第28話 激闘の果て



 文字通りの乾坤一擲。命を賭けた、起死回生の一手。



 それしか、魔人ヴィネの放った魔力の奔流を止める手段はない。



 ひび割れていた魔法障壁が完全に砕け散ると、ヴィネの魔力の奔流は無数の黒い針が束となり、俺の肉体を貫こうとする。



 皮膚を刺す激痛に思わず歯を食いしばる。



 脳裏には「死」という二文字が明確に浮かび上がった。



「その程度か! 神々戎斗!」



「うるせぇ、うるせぇ! うるせぇんだよっ! クソがっ! 俺がこれくらいで死ぬとでも思ってんのかっ!」



 ここで終わるわけにはいかない。絶対に魔人ヴィネを喰って、最強の力を得てやる! 



 覚悟を決めた俺は、倒した魔物が持っていた【自爆】スキルを発動させる。



「魔人ヴィネ! 俺の覚悟を喰らいやがれっ!」



 これまで魔物たちから奪ってきた全てのスキルの力を、【自爆】スキルに凝縮する。



 俺の持つ【自己再生】以外のあらゆるスキルの力が、【自爆】スキルの作り出した眩しい光の球に取り込まれていく。



 どんどんと輝きを増し、大きくなっていく光の球は、俺の命の輝きだった。



 俺の命を注ぎ込んで作った光の球は、魔人ヴィネの放つ無数の黒い針に変化した魔力の奔流すら取り込み始めた。



「うぬっ! 我の力すら吸うのか!?」



 魔人ヴィネの力まで吸い込み始めた!? 自爆スキルに収奪スキルの力が乗ってるのか……。



 光の球はドンドンとデカくなる速度を上げていく。



 その瞬間、俺の身体から金色のオーラが迸った。



 俺を包んだ金色の光は、清浄な気配をまとっており、神々しさを感じるものだった。



 どうなってやがるんだ……。これ……。



 金色の光に包まれ、全身を駆け巡る高揚感に包まれた。



「その光……。お前、まさか……」



 金色の光に包まれた俺を見た魔人ヴィネは明らかに動揺した。その表情には、僅かながら焦りの色が浮かんでいるのが見て取れた。



 身体を包んだ金色の光が、大きくなった光の球も包んでいく。



 俺は突き出した人差し指をヴィネに向け、自爆スキルの発動対象に選択した。



「これが俺の全力だっ!」



 光の球が、ヴィネの魔力の奔流を吸いつくしながらゆっくりと動き出す。



 ジリジリと動きながら大きくなり続け、近づいていった。



 その光の球の行方を見守り続けてるが、俺の身体からは激痛が発生し、全身から血が噴き出していた。



 あと少し、あと少しだ! 耐えろ! 俺の身体! まだ、あいつを倒せてねぇ!



 ボタボタと垂れる血を気にする余裕はない。



 命が尽きかけるたび、最後まで残した【自己再生(大)】の力で、意識を繋ぎとめている。



 光の球は魔人ヴィネの直前にまで迫った。



「爆ぜろ!」



 俺の声に反応した光の球は、無数の小さな光の玉に分かれ、次々に魔人ヴィネの身体に向かって放たれた。



「ぬぐぅうううううううっ! ニンゲンめぇえええええっ!」



 無数の光の玉に打ちのめされた魔人ヴィネの鎧兜が砕け散っていく。それでも、残った光の玉は岩のようなヴィネの身体にぶつかっていった。



 何千、何万の光の玉が魔人ヴィネの身体を打ちのめしたことで、剣を取り落とした。



 同時に【自爆】スキルに取り込まれていたスキルたちが、俺の身体に戻ってくる。



「ぶるわぁあああああっ! ゴフッ! ゴフッ! カハッ! 神々戎斗ぉおおおおおっ!」



 ボロボロの身体になった魔人ヴィネが膝を突き、両手を地面に突くと、大量の血を口から吐き出した。



 満身創痍という言葉が当てはまるのは、こっちも同じだった。



 血が足りねぇ……。目がかすみやがる……。けど、この機会は逃せねぇ! 動け、俺の身体!



【自爆】スキルの影響で、ボロボロの身体に鞭を打ち、俺は稲妻の如き速さで攻勢に出る。



 いってぇええええっ! クソがよっ! 身体が千切れ飛びそうだぜ!



 足を踏みしめた地面が僅かに陥没するほどの力で、魔人ヴィネとの距離を一気に詰めた。



 魔人ヴィネの目が大きく見開かれるのが見えた。俺の動きに全く反応できていない。



 落ちていた魔剣を拾い上げると、距離がゼロになった瞬間、その切っ先を魔人ヴィネの喉元に突きつけた。



「俺の勝ちだな……!」



「ぬかせ! お前に我を倒す力は残っておるま――」



 魔剣が肉を断ち切る鈍い音と、飛び散る鮮血が、闘技場に生々しい匂いを撒き散らす。



 俺は、まず魔人ヴィネの右腕を断ち落とした。



「がぁあああっ! 我の腕がっ!」



「ボロボロだろうが、お前を倒すくらいの力は残してるさ!」



 今度は左腕を断ち切ってやった。



「がぁああああ!! ヤメロ!」



 両腕を失った魔人ヴィネが、地面を這うように進む。



 俺は容赦なく攻撃を続けた。



 左足、右足と、次々に奴の四肢を切り落としていった。



 まるで人形の関節を外していくかのように、正確に、そして容赦なく、やってやった。



 四肢が斬り落とされるたび、魔人ヴィネの絶叫が闘技場に木霊する。



 かつて、屈辱を味わわされた俺と同じ姿にしてやろうという、仄暗い感情が俺の行動をエスカレートさせていく。



 這うこともできなくなった魔人ヴィネの顔は、恐怖に歪んでいた。



 当然だろう。ついこないだまで、優位に立っていたと思ってた自分が、立場を逆転されたのだから。



「我の負けだ。負けでいい。頼む。命は――ひっ!」



「黙ってろ。雑魚。お前の声は、俺の傷に障る」



 四肢を失い、地に伏した魔人ヴィネは、もはや抵抗する力を持たない無力な者に成り果てていた。



 かつての威勢は見る影もなく、今はただ、自らの命を失わないよう恐怖に震えているだけの雑魚だった。

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