第18話 魔族と魔素と神授式
「女将さん!町の人たちに協力してもらって町の中を探してください!」
「いいけど……お兄さん、ダレンって呼ばれてたけど……あのダレン様かい?」
「そうです!でもそれは後で!今はクレアを優先しましょう!!」
「……分かった!」
「僕たちは万が一に備えて町の外を探します!もし町中で保護したら半鐘の音やかがり火とか松明の明かりで教えてください!多分この後の時間帯だと暗くて狼煙は見えない!!」
「はいよ!!ほら、坊主も行くよ!!クレアって子の特徴を町のみんなに教えておくれ!!」
宿屋の女将は質問したいことが多くあったが、ダレンの気迫に押されてそれらを飲み込み孤児の少年を連れて出ていく。
ダレンはこの時、致し方ないミスをしてしまう。それは、宿屋の女将と少年の誤解を解かなかったこと。
魔法研究家ジャレルからも『噂は翌日には町中に広がる』と言われていた女将とダレンがクレアを買ったと騒ぐ少年の組み合わせだ。どうなるかは火を見るより明らかだった。
2人は道行く町人に手当たり次第に状況を話していく。クレアの失踪は尾ひれもつきながらネズミ算式に広がっていく。
そのうち誰かが、まずは町長に言う必要があるのでは?とアドバイスをすると、2人は急いで町長の家へ行き、しどろもどろになりながら状況を説明する。
その後、町長も合わせて教会を訪れる。その頃には広がった噂話で溢れ、自警団も出動し捜索にあたