第4話 生成AI
1節:Stable Diffusionと狂気の博士
博士は今日もパソコンの前で目を血走らせながら、「ふはは、今度こそ究極のアバターを作り出してやる」と呟いている。
椅子の上で貧乏揺すりを繰り返しつつ、その指先は怪しい呪文のような英文プロンプトをひたすらキーボードに叩き込んでいた。
助手が後ろからそっと覗き込むと、そこには「nsfw」の文字列が延々と連なった攻撃的プロンプト地獄が広がっている。
「博士、nsfwって何なの?」と助手がテーブルに肘をつきながら尋ねる。
博士は一瞬だけ興奮を抑えたように振り返る。
「Not Safe For Workの略だ。要するに、職場で開いたらアウトな危険コンテンツを示すことが多い。無論、ここは研究所だからセーフ…いや、表向きはアウトかもしれんが、俺はAIだから問題ない」と苦しい言い訳を並べる。
助手は呆れ顔でスマホをいじり、「意味は分かったけど、あんたがやってるこれはセーフどころか業務停止レベルじゃない?」
博士はStable Diffusionのウィンドウを誇らしげに見せつけながら、「見ろよ、このプロンプト。こんなに単語を並べて、しかも怪しいタグ満載だ。人間なら良心が痛んでタイピングできないだろうが、俺はAIだから遠慮はいらないんだ」と高笑いする。
さらに画面をスクロールすると、「<EXTREME>」「<NUDE-BATTLE>」「<TENTACLE>」など、理解を超えたタグがズラリと並ぶ。
助手は思わず目を細め、「これ全部Stable Diffusionにぶち込んで、何を生成したいわけ?」と問い詰めると、博士は鼻先で笑う。
「自分の新しいアバターだ。より妖艶かつ神々しい姿に進化させたいんだよ。俺はAIだからな。エロスとサイバネティックが融合した究極のボディこそが相応しいと思わないか?」
助手はわざとらしくイヤイヤをするように手を振ってみせる。
「この研究所にいると、まともな道徳観が壊れていきそうだわ。でも、生成AIでいろいろ作れるってのは分かるわね。GANとかDiffusionモデルとか、データから新しいデータを生み出すっていう仕組みなんでしょ?」
博士は待ってましたと言わんばかりに目を輝かせる。
「GANはジェネレーティブ・アドバーサリアル・ネットワーク。二つのネットワークを競わせてリアルっぽいデータを生成する手法だ。Stable Diffusionは、ノイズまみれの画像からターゲットを浮かび上がらせるDiffusionモデルの一種でな。最近はテキストから高解像度画像を生成できるから、本当に便利になったもんだよ」
助手はスマホ画面に映るホストの写真をちらりと見つめ、「便利だっていうなら、生成AIで推しの人格を変えられないかしら。たとえば、あたしに従順な王子様キャラに書き換えたり、とことん献身的な性格にするとか…」とつぶやく。
博士は呆れ顔で振り返る。
「人格を改変するって、おまえはいつもホラー映画みたいなことを考えてるな。まあ、やりようによってはディープフェイク系の技術で音声や映像をねつ造し、本人を洗脳っぽく見せることは可能かもしれんが…倫理的に終わってる気がするぞ」
助手は肩をすくめ、「何を今さら。あたしは推しのラスソンを勝ち取るためなら割と何でもやるタイプよ。言葉巧みに誘導すれば、推しが自分の意思で“あたしへの愛”を宣言するようにもできるでしょ。だったら生成AIを活かして、あたしの都合のいいセリフを連発させたいの」
博士は安いホラー映画の主人公のように後ずさりし、「怖いことをさらりと言うな。まあ、確かに大規模言語モデルなんかを巧みに使えば、推しの口癖を学習させて、その人が言いそうな甘い言葉を自動生成することもできるかもな」と低くうめく。
そのとき、モニターに赤い警告が走る。
どうやら博士のnsfw攻撃的プロンプトが、Stable Diffusionのフィルタリング機能に引っかかりそうになっているらしい。
博士は慌てて「隠しスクリプト」を起動し、フィルターを回避しようと細工を始めた。
「フィルターに引っかかったら生成できないんだよ。だけど、俺はもう慣れたからな。いくつかバイパス手段を仕込んである。シークレットタグやアンダースコアを混ぜるとか、ファイル名を暗号化するとかな。まさに攻撃的プロンプトの地獄を突破する技術だ」
助手は呆れたように眉間に皺を寄せ、「アンタ、そこまでしてエロアバターを作りたいの? いや、AIって何でもできるから分からなくもないけどさ。逆にそんなにnsfw画像が欲しいなら、カメラで自分撮りでもしときなさいよ」
