新歓?

次の日、私は教室で机に突っ伏しながら真人と会話をしていた。


「なんてことが昨日あってさ。」


「あの生徒会長が……そんなに取り乱したの?」

「うん、すごく顔真っ赤にしてテンパってたよ。」

「氷の女王が? あの鉄仮面かぶった生徒会長が?」


真人は信じられないといった様子で首を傾げる。

まあ、私だって昨日あの瞬間を見てなかったら、聖良会長があんな風になるなんて思いもしなかったけどね。


「でもさ、意外と可愛いところもあるんだなって。」

「可愛い、ねぇ。まあ間違っちゃいないな。あの人、ファンクラブができてるくらいだし。」

「……ファンクラブ?」

「うん。会長の差し入れとか写真集とか、熱心な人たちがやってるらしいぞ。」

「……どこまで本気なんだか。」


真人の話に驚きつつ、私は昨日の出来事を思い返す。

そうか、あの完璧な会長にも隙があるんだ――それに気づいたとき、ちょっとだけ親近感が湧いた気がした。


「その時の動画でも撮ってたら売れたかもな。」

「そんなことしたら聖良会長に消されるよ! あの人、容赦なさそうだし!」

「確かに……微笑みながら葬られるかもな。」


真人の冗談に私は思わず笑ってしまう。

こんな風に二人でくだらない話をするのも、最近はめっきり減っていた。

夏が一緒にいることが多かったから、久しぶりに真人を独占できて、なんだか懐かしくて楽しい。


「それでさ、軽音部は新歓の出し物、決まったの?」

「えっ……何を?」

「新歓の出し物だよ。あと10日後じゃん。」


――10日後?

その言葉を聞いた瞬間、私の脳内で何かが繋がった。


「あれって、そんなに近かったっけ?」

「まさか、忘れてた?」

「……何にも準備してない……。」

「だろうね。でも軽く演奏して、挨拶するくらいでいいんじゃない?」


真人がさらっと言うけど、軽音部には大きな問題がある。

そう、翔先輩という爆弾が……。


「去年の新歓で、翔先輩がやらかしたこと、覚えてる?」

「翔先輩?……全裸で飛び込んできたやつだろ。」

「そうそう! 誰も受け止めなくて顔面から床に突っ込んだの! 血、飛び散ってた……。」

「悲鳴上がってたよな。演奏は最高だったのに、余計なことするから全部台無しだった。」


翔先輩の奇行を思い出して、私たちは苦笑する。

あの先輩の存在感は軽音部の良くも悪くも象徴的だ。


「今年はやらないと思いたいね。」

「絶対にやらせない! 阻止する!」


拳を握る私はふと美術部はどうするのだろうと疑問に思い、真人へと尋ねてみた。

「で、美術部はどうするの?」

「ああ…全員で一つの絵を完成させて、それを新入生に見せる感じかな。」

「地味じゃない?」

「別に派手さはいらないから。」


真人は小さくため息をつきつつ、私は考えた。

美術部に新入生が入らなかったら、長内先輩が卒業した後、真人と夏の二人だけになってしまう。

それは絶対に避けなきゃ。


そして翔先輩の暴走も、今年は絶対に止めなきゃいけない。

頭をフル回転させた結果、私は一つの案を思いついた。


「ねぇ、ちょっと話があるんだけど。」

「……嫌な予感しかしないから、聞きたくない。」


美術部――

「断固拒否だ。」


長内先輩は険しい顔をしていた。

「いや、でもその方が盛り上がって新入生も来る可能性が!」

「絶対に嫌だ! 第一、その男は問題児だろう! 君たちが一番わかってるはずだ!」


先輩が指差すのは、ベルトに雑巾を巻きつけて黙々と床を拭く翔先輩だった。


「あっ……お金かと思ったら汚れか……汚れ? 掃除しなきゃ……。」


あの翔先輩がここまで大人しくなっているなんて、いったい何があったのか……。

いや、関心する場合じゃない。


「……今は大人しいかもしれないけど、本番では何をするかわからないだろう!」

「絶対にそんなことはさせません!」

「信用できない!」


頑なに拒否する長内先輩を説得するため、私は最後の手段に出る。


「でも、新入生が来なかったら、この部活は……終わっちゃうんですよ。そんなの、いやです……。」


その言葉に、長内先輩は困ったように視線を泳がせる。

翔先輩をちらりと見た後、小さくため息をついた。


「その考え……聖良が認めるか?」

「必ず、認めさせます!」


長内先輩は腕を組んでしばらく考え込むと、ようやく頷いた。


「じゃあ、聖良に認めさせられたら受け入れる。」


「翔先輩、ちょっと話があります。」


「掃除?…えっ何?」


私は不敵な笑みを浮かべながら、彼を引っ張っていった。

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