フルーツたっぷり牛乳ゼリー

 祖母は農協へ行くのが好きだったと思う。なぜなら農協の製品をよく試していたからだ。近所のおばあちゃん同士で製品を買ってアレンジし、『〇〇さんから教えてもらってね』と教え合うことを楽しそうにしていた。


 そんな中、農協の商品で、牛乳で作るゼリーのもとなるものがあったらしい。ある日、学校から帰ってきたら、おやつにゼリーが登場してきたのだ。


 最初は真っ白のゼリーを作った祖母。平らなバットの中に流し込まれた牛乳が固まっている。牛乳が苦手な私は思わず顔をしかめた。


「うっ……牛乳の味がする」


「そうか。ダメか」


 祖母はちょっとがっかりしていた。今、思えば、私は好き嫌いの多い、めんどくさい子どもだったと思う。せっかく作ってくれたのに、申し訳ないことをしてきたと思う。


 不評だったせいか、その後、コーヒーゼリーになったり、透明なゼリーになったりしたので、私は安心していた。


 しかし、ある日、学校から帰ると祖母がミカンの缶詰を手にしていた。


「今日のおやつ、ミカンの缶詰なの?」


 缶詰ミカン、私は好きだよ!とうれしくなっていたが、違う違うと笑う祖母。そしてそのミカンを私の嫌いな白い牛乳ゼリーにいれたのだった。


「ミカンーー!?」


「ミカンだけじゃなくて、今、イチゴや桃缶もいれるわ」


 次々と私の好きなものを嫌いなものに投入していく祖母。このおやつは食べれないよ!と私が絶望していると、祖母は固まるまで待ってと冷蔵庫にしまった。


 絶対私は食べないよ。食べたとしても白いゼリーから果物をとって食べてやろうそんな凶暴なことを考えていた。私が嫌だって言ってるのに牛乳ゼリーをまた作った祖母にも、なんとなく腹立たしく思っていた。


 そのゼリーは固まると、夕食後のデザートにでてきたのだ。祖母はそれをバットの中で四角くい形に包丁で切っていく。私にも皿にいれてくれ、銀色の小さなスプーンを渡してくれる。じっと見るとプルプル揺れる白いゼリーの中にミカン、モモ、イチゴが埋まっている。


 姉妹たちは美味しい!と幸せそうに食べている。みんな牛乳好きだもんねとややイライラしつつ、私はミカンだけ食べようとする。少しゼリーがついていたが、そこは大雑把な性格ゆえ、気にせず口にいれた。


 プルリと揺れるゼリーと甘くて酸味があり、柑橘の香りがする。あれ?牛乳臭くないかもしれない。


 なんと!果物の香りに消されていたのだ。食感がツルリとしているゼリーと好きな果物を組み合わせて、スルスルと食べれた。


 帰ってきてから、牛乳ゼリーにがっかりしていたのに、食べたらすっかりゼリーの虜になってしまった。おかわり!と私も他の姉妹に負けじと二個目を食べた。大好評となり、祖母の定番のおやつにランクインすることになった。『〇〇さんから果物入れたら美味しいって聞いたんやよ』と、好き嫌いの多い私にどうだ!とばかりに、ニヤリと笑う祖母。


 牛乳たっぷり、フルーツたっぷりのゼリー。牛乳嫌いな孫のために他の人から聞いて作ってくれたのかもしれない。


 ちなみに牛乳があまり好きではない我が子にフルーツだけ白いゼリーからとられて食べられ、『白いゼリーはママにあげるよ』ということをされた私なのだった。


 

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