TSしたけどバレてないらしい
りりょくちゃ
一話 変身
背中までとどく白い髪。その少女の瞳は紅く、見た目はかなりかわいい。
そんな美少女がスマホの内カメに写っていた。
朝起きたら美少女になっていたぜ。
目が覚めてベッドから降りようとしたときに、身長が縮んでいることに気が付いた。髪の毛に重さを感じ、まさか一夜にして伸びたのかと思ってスマホのカメラを見ると、美少女がいた。スマホの顔認証が反応せず、おかしいと思ったらこれだ。
やべえよ。これからどうすればいいんだよ。
今日は学校があるが、行けるわけない。病院は突然女の子になりましたって患者に対応してくれるのだろうか。家族にはどう説明しよう。
スマホの中の少女の表情が曇る。
その時一階から大きな声が聞こえた。
「
母さんだ。声めっちゃデカい。いつもは返事をするが、声が変わってるから今日はできない。
朝起きたら女の子になっていたなんて、面と向かって説明するしかない。変な疑いを掛けられてもゴメンだ。意を決して階段を下り、一階の扉の前に立つ。
(何とかなってくれ~~‼)
そう思いながら扉を開けると、いつも通り父さん、母さん、姉ちゃんがいた。母さんは朝食の準備をし、父さんはコーヒーを淹れている。姉ちゃんは眠そうな表情でテレビを見ていた。
母さんと目が合った。
「お、おはよう……」
自分の家なのにひどく緊張しながら声を出す。声が高い。どうしたら性別が変わったなんて説明できるだろうか。
「あ、おはよう蒼空。起きてたんだったら返事くらいしなさい」
そう言って注意した母さんは、いつもと変わらない様子だった。
ちょっと待てよ。オレが女の子になっちゃったのに、なんも反応がないぞ⁉
これはあれか? 全部家族によって仕組まれていたのか⁉ それとも元からオレが女だったみたいな風になってるのか⁉
他の二人にも挨拶をして椅子に座るが、二人とも特に驚いた様子はなかった。姿が変わってもオレだと認識してくれるだけ状況はマシなのかもしれない。
むしゃむしゃと朝食を摂る。口が小さいから一度にたくさん食べられない。身長が縮んでいるから皆が大きく見える。というか部屋全体が大きい。
「ごちそうさまでした」
食事を終え、部屋に戻る。体が小さくなったからか、いつもよりおなかいっぱいに感じる。
「学校いってみるか」
あの様子だと学校に行っても特に気にされないだろう。何なら行かないと仮病と言われそうだ。
パジャマから男子用の制服に着替える。身長に対して服が大きいのでブカブカだ。ベルトを一番きつく締めても余裕があった。まあズボンが落ちる様子はなかったのでいいが。
改めてスマホを見る。そこにはやっぱり美少女が写って……いない⁉
見慣れた自分の顔だ。さっきまでのは夢だった?
いや、変わらず服はブカブカで、あーあーと声を出しても高いままだ。何より後ろの髪の毛の感覚がしっかりとある。
「一体何なんだ……」
困惑しながらも支度をし、いってきまーすと言って家を出て自転車で通学路を進む。サドルは下げた。
今の状況を整理するとこうだ。オレは朝起きると女の子になっていたが、家族は気にしていなかった。スマホのカメラに美少女姿のオレが写っていたのは確かなので、性別が変わったのは間違いじゃないはず。自分自身の感覚としても体は変化している。
つまり……どこかのタイミングで周りから見た見た目が元のオレに変化していたのかもしれない。
「変化の術みたいな?」
普段通りの生活はできるかもしれないが、不便も多い。一刻も早く元に戻る方法を探さなくては!
「おはよ~」
学校の教室に入ると友達の竹本、タケちゃんから挨拶されたので、おはよ~と返す。
やべえ。タケちゃんデカい。同じくらいの身長だったはずが、見上げるほどになっている。
「昨日さぁ、限定ガチャ三十連ででたんだよね」
「お、おう」
「あれ、なんでそんなに見上げてんの」
「いや、なんでもない」
今オレはタケちゃんを上を向いて見ている。オレの認識では顔を見て話してるが、周りから見ると頭上をみてるように見えるのか!
この感覚に慣れないとオレが美少女になったとバレてしまう!
そこが気になってタケちゃんの話はあまり頭に入ってこなかった。
「帰りどっか寄ってく?」
時は過ぎて放課後。今日一日を何とかやり終えた。
「ホントごめん! 今日はちょっと遠慮させて」
タケちゃんに誘われたが、こっちは女の子になって初日。バレないようにとずっと神経を使って疲れてしまった。帰って休みたい。
「そっかじゃーなー!」
「そんじゃー」
タケちゃんに別れを告げて帰路に就く。
自転車を漕いでると、体が変化したのにまったくバランスだとか体力だとかが問題ないことに気づく。むしろ前より調子がいい。
不便ではないからいいが、普通逆じゃないのか?
「ただいまー」
そんなことを考えながら家に着き、玄関を開けるとまだ皆帰っていないようだ。うちの両親は共働きで、仕事が忙しい時期は二人とも帰ってくるのが遅くなったりする。今日もそうだ。
洗面所で背伸びをしながら手を洗う。鏡には元のオレが写っていた。
階段を上っているときガタッと音がした。
「オレのスマホがーー!」
マジか。今日は厄日に違いない。スマホを落としてしまった。
服がブカブカだったためポケットから落ちてしまったようだ。自分の背丈にあった服も新しく買わなければいけない。しかし今の自分に合ったサイズの服を着た場合、周りから見たらどんな風になるのだろうか。そもそもそんなサイズの服を元の自分の見た目で買いに行けるのか?
スマホ本体に問題がないことを確かめるためにカバーを外すと、中に一枚の葉っぱが入っていた。
「なんだこれ」
緑色でスマホカバーにぴったり入る大きさの葉っぱだ。結構な時間入っていたはずだがシナシナなっておらず、鮮度が高いように見えた。
オレはこんなもの入れた覚えがない。めっちゃ怖い。誰かがオレのスマホにこっそり入れたのか? 今日はどうもおかしなことが続く。
自分の部屋に戻り、着替える。現実逃避のために今日はずっとゲームでもしてよう。葉っぱは部屋のごみ箱に捨ててしまった。
飲み物を取ろうと一階に行き、冷蔵庫を開けていると姉ちゃんの声がした。
「ただいまー」
「おかえりー」
どうやら姉ちゃんも寄り道せずに帰ってきたらしい。普段は友達と駄弁って帰りが遅くなることが多いのに珍しい。何か予定でもあるのだろうか。リビングに入ってきた姉ちゃんと目が合う。
「だ、誰?え、女の子?」
今オレのこと見て誰って言った? しかも女の子って。考えたくないけどもしかして……。
「いやオレ。蒼空だけど」
「あいつがこんな美少女なワケかあるかーー!」
最悪だ。変化の術は解けてしまっているらしい。
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