幼馴染&義妹&先輩&ネトフレから同じ日に告られた話

ケンノジ

第1話


「わたしたち、そういうんじゃないかもしれないけど、考えて、ほしい……」


 幼馴染の時田燈子に告られた。好きだと。

 直球で言われた。


 一緒に学校から帰ったその分かれ道でのことだった。

 俺は彼女が言うように『そういんじゃない』関係だと今まで思っていたけど、そんなふうに好意をぶつけられたことは、当然初めてで、正直戸惑ったけど、嬉しさのほうがギリギリ勝った。


「じゃまた」


 俺の無言の時間を断り文句を考えている間だと思ったのか、燈子は逃げるようにして去っていった。逃げるようにというか、返答が怖くて多分逃げた。


 考えてくれないか、と言うのなら、今晩しっかり考えさせてもらおう。


 ポコン、とスマホの音が鳴り、メッセージを受信した。相手はさっき別れたばかりの燈子で、『もし他に好きな子いるなら、わたし二番目でもいいから』と書かれてあった。


「いや、それでいいのかよ」


 まだ分かれ道で一歩も動いていない俺は、スマホにつぶやいた。俺、好きな子いるとかそんな話したことないけどな。フラれないようにするための予防線なのか……?


 よくわからん、と首をかしげながら俺は家に帰った。

 ファミレスのバイトの入り時間まで少しあるので、リビングで適当にくつろいでいると妹の美希が学校から帰ってきた。

 母親の再婚相手の連れ子で、この家にやってきてからもう五年も経つ。


「ただー」


 俺を見つけるなり、適当にただいまの挨拶を放つギャル。金髪に手首にシュシュ。制服のスカートは死ぬほど短い。生意気盛りの中二女子だ。


「おかえり」

「バイトまだー?」

「もうちょいしたら行く」


 お互いノールックでのやりとりも板についてきて、気遣いがほんのかすかに残る、家族に近い空気感の会話だった。


「あんさー」


 あのさ、をわざと崩して言うのは、妹なりの会話の切り出し方だった。


「うんー?」


 ソファに横になったまま、スマホのメッセージ画面を見ながら燈子のことを考えていた。控えめで、真面目で、恋とか愛からは縁遠いと思っていたのに、あんなことを言うなんてなぁ。その相手が俺ってのもびっくりした。


 二番目でもいいって、自分のこと安売りしすぎじゃないか?

 返事は、OK……だよな。付き合ったらどんな感じになるんだろう。手繋いだり、キスしたり? 燈子と? …………全然想像つかん。


「あんさー?」


 俺の反応が適当だったからか、妹は再び仕切り直すように言った。


「んあ? どしたん」


 むくりと起きて妹のほうを見ると、ダイニングの席で足を組んだまま、スマホに目を落としていた。


「ウチらってさぁ……付き合っちゃダメなんだっけ?」

「はぁ?」

「システムと気持ちの話」

「はぁ? システムと気持ちの話?」

「だからさぁ」


 俺がまるで物分かりが悪いかのように、一文字ずつ粒立ててしゃべる妹は、苛立ったような口調のくせに、どこか照れたように唇を尖らせていた。


「付き合ってもいいのか悪いのか、訊いてんの」

「…………法律とかそういうのの話なら、いいんじゃね?」


 漫画かドラマか何かのことだろう。どうせ。血は繋がってないわけだし。


「じゃあウチとニイは付き合ってもいいんだね」

「可能ではある」


 ニイっていうのは兄を崩した彼女なりの呼び方だった。


「じゃあ付き合おう? ウチら」

「ちょと待て。えぇっ……?」

「ウチと付き合うくらいいいでしょ?」


 ウチと付き合うくらいいいでしょ? は? 一言一句理解できん。


「つ、付き合うって、恋人のアレか?」

「他に何があんのさ」

「ちょっと、意味わからん、待って」

「うん、待ったげる」

「美希は、俺のことが好きってこと? 胸キュンのほうの好きってこと?」


 初歩的なことだけど、事情がさっぱりわからないので訊かざるを得ない。


「もう……言わせんの? そういうこと」


 困ったように顔を伏せて、ぽつりとつぶやいた。


「好き。ニイのこと」


 金髪ギャルとはいえ、ウブな反応を見せられると、付き合おうっていう発言はマジだったんだとわかる。


「本気なんだな?」


 美希は頬を染めたままこくん、と黙ってうなずく。


「一日くらい考えていいよ。ニイと一緒にいるの楽しいからさ。もう付き合っちゃおう! ってなった」


 ってなった? なんねえよ。

 照れくさそうに言ってくれるけど、アグレッシブが過ぎるだろ。


「どんくらいマジかっていうと、付き合ってくれるなら本命じゃなくてもいいってくらいマジ」

「なんなんだよそれ」

「あ、もうバイト遅れるよ? 早くしなよ」


 いや、まだあと三〇分くらいのんびりできるんだけど。まあこのままリビングに居続けるのも、なんかお互い気まずいような……。


「そう……だな」と俺はパニックのままリビングを出ていった。


 部屋に入って、鞄を適当に置いて、扉を閉めて天井を見上げる。


「えぇぇぇ……?」


 と、改めて困惑を口にした。まだ事態が吞み込めん。

 妹なりの告白ってことでいいのか……? あいつ、俺のこと好きだったのか。え? いつから? なんで? どうして?


 で、本命じゃなくていいってのは、二番目以降でも構わんってことなのか。燈子も似たようなこと言ってたし、そういうのが流行りなのか?

 燈子に告られてからまだ一時間も経ってないのに。

 全然今までモテたこともないのに、短時間に二人から告られるなんて。死ぬのか、俺。今日明日が俺の命日の可能性あるぞ、これ。



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2025年1月11日 16:00
2025年1月12日 16:00
2025年1月13日 16:00

幼馴染&義妹&先輩&ネトフレから同じ日に告られた話 ケンノジ @kennoji2302

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