大好きな貴方だから
のりぬるのれん
「私」
5歳になったばかりの頃、父親が交通事故で亡くなった。私を庇って高齢者ドライバーにはねられた。お葬式が終わって1週間後、母は買い物に出かけると言って二度と帰って来なかった。鍵をかけられていたため、何もできなかった。冷蔵庫にも両親の部屋にも食べ物はなく、ベランダを開けられるほどの力はなかった。深夜2時になった頃、覚悟を決めた。最後の力を振り絞って椅子を運び、よじ登ってベランダのロックを外そうとした。バランスが悪かったからか、頭を思い切り地面にぶつけてしまった。泣こうとなんてしていないのに、涙が溢れて止まらなくなってしまった。その瞬間、新しい私が生まれた。そこからの記憶はなく、気がつくとおばあちゃんに抱きしめられていた。そこから時折、あの時の私が出てくるようになった。いわゆる二重人格というものだろう。かっこいい私はいつも泣きたくなった時に守ってくれた。すごく温かかった。
おじいちゃんとおばあちゃんの家で暮らすことになった私は、心配をかけたくなくて、いい子になろうとした。家事もたくさんしたし、勉強も頑張った。でも、時が進むたびにかっこいい私が出てくる頻度が増えた。そして、ひとつのノートでやり取りをするようになった。かっこいい私のことを守(まもり)と呼ぶことにした。いつでも一番に私は守に相談するようになった。
それから5年後、お母さんが遺体として見つかった。そこで私は目を背けたくなるようなことを知った。5年前、私が育ったアパートの隣人は長年見つかっていなかった殺人鬼だったそうだ。その隣人の部屋に灰になった母がいたらしい。捕まった途端、隣の部屋にいた女の子に会いたいと言って聞かなかったらしい。とても嫌な予感がした。おじいちゃんとおばあちゃんは止めたけど、私は面会室へと向かった。
「大きくなったね、お嬢さん」
私が会ったそれは殺人鬼だなんて思えないほど優しい笑顔を見せた。
「両親のこと…ですか」
「どちらかと言うと…僕の話になってしまいそうだな。まぁ、最後まで聞いてくれ」
彼はまた笑顔を見せた。
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