。車から喪服の女と、女に連れられた少年が降りてくる。
少年はゲーム機を握って、そこから頭をあげなかった。
二人の後に、黒いドレスを着た少女が続いた。途端に、叔父が悲鳴じみた声をあげた。
「なんと、本家のお嬢様まで……!」
叔父は先に降りた二人に傘を差しながらも、少女に雨粒一つもあててはならないと言うように、自分の身体で庇う。庇いながら「傘! 傘持ってきて! 誰か!」と叫んでいた。
酷く滑稽な姿だった。
しかしそれは叔父だけに限ったことではない。
この町そのものが、全てこうのだ。町そのものが滑稽なのだ。
ハルは叔父の姿を見つめながら思った。
「ハル、なにしてる! 傘! 傘持ってこい!」
叔父が怒鳴る。それでもハルが動かないでいると、「誰か! お嬢様が濡れてしまう!」とこの世の終わりのように叫んだ。
「結構です」
少女が歩き出す。前の二人を抜き、ハルの前に現われると頭を下げた。
「この度はご愁傷様でした」
「…………」
傘を他の者に任せた叔父が飛んで帰ってくる。その勢いのまま、ハルの頭を押さえつけた。
「このっ! 礼を言わないか!」
(礼だと?)
その言葉と押さえつけられる後頭部の痛みが、始まりだった。
(母さんを殺されて、礼を言えってのか)
心臓を焦がすような炎が燃え上がった。ハルは押さえつけてくる手に抵抗しながら、目の前の少女を睨みつける。目が合うと、少女は微笑んだ。
「充電なくなっちゃった!」
少女の背後、少年が声をあげた。
「どうすんだよ、これじゃクリアできないよ! もう帰りたい!」
「あらあらマー君、そんなこと言っちゃ駄目よ? お母さん、困ってしまうわ」
「なんで僕がこんなとこ来なくちゃいけないんだよ! 意味わかんないよ!」
「あらあら」
喪服の女がいくら宥めても少年の機嫌はなおらず、不満を垂れ流し続ける。それにハルの親族たちが右往左往する。最後には「申し訳ありません」と謝っていた。
喪服の女も「大丈夫ですよ」とその謝罪を受けとっていた。
――許さん。
ハルは喪服の女も、少年も、彼等に頭を下げては礼と謝罪を口にする大人も睨みながら、沸騰する血を吐く思いで口にした。
「絶対に許さん」
ハルの声は目の前の少女にだけ届く。少女は首を傾げていた。
「俺は貴様等を絶対に許さん。覚えておけ。俺の絶対は絶対だ」
少女は束の間驚いたように目を丸くしたが、すぐ微笑んで返した。
「そう。頑張って」
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