第4話
次の日、土曜日だったので俺は全員をファミレスに呼び出した。
見慣れたはずのバイト先の店内。
大人数が座れるボックス席には、異色のメンツが揃っていた。
幼馴染の燈子。義理の妹の美希。同じバイトの明依先輩。
そして、ビデオ通話状態でサウンドオンリーの千夜子。面と向かってはしゃべれないから、通話だけならOKとのことなのでリモート参加。おまえだけ最近過ぎるだろ。
明依先輩はメンツを見てなんの話かわかったみたいだけど、燈子と美希は怪訝な顔をしていた。
「みんなをここに集めたのは、昨日の返事をしようと思って。実は、昨日ここにいる四人に告られて、考えました」
「え? どういうこと?」
呆気に取られた燈子は、まばたきを多くしていた。
「いやいや、ニイ、嘘はやめてよ。おもんないよ?」
呆れた半目で俺を窘める妹。
「マジなんだよ。意味わかんないだろ? 俺もわかってないまま今ここにいる」
「ちょ……ちょっと待って、冬汰くん。三人じゃないの? 四人って」
「あのあと、こいつにも告られたんです」
俺は自分のスマホを指さす。
『ボクは夜に告ったニャ』
「え。誰コイツ。何、ニャって。なんでこいつだけリモートなの?」
『ギャル、怖いニャ……』
「面と向かってじゃないの?」
明依先輩が千夜子の痛いところをつく。
「その声、花村さん、だよね? 授業で当てられて特徴的な声だったから覚えてる」
と、燈子がさっそく正体に気づいてしまう。
『……』
キャラという仮面が剥がされかけて千夜子が黙り込む。
「まーまーまーまー。ともかく、みんなが真剣に俺のことを好きだって、付き合ってほしいって伝えてくれて、めちゃくちゃ悩んだ」
一番悩んだのは、言うまでもなく本命じゃなくていいから付き合いたいって部分だった。
だが、これはドッキリ企画。
どうやってこのメンツを選んだのかはわからないけど、あんなスペシャルな事件が何もなしで起きるわけがない。
俺はそいつらの思い通りにはいかせない。
誰かを選んで、誰かを選ばない――それをオモチャにして遊ぶつもりなんだ。
だったら!
「誰も悲しませたくない。自分勝手だけど、真剣に考えて、そう思うようになった。みんな俺にとって大切な存在で、その……好き、です」
これは紛れもない本音。ドッキリ企画がどうとか関係なく、自分の気持ちと向き合って考えたことだ。
「冬汰」
燈子の化粧っけのない顔が少しゆるむ。
「あ、そ」
素っ気なさそうに言う妹の美希は、ネイルを見つめている。耳がちょっと赤い。
「ふふ、嬉しい」
真正面から俺の言葉を受け取った先輩は、笑顔を咲かせている。
千夜子はだんまりだった。
俺が辿り着いた結論は――。
「俺は全員と付き合うことにした。全員絶対に幸せにしたい」
ドッキリを仕掛けたやつらの鼻を明かす。
誰かを悲しませるという展開を予想していたなら、残念だったな。
コイツ最低だなって冷ややかな目で見られたり、軽蔑するような態度を取られるんだろう。罰ゲームとして、ビンタの一発や二発は食らうかもしれない。
無言の間が続いて、誰も何も言わないから恐る恐る顔を上げる。
すると、燈子が目をうるりとさせて言った。
「うん……ありがと。よろしくね」
ありがと? よろしく? あれネタバレは?
「ニイがマジなら、ウチだって、その……ちょっと嬉しいし、それでいいよ?」
と、美希は言って、俺と目が合うとすぐスマホに逃げた。
「冬汰くん。わたしもおんなじ気持ちだよ。付き合うからには後悔なんてさせないんだから」
女神みたいな幸せな笑顔で先輩は言った。
『マジぃ? 超ハッピーニャ……』
おまえだけなんか軽いな? でも本当に嬉しそうな温度感は伝わってくる。
思っていた反応と違っていたので、こっちが逆に戸惑った。
『四人からなんて、そんなわけないでしょ』とか燈子が言ったり。
『ニイってば、超挙動不審だったじゃん。ウケる』って美希が笑ったり。
『全部ドッキリだよー。ごめんね、騙して』って明依先輩が可愛く謝ったり。
『笑うのを我慢するのに必死だったニャ』ってアニメ声でクスクス千夜子が笑ったり。
仕掛け人という仮面を脱いで昨日からの出来事を面白おかしくイジり倒すくだりが待ってるはずで、罰ゲームでビンタされたり、酷い目にあうんじゃないの?
疑心暗鬼な俺とは裏腹に、燈子は目をうるっとさせて喜んでいて、美希は耳まで真っ赤にして、明依先輩は最上級の女神スマイルで俺を見つめている。
えっ……?
ドッキリじゃ、ない……感じ?
俺は、本当に、本気の告白を昨日四人から受けたってこと?
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