帰りたいらしい
磁石もどき
01
見慣れた部屋は散らかっている。キーボードにはホコリが溜まり、大きなマウスパッドの上には空き缶が整列している。モニターの光が目にうるさく、目の奥が少し痛くなる。
「帰りたい」
意味のわからない独り言がまた出てきた。自分は、どこへ帰りたいというのだろう。それも家の中にいるというのに。分からない。でも、なんというか、感情的には確かに帰りたいと思っている。だから、なにか別の場所に帰りたいのではないだろうかと思う時だってある。
デスクトップに乱雑に置かれたフォルダ。目についた一つをなんとはなしに開く。適当につけたタイトルは、中に何が入っているかまるで分からない。日付は3年も前のもの。もしかしたら、過去に帰りたいのだろうか。フォルダをクリックし、顔を顰めた。中からは要るのか要らないのか分からないメモだのなんだので溢れていた。すぐにフォルダを閉じ、適当に検索ページを開くことにした。
マウスのカチカチという音、キーボードがカチャカチャという音。軽いこの音が堪らなく好きだ。そういえば、小学校の頃からそうだったな……と、ほんの少し過去に帰ってみたが。それはやっぱりあの独り言が求めているものとは思えなかった。
「帰りたい 家にいるのに」だなんて検索する始末。調べれば「心の落ち着ける場所にはいないのだ」みたいな結果が返ってきた。それを間に受けてみて、勝手に悲しくなっていた。自室をぐるりと見渡す。そこには自分の好きな物しかない。好きな本に好きな服、好きなCDに好きなゲーム。たまに生活に必要なものもあるがそれは仕方なしにして、全部頭に「好きな」が着くものしかないはずなのだ。なのに、そんな最高な空間なのに自分の心は落ち着くことが出来ていないのか。まだまだ、何かを求めているというのだろうか。そう思うと自分が酷くきたないものに思えた。背もたれによっかかり、天井を見上げる。
なんて、何してんだか
心の中で自分を嘲った。なんか全部の行動が途端に気持ち悪くなった。机の上に並んだ空き缶を手に抱えて、キッチンへ向かう。蛇口から水を出し、空き缶をゆすいだ。キンキンに冷えた手をタオルで拭いて、手をポッケの中に突っ込む。結局何も分からなかったなと、壁にかかっている時計に目をやる。既にてっぺんを通り過ぎている。無駄な時間を過ごしたな。そんな声が聞こえた気がした。
帰りたいらしい 磁石もどき @jisha9m0d0k1
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