一度あることは二度あるらしい
翔先輩がどこかの掃除活動に拉致されている間、なぜか部室の鍵は私に渡された。
「ええ……任されたの、私?」と内心思いつつ、瑠璃より先に部室へと足を踏み入れる。
鍵を開けると、そこにはいつもの散らかった部室が広がっていた。
「……これ、本当に部活の部室?」
吹奏楽部の備品がどれなのかなんてわからない。いや、きっとほとんどがそうなんだろうけど。
ぼんやり眺めていると、背後から聞き慣れた声が聞こえた。
「よっす、ひろ。今日も元気?」
気だるげに現れる瑠璃に軽く挨拶を返す。
「今日は翔先輩もいないし、二人でのんびりしようよ」
「いやいや、また聖良会長が来るかもだし……それは無理じゃない?」
適当に部室内の散乱物を指差してみる。
「あー……なるほね。ま、でも翔先輩に丸投げすればよくね?」
「その翔先輩がいないんだけど?」
「副会長に首輪つけられて掃除してたよ。しょんぼり顔だった」
「……それ、完全に飼われてるよね?」
そんな会話をしている間に、部室の散らかり具合がさらに気になってきた。
やるなら早いうちに片づけた方がいいのはわかるけど、あまりに物が多すぎて気が滅入る。
「こりゃ、二人だけじゃ無理だな」
瑠璃が溜息交じりに言うと、それを遮るように声が聞こえた。
「では、私も手伝いましょうか」
振り返ると、そこには軍手を着けた聖良会長が立っていた。
「なんで会長がここに?」
「この間来たとき、部室の汚さが目についたので。気になってしまったんですよ」
「生徒会長自ら掃除を……?」
「ええ。他の人には別の仕事を振ってますから。さあ、始めましょう」
問答無用で手渡される軍手とゴミ袋。
「今どき他の部活でも大掃除しているんですよ。ここは……一度もやっていないですよね?」
「そ、それは……」
ぐうの音も出ない。掃除をしようと思ったのも今回が初めてだ。
「では、備品をまとめるついでに部屋全体を綺麗にしましょう」
その言葉とともに、空気がピシャリと凍りついた。
作業が始まると、部室のほぼ全ての物が翔先輩の私物であることが発覚した。
その中に、瑠璃が妙な物を見つける。
「これ、なんかの楽器?」
「いや、それは……。多分、翔先輩の趣味の……何かだよね?」
ツッコミどころが多すぎて深く考えるのも億劫だった。
そして……聖良会長がさらに妙なものを発見する。
「……これは?」
彼女の手にあったのは、男物の下着だった。
「……」
部室に沈黙が訪れる。
「き、汚いから捨てた方がいいですよ!」
「ええ、そうしましょう」
そう言って、聖良会長はどこからか取り出した黒い袋にそれを入れる。
あの袋は一体何なんだろう。……いや、深く聞くのはやめておこう。
「それにしても、ここには色々な物があるんですね」
聖良会長が部室を見渡しながら言う。
「ほとんど翔先輩の私物なんですよ。私たちの物じゃありません」
「でしょうね。彼は部活動を遊び場と勘違いしているようですから」
瑠璃がふと疑問を口にした。
「会長って翔先輩と仲いいんですか?」
「仲がいい……とは思えませんね。むしろ、避けられている気がします」
「それって……気迫のせいじゃ?」
そう思わずにはいられない。
「でも、小学校からずっと同じ学校には通っていますね」
「え、意外。てか、翔先輩がこの学校にいること自体が意外」
「あんな感じですが、頭は良いので。……昔はあんな風ではなかったんですけど」
その言葉に、興味を抱かずにはいられない。
「質問です!」
瑠璃が唐突に手を挙げた。
「会長と翔先輩って、付き合ってるんですか?」
「な、な、なななな何をっ!?」
聖良会長の顔がみるみる赤く染まる。
「いや、なんか面倒見がいいし。どうなんだろうって」
「そんなわけないでしょう!? 彼とはただの友達ですっ!」
その反応は、ただの友達には見えないのだが……。
瑠璃はさらに畳み掛ける。
「へぇ、友達なんですね~。あんなに当たり強いのに」
「そ、それは彼が……私に対してあんな風に接してくるからであって……!」
聖良会長の顔は完全に真っ赤だ。
どうやら、ただの幼馴染ではないらしい。
そんな中、瑠璃が一言。
「あっ、翔先輩。いつからそこに?」
「えっ!?」
振り返る聖良会長だったが、そこには誰もいない。
瑠璃の出まかせだと気づいた瞬間、聖良会長の表情が曇った。
「ふふ……あなた、本当にいい度胸ですね?」
冷たい笑顔を浮かべた会長が瑠璃の首根っこを掴む。
「ちょ、ちょっと待っ――」
そのまま瑠璃は引きずられていき、部室には私一人が残された。
「……バカだなぁ、瑠璃。本当に自業自得だよ」
そう呟きながら、私は一人静かに掃除を続けるのだった。
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