第5話 新たな客
次の日、明美は新しく生まれ変わったジャケットを着て、いつもの店を訪れた。店内には、いつもと変わらない空気が流れていた。誰も、山田がいないことに気づいていないようだった。
しかし、三面鏡だけは知っていた。左の鏡に映る山田の苦悶の表情、中央の鏡に映る空虚な店内、右の鏡に映る次なる獲物の姿を。
「素敵なお色直しですね」
接客した若い女性店員が感嘆の声を上げる。彼女の名札には「佐藤」と書かれていた。整った顔立ちで、山田と同じように、どこか特別な雰囲気を持っていた。その肌の質感は、かつての明美に似ていた。
「ありがとう。特別な方法で染め直したの」
明美は微笑んだ。ジャケットが小刻みに震える。その震えは、佐藤の体にも伝わっているようだった。彼女の瞳が、一瞬だけ曇る。その曇りは、明美がかつて鏡に映した表情と同じ。
「このジャケット、触ってみる?」
佐藤は誘われるままに、おずおずと手を伸ばした。生地に触れた瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれた。指先から、異様な温かさが伝わってくる。生きているような、脈打つような感触。そして、その中から聞こえてくる山田の声。
「素敵でしょう?これが永遠の美よ」
明美の声が、かつて彼女に囁きかけられた言葉と重なる。
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