二話 チャット
「あいつがこんな美少女なワケかあるかーー!」
「本当だって! ちょっと見た目は変わったけどオレだよ!」
「変わりすぎだわ、身長まで違うぞ。コスプレじゃないな……まさか誘拐⁉ こんないたいけな女の子をあいつ……」
オレ信用ねー。
「大丈夫? 変なことされなかった? お姉さんに君の名前を教えてほしいな」
姉ちゃんは少しかがんでオレに目線を合わせた。
「いやマジでオレ、
「マジで?」
「朝起きたら女の子になってたなんて……」
説明にかなり手間取った。そりゃそうだよな。弟が妹になってたなんてすぐに信じられるわけがない。姉ちゃんが毎日ぬいぐるみに囲まれて寝てることを言うと、顔を赤くしながら信じてくれた。ついでに見た目は変化の術みたいなものがあると言っておいた。
「学校行ってるときは何とかごまかせてたから、ほかの人にばれないように協力してほしい」
まだ姉ちゃん以外にはばれていないはずだ。油断しなければこれからも大丈夫なはず。
「わかった。今度身長に合う服一緒に買いに行こう」
「おっけ、ってえ? 聞いてないけど」
なんだか嫌な予感がした。
あの葉っぱを手に持ち、なんとかなれーと強く思うと見た目が変わることがわかった。オレはタヌキか。
葉っぱがオレの近くにない場合、やはり変身は解けた。あぶねー。今日一日スマホを肌身離さず持っててよかったー! 姉ちゃんにはばれたが。
気を取り直して適当なゲームでもやろうと思う。最近今日はまだ時間が早いはずなのに、いつもチャットをするネトゲ仲間二人がもういた。こいつら学生かニートか?
『こんちゃ』
テキストチャットで挨拶をする。
『うっす』
『ナカムラきた』
ナカムラとはオレのゲーマータグだ。単純だが結構お気に入り。
ちなみにこのグループは6人で、多分全員男。いや、オレ入れると一人だけいるのか。まあいろんなゲームをよく一緒にやる仲良しグループだ。
『お前らこんな時間ニートかよ』
『うるせー黙れ』
『今日は仕事休みー』
片方はニートか。
『今日なんか調子悪い?』
『かも』
手が縮んでキーボードを操作する感覚が変わっている。少しやりにくいなあ。
そんな会話をしながら最近仲間の中ではやっているMMORPGで遊んでいたところ、トイレに行きたくなった。学校でも男子トイレと女子トイレどちらなのか少し迷った。戻ってくるとチャットが更新されている。
『そういえばナカムラ、マイク買ったの?』
『ちょっといいやつ買ったぜ』
『よし。ボイチャ入ろう』
今までオレはマイクがなかったからミュート勢だった。性別が変わった衝撃が大きすぎて買ったマイクが昨日届いたのを忘れてたようだ。ガサゴソとマイクの箱を開けて取り出し、パソコンと接続する。
朝から女の子になっちゃったが、あの葉っぱのおかげで声は元のオレのように聞こえるはず。問題ない。
ミュートを解除し、あー、と声を出すと……。
「待って今の誰?」
「女の子の声した?」
「えっと……」
「もしかしてナカムラ?」
「妹さんだったりする?」
待って嘘、今変身解けてる?ちょっとトイレで離れただけなのに、そんなBluetoothみたいな。てか誰が妹じゃ。
「いやナカムラ本人だって」
「ナカムラ女の子まじか」
「チャットだとあんなんなのに」
「あんなんとはなんだ」
「今世紀最大の驚きだわ」
「俺も」
まあ言ってなかったしな。当時は男だし。
「とりあえず素材狩りでもいく?」
「そうしよう」
あの後ゲームを続けていたところ、いつものメンバーが六人とも揃った。しっかり全員、まさかナカムラ女の子だったとは、って驚いてた。おい、もしオレが心から女の子だったらなんか失礼だろ。
それと、オレ自身が驚いたことがある。オレ以外にもう一人ミュート勢がいたのだが、DMが来てその人も女性だったことが分かった。
「周りの人皆男の人かと思ってボイチャは遠慮しててね~。ナカムラちゃんが同じ女性でよかった!」
「私も仲間がいて心強いよ。ミルチさんも高校生だし」
何気に初めての女性とボイチャだ。相手からは同性と思われてるけど。それと、ボイスチャットでは私というようにしている。今まで男だと思われているだけでも十分なのに、さすがにオレっ娘はキャラが濃すぎるって。
「あのグループ、高校生の人もまあまあいるからね。というかナカムラちゃん本当に高校生?」
「一応高校生だけど」
「ロリボすぎる……」
自分では自分の声はわからないもんだけど、オレの声そうやって聞こえるんだ。今知ったぞ。
「ロリボとはなんだ」
「ナカムラちゃんの声癒されるな~」
褒められて口角があがった。オレ男だけど。心が体に影響されたのか? 怖すぎる。
「二人でこの後ゲームする?」
初めて女性にゲーム誘われたぞ! 女の子になってよかったー。よくねー。
時計を見るともうすぐ夕飯の時間だった。今日は親の帰りが遅いので、姉ちゃんがご飯を作ってくれる。
「今からは無理かな。そろそろ落ちるよ」
「じゃーねー」
姉ちゃんは高校二年生で、同じ高校に通っている。大学生になったら一人暮らしを始めるそうだ。こうやってご飯を作るのも一人暮らしのための修行らしい。ちなみにオレは高校一年生。来年は姉ちゃんが受験生となり、オレがご飯を作ることになるんだろう。
前までは姉ちゃんよりも身長が高く、見下ろす形になっていたが、今は少し見上げている。はたから見ると目線があっていないんだろうな。
「ほーい、できた。運んで~」
「おっけー」
ご飯を机の上に並べて食べる。結構おいしい。
「
パクパクと食べていると、そんなことを言われた。
「解いたけど」
「やっぱり元の見た目からかけ離れてるね」
「まあ髪色違うし」
「しかもかわいい。前よりも表情コロコロ変わるようになったし」
そんな変化もあったのか。性別が変わっただけかと思ったら、行動もそっちに引っ張られているのかもしれない。かわいいって言われて自然とニコってしていたのに気づき、慌てて直す。
「てことで明日の土曜日、確か暇だったでしょ? 服を買いに行こう」
特に予定がなかったオレは姉という権力者に逆らうことができなかった。今度って言っていたはずだけど明日なんて。
確かにサイズが合う服はないから、丁度よくはあるが。
「とびっきりかわいい服も買っちゃおう!」
いったいどうされちゃうんだ⁉
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