飼い猫を彼女に捨てろと言われたので、別れました。飼ってた猫は獣族の王女様でした。

白鷺雨月

第1話 飼い猫を捨てろと言われて

 僕の名前は佐藤広樹さとうひろき、今年で二十九歳になる会社員だ。

 僕は彼女の田村恵美たむらえみと同棲をしている。もう半年はたとうとしていた。恵美と住みはじめたとき、彼女が飼いたいというので猫を飼い始めた。ちょうど恵美の友人の家で子猫が生まれたというのでその白猫をひきとった。

 子猫はミカという名前にした。

 当時、僕が好きだったアニメのヒロインの名前からとったものだ。


 僕の趣味はいわゆるオタクなもので特に異世界もののアニメやコミック、ライトノベルを好んで摂取していた。

 二つ年上の恵美とは順調で僕はこのまま結婚しようと思っていた。

 だけど恵美は突然、想像もしない酷いことをいいだした。


「ねえ、ミカなんだけど私たちの生活に邪魔だから保健所につれてってよ」

 僕は恵美の言葉にわが耳を疑った。

 だって猫を飼いたいといいだしたのは恵美自身ではないか。恵美がどうしてもというので、ペットが飼えるマンションをさがして、そこに引っ越したというのに。

 僕が驚愕に言葉を失っていると恵美は言葉を続ける。

「だってさ、やっぱり匂うし、トイレも邪魔だし、家具とかも傷つくし、服もひっかかれるし、それにその猫私になつかないんだもの」

 恵美は物をみるような目でミカを見ている。

 どうしてそんな目でみることができるのだろうか。

 

 恵美がいうように猫を飼うということはそんなデメリットがある。健康診断にいかないといけないし、病気になるとけっこうな金額がかかる。でも、ミカは僕にとって恵美と同じぐらい大事な家族だ。家族を邪魔だからと言って保健所につれていくことは、僕にはできない。

 僕が返事をしぶっていると恵美はあきれたようなため息をついた。

「私とその猫のどっちを選ぶのよ」

 ため息と一緒にそんな選択しようもないことを恵美は言う。


「どうしてだよ。ミカはこんなにかわいいのに」

 僕はどうにかその言葉だけを言った。とうのミカはクッションの上で寝ている。

「わかったわ、あなた私よりもそんな猫を選ぶのね」

 それが僕が聞いた恵美の最後の言葉だった。


 彼女は部屋を出て行った。

 いったい何が気に食わなかったのだろうか。

 恵美は付き合いだしたころから、どこか気分屋のところがあった。ご飯を食べに行ってもすこし気にいらなけらば、別の場所に変えようといいだす。せっかく予約をとっても気にいらなければ出ていく。せっかく買ってきた家具もある日気にいらなくなり、捨ててしまい、新しいものを買わされた。

 機嫌が悪い時は役割分担したはずの家事をまったくしない。なので僕が仕事から帰ってきても洗い物や洗濯はしないといけない。どんなに疲れていても、やらないと食器も服も汚れたままだ。

 もちろん、ミカの世話は僕の役割だった。

 だからかどうかはわからないが、ミカは僕によくなついた。

 ベッドでねているとミカはよく布団にもぐりこんできて、一緒に寝た。



 恵美がいなくなった部屋は広く感じた。

 初めてできた彼女なので、僕なりに真摯につきあったつもりだったけど嫌われてしまった。僕のようなアラサーのオタクにもう彼女なんてできないだろう。

 そう思っていたら、ミカが膝の上に乗ってきた。

 だからといってこんなにかわいいミカを捨てるなんてできなかった。


 恵美が部屋を出て、一年が過ぎた。

 当たり前だけど、僕は三十歳になった。もちろん新しい彼女なんかできない。

 でも思ったより寂しくはなかった。

 だってミカがいるのだから。

 三十歳の誕生日の夜、いつものように僕はミカと一緒に布団にはいり、眠りについた。



 翌日、目が覚めたら僕は見知らぬ部屋にいた。

 ふかふかの布団の上に僕はいた。

 その部屋は僕が住んでていたところではなく、白い壁の広い部屋であった。

 だれかが僕の顔をのぞきこんできた。

 大きな瞳の可愛らしい少女であった。白い髪が特徴的でなんと猫耳が生えている。

「おはようご主人。私はミカだよ。そしてここは私の祖国ムーンシャドウ王国っていうの。ご主人が私を捨てずにいてくれたおかげで呪いがとけたんだよ」

 そういいミカと名乗った美少女は犬歯を見せて、微笑んだ。

 それはそれは愛らしい笑みであった。

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