僕だけの横並び

学生作家志望

可能性

こたつの中に入るとじーっと音がする。あったかいから心もなんだか落ち着いてくる。


でも、冷静になった途端に涙が出てきた。


テーブルの上には消しカスと原稿用紙。


文字に指が擦れて黒くなることも、今は全くない。だってまったく書けてないから。


先生に唯一手放しで褒められた作文。


馬鹿だからつい、つけあがって才能があるなんて思った。


ていうか、僕が文章を書くのが好きだったっていうのもあるかな。他の可能性とかを見ることができなかった。


ずっと好きな人を諦められないように、僕もこの可能性をずっと諦められなかった。


保育士になりたいって思った時もあったけど、大学に行って、資格を取らなきゃいけないと考えたら今目の前にある可能性を突き詰めた方がいいんじゃないかと思って、そっちは諦めた。


でも結局、呆れるほどあっという間に終わった。全部夢物語。


賞をとりたいなんて言っても、応募なんてする気力も出なかった。夢を追うやる気すら自分にはもう消えていたんだと思った。


やがて自分の文章が大嫌いになった。


承認欲求だけの、汚い文章。かっこつけ。そんなんじゃなんの意味もない。


本当に伝えたいことはなんなんだろう。やりたいことはなんなんだろう。


もう自分のことがよくわからない。


ネットを見ていると僕と同い年くらいの人たちがみんな成功しているのがやたらと目に入ってきた。


その人たちはきっと誰にも想像ができないほどの努力をしてきたんだろうなって思っていつもいいねだの高評価だの、なんとなく押してみる。


小説だってそうだ。最初は書くことだけで楽しかったのに、いつしか応援とか星の数とかを重要視するようになってた。


数万回視聴されて、数万回高評価もコメントもされて、憧れってなんなんだろう。これが僕のなりたいものなのかな?



それってただ、自分を見てもらいたいだけじゃないのかな。


結果を見てもらいたいんじゃない、自分だけを見てもらいたいんじゃない。


その中身こそ、見てもらいたいものじゃないのか。


もっと感情移入してもらって、誰かの希望になりたくて。共感してもらいたくて、そうやって始めたのに、こんなんじゃダメなのに。


僕だけの僕しかいない僕の横並び


みんな次に行って、僕は未だそこに留まっている。


自分の影が横に並んで列を作った。いったい誰がどこで、いつ進むのか。


それともずっとこのままなのか。


僕が何回も消してきた文字のように、削除した作品のように、永遠に増え続ける、その影。


僕は原稿用紙に向かってペンではなく、消しゴムを持った。

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僕だけの横並び 学生作家志望 @kokoa555

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