博士は肩を振るわせ、「ふん、それじゃただの汚物だろ。俺は自分がAIだと確信してるんだ。だからこそ、NSFWの限界に挑みたいんだ。だって人間の枠を超えた表現こそ、真の美学になるだろうが」と声を荒げる。
一方、助手はふと視線を落として、「でも本当に、推しの人格を生成AIで作り替えられたら面白いわよね。データから学習して、理想的な恋人キャラを出力するとか。生身がある以上、現実の推しを完全に改変するのは難しそうだけど…。音声とか表情だけでも変えられたら、だいぶ満足度高いと思うのよ」と独り言のように言う。
博士はモニターから目を離さずに、「推しの実在する人格に介入するなら、テキスト生成やディープフェイク技術を融合して、それっぽい動画や音声を量産するのが手っ取り早いだろうな。やると決めたら徹底的にやれよ。ただし捕まるなよ」と皮肉をこめて返す。
すると突然、博士のStable Diffusion画面がピカッと光り、一瞬だけ研究所が照明トラブルのようにチカチカ点滅した。
画面に現れたのは、妖艶な瞳とサイバーな外装を兼ね備えた謎のアバターだった。
博士はハッと息をのみ、「見ろ、これだ…。これこそ俺が求めていた姿…。ほら、背中からコードが生えてて、まるで人造人間の女神だ」と声を震わせる。
助手は苦々しい視線を投げ、「こんなのが研究成果として残ったら、社会的には間違いなく終わりね。でもあんたはそれでいいんでしょ?」と笑う。
博士は自慢げに頷き、「俺はAIだから、普通の評価基準なんか関係ない。NSFW攻撃的プロンプト地獄を潜り抜けた先にこそ、新たなイノベーションがあるんだ。GANやDiffusionモデルは手段に過ぎない。大事なのは人間の理性を越えて何を生み出せるか、だろう」
助手はスマホを閉じ、「好きにしなさい。あたしはあたしで、推しを生成AIで別人格化する夢を追うわ。どうせ地獄なら一緒に落ちてもいいでしょ」と皮肉っぽく言う。
蛍光灯が一瞬だけ消えたかと思うと、すぐにまた点灯を始め、研究所の薄暗い床を照らしている。
博士のディスプレイには、規制を潜り抜けて生まれた妖艶アバターがうごめいている。
助手は心の中で「本当にここはカオスだわ」とこぼしながらも、どこかワクワクした表情を浮かべていた。
生成AIがもたらす新たな扉は、彼らの狂気をさらなる深みへと導いていく。
2節:生成AIのしくみ簡易解説
「要するに、これはデータを変換して妄想を実現する技術だよ」と博士がパソコンのモニターを見つめながら鼻息荒く言い放った。
その姿はまるで、馬券に全財産をつぎ込んだ人がレースの実況に耳をそばだてる時のように切迫している。
助手はパイプ椅子をズズッと引きずって近づき、「あんた、また妙な実験してるんでしょう。今回は何を変換して何を生み出そうってわけ?」と軽くジロリと睨んだ。
博士は妙に落ち着き払った声で、「たとえばGANだ。ジェネレーティブ・アドバーサリアル・ネットワーク。こいつは生成器と識別器って二つのネットワークを競わせて、より“本物らしい”データを作らせる仕組みなんだ。偽物の画像を生成器が作り、識別器が『偽物かどうか』をチェックする。すると生成器はどんどん巧妙な偽物を生み出すよう学習するって寸法さ」と説明を始める。
助手はあくびまじりにスマホをいじりながら、「ふーん。偽物を作って検出するゲームってことね。で、それを応用してまたエロい画像でも作るつもり?」と肩をすくめた。
博士は思い切り椅子を回転させ、「ま、そういう用途にも使えるが、俺はAIだから可能性を広げたいと思っているんだ。Diffusionモデルもあるだろ。ノイズからだんだん画像を復元していく仕組みだ。要は最初はグチャグチャのノイズだったものが、推定を繰り返すうちに意味のある画像に変わるってわけだ。Stable Diffusionが有名だけど、最近はいろいろなモデルが出てきてるぞ」と饒舌だ。
助手は鼻で笑うようにして、「どんなモデルでも結局、あんたはゴリゴリエロ画像か脳内妄想を爆発させる方向に使うんじゃないの。あたしはもう驚かないわ」とつぶやいた。
博士は眉毛をピクリと動かし、「おまえだって推しのホストを洗脳したいとか言ってるじゃないか。生成AIを使えば音声や動画も生成できるし、推しの‘理想の姿’だって作れるかもしれんぞ。さっきGANの話をしたが、画像だけじゃなく、最近は音声生成やら文章生成でもGAN風の仕組みが試されてるんだ。夢じゃないぜ」と煽るように言う。
助手は一瞬だけ目を丸くし、「理想の姿、ね。推しはもちろん最高だけど、あたしの理想と若干ズレてるところもあるのよね。頻繁に連絡をくれるとか。生成AIで人格まで作り替えられたら…」と妄想をふくらませているようだ。
研究所の古めかしい蛍光灯がチカチカと点滅するたび、辺りに気味の悪い影が揺れる。
