小寒
影神
冷たいお部屋
単発バイトで応募した仕事で。
俺は不思議な体験をした。
環境に恵まれず、
仕事が長続きしなかった。
言い訳なら沢山ある。
でも大人になるにつれて。
『イイワケ』
は、何の"理由"にはならない。
身体を壊そうが。
心を壊されようが。
働かなくては生きていけない。
「今日はよろしくお願いします。」
待ち合わせ場所は古い建物だった。
募集要項には、【荷物運び】と、
記されていた。
感じの良さそうな男性。
俺の他には居ない様だった。
感じの良さそうな男性「では早速。」
世間では、【闇バイト】と呼ばれるモノが流行り。
今回のもそうじゃないかとビクビクしながら、
朝を迎えここまで来た。
男性の後ろをついて行き、部屋に入ると、
まるで誰かがさっきまで居たような感覚がした。
感じの良さそうな男性「大型の家具はそのままで。
中身はこっちの箱に詰めちゃって下さい。」
「はい。」
間取りは少し不思議な感じで。
部屋を入って目の前に階段があり。
2階もある様だった。
感じの良さそうな男性「私は2階からやるから。」
部屋数は無いが、部屋は広かった。
その階段下に違和感があった。
冷蔵庫だ。
階段下の空間に、小さな冷蔵庫があった。
感じの良さそうな男性「この後業者さんが来るから。
早く始めちゃってくれるかい?」
「は、はいっ。」
急かされる様に、俺は荷物を詰める。
少し棘のある言い方。
もう少しどうにかならないものか。
優しくしてくれとは言わないが。
言い方ってものがある。
まぁ、どこもこんなものだ。
所詮、他人。
金だけの関係。
荷物を片付けるにつれ。
何と無く持ち主の事が浮かんだ。
お洒落な食器に。
手作りであろう人形や布類。
きっと高齢の女性だったのだろう。
所々埃を被っていたが、床は綺麗だった。
だからか。
まるで誰かがさっきまで居たような感覚がするのは、。
ある程度荷物をまとめ外に出す。
感じの良さそうな男性「そこじゃなくて。
そっちの車の後ろに入れといてくれる??
そこ置いちゃったら邪魔でしょ??」
「ぁっ。はい、すいません。」
そういう事は最初から言えや。
言わなくても分かるだろうとか。
考えれば分かるだろうとか。
頭がくっついてる訳じゃないんだから。
てめえの考えなんか知るかよ。
時間が経つに連れてこいつの化けの皮が剥がれた。
どこ行ってもこういう奴は居る。
家に戻ると、業者が来ていた。
業者「通りまーす!
、、チッ。」
通りすがりに舌打ちされる。
「はぁあ。」
まだ荷物はある。
業者が居るなら業者に全部やらせろよ。
日の光を浴びて、部屋が曇っている事に気付く。
最初は埃っぽいのかと思ったが。
いや、、
荷物運んでるからか??
俺は作業に戻る。
2.3度車に荷物を運んでいると、
車は荷物でいっぱいになった。
「あの、、?」
感じの良さそうだった男「終わった?」
終わる訳ねえだろ。
「いや。車がいっぱいになったんで。」
感じの良さそうだった男「じゃあ。
私は荷物置いてくるから、
引き続き片付けしといてくれる?」
「ぁ。はい。」
感じの良さそうだった男「それと。
"遺品"盗らないでね?」
?
感じの良さそうだった男「後で分かるから。」
ふざけんなや。
何なんだコイツ。
クソ野郎「業者さんには言ってあるんだけど。
階段下の"アレ"は持って行かない様になってるから。
もし持って行きそうになったら言ってね?」
「はい。」
今日でこのクソともお別れだ。
こういうどうしようもない奴が居るから、
俺は何処に行っても続かない。
言いたい放題言えるこういう奴が。
正直羨ましくも思える。
こういう奴等が会社に居続ける。
それに我慢しなければ、会社には居られない。
俺には【スルースキル】が無いのだ。
イライラを箱に詰めながら少し冷静になると、
『遺品』
と言う言葉に戻された。
やはりそうだったか。
"訳あり"
だ。
【闇】じゃないなら。それなりの"理由"がある。
学校では教わらない事だ。
業者「こっち終わったんで。
これで。
ありゃしたー、」
ようやく1人になった。
静かな部屋。
ウゥー、、
近くの冷蔵庫が唸る。
事故物件。。?
何だか急に怖くなった。
人が亡くなってる、、
いや。
人はそこらじゅうで亡くなってる。
気付いてないだけで、知らないだけで。
ごく普通の、当たり前の事だ。
いずれは俺も何処かで。
ウゥー、、
どうして冷蔵庫だけ残すんだ。??
手は止まらないが、頭は冷蔵庫でいっぱいだった。
ガチャ、
もう戻って来たのか。
小言を言われない様に荷物を持ち上げる。
玄関を抜けると、車があった場所には車が無い。
あれ、??
業者が戻って来たのか?
、、?
そもそも誰かとすれ違ったか、?
??
荷物を持ちながら家に戻ると、
玄関にあるはずの靴が無い。
空き巣か?!
相変わらずの曇った室内に、
ゆっくりと動く者があった。
煙の様なそれはゆっくりと階段を上って行った。
、、まぢか。
「終わったー??」
聞いた覚えの声にふと我に返り。
俺は結局小言を言われる事になった。
クソ野郎「何サボってんの??
給料あげないよ??」
「ありがとうございました。」
給料を渡されながらこれでおさらばと思った。
クソ野郎「君。いつもあんな感じ?」
「ぇ。まあ、」
説教か、?
クソ野郎「何処行っても続かないんでしょ?」
は?
何なんだテメエ。
クソ野郎「うちなら人手不足してるから。
どお、??ボーナスあるし。」
『ボーナス』
の言葉に引かれたが。。
「いや。大丈夫です。」
クソ野郎「あっそ。」
何なんだコイツ。
「あっ。あのぅ、」
クソ野郎「何?」
「あの冷蔵庫って。」
クソ野郎「あぁ。
息子に殺されて、あの中に入れてたんだよ。」
ウゥー
小寒 影神 @kagegami
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