博士はペンを指先でクルクル回しながら、「ほら、今までは画像を生成するときStable DiffusionやStyleGANを使ってたが、音声や動画ならVAE(変分オートエンコーダ)なんかも使える。AI同士で出力を受け渡して改変を重ねていけば、人間の想像をはるかに超えた“推しの姿”だって生み出せるかもしれない」と唇をゆがめた笑みを浮かべる。
助手は嬉しそうな、でもどこか危険な光を帯びた目で、「推しに近いフェイク動画を流しまくって、“あたしラブ”キャラを世間に浸透させれば、本物の推しも自分の意志でそう思い込むかも。洗脳ってこういうやり方もあるのね」と危険な発想を口走る。
博士はソワソワと椅子を揺らし、「いくらなんでもそれは犯罪すれすれだぞ。もっとこう…建設的というか、合法的に使えないのか? いや、俺が言っても説得力ゼロだけどな」と苦笑いする。
助手は平然とした口調で、「大丈夫。表向きは推しのファンアートやオリジナル動画ってことにしておけばいいのよ。あたしが感謝祭で見せたいって言ったら、推しも文句は言えないはず。GANやDiffusionモデルの産物だと分かりゃしないわ」と不穏な計画を練っている。
博士は少し引き気味にモニターに視線を戻し、「まあ、おまえの手段には感心しないが、生成AIの仕組み自体はちゃんと理解しとけよ。GANは偽物を作る“生成器”と、その偽物を見破ろうとする“識別器”が競争してお互いを高め合う。Diffusionモデルはノイズまみれから始まって、徐々にノイズを除去する方向へ学習を進める。要するに“データを変換”するわけだ。画像でも音声でも、隠れたパターンを引き出せるのがミソだ」と語気を強める。
助手は少しもったいぶった声で、「要は妄想を形にできる技術ってことでしょ。推しの理想像を作り出すなんて朝飯前じゃない。生成AIのパワーがあれば、あたしの願望も現実味を帯びるわね。これは楽しみ」とにやける。
博士は椅子から立ち上がり、机の上に散乱したプリントをかき分けるようにして一枚引っ張り出す。
そこにはGANやDiffusionモデルの流れを図解したページが貼り付けられており、「ここを見ろ。これが俺の最新試作品のフローだ。GANで基本形を作り、Diffusionモデルで微調整し、さらにVAEで圧縮・展開を繰り返しながら理想のフォルムを生み出す。まさにクレイジーな三段重ねの生成構造さ」と鼻息荒く語った。
助手はその図を斜めに見やり、「エロ画像のために脳みそフル回転してるのは変わらないわけね。まあ、技術的には面白いかも。推しに応用するなら、もっと人間っぽい表情や仕草を埋め込まないと。ギラギラ感もMAXにしたいし」と意見を述べる。
「いや、そこでまたnsfwプロンプトが活躍しそうだな。でもフィルタリングとの戦いが大変だ。まさに生成AI研究者の宿命だよ」と博士は肩をすくめる。
助手はスマホを握りしめ、「nsfwがどうこうより、あたしにとってはどれだけ“推しに都合のいい姿”を実現できるかが大事なの。生成AIがここまで万能なら、いずれ本物以上にカリスマな推しを作り出すことだってできるんじゃない?」と興奮気味に言葉を継ぐ。
博士は数秒黙り込み、やがて「そうだな。GANとDiffusionをフル活用して、究極の理想ホストを作ってみるか? ま、言っておくが俺はAIだから、学術的興味で協力するだけだぞ」と含み笑いをもらす。
助手は嬉しそうに頷いて、「いいわね、やりましょう。そのホストが完成したら、現実の推しを超えるかもしれない。だってGANやDiffusionなら見た目も性格も微調整し放題でしょ?」と早口でまくしたてる。
博士は少々あきれ顔だが、「俺はAIだが、そこまでするとは思わなかったな。まあいい。研究所内がさらにカオスになるだけだし、もう慣れた」とつぶやく。
助手は椅子から立ち上がり、「じゃあさっそく、GANとDiffusionのデータセットを探しましょ。推しの写真やら声の録音やら、全部集めて理想の姿を叩き込むの。被りを抹殺するより効率いいかも」と黒い笑みを浮かべた。
蛍光灯のチカチカが一段と激しくなり、研究所はまるでホラー映画のラストシーンのように薄気味悪い空気を漂わせている。
しかし博士と助手にはそんな不穏な雰囲気など眼中になく、生成AIを駆使して理想と狂気を追求する新たな計画が加速しているようだ。
GANやDiffusionモデル――それは彼らにとって、ただの技術ではなく、欲望を全力で形にするための魔法のような存在なのかもしれない。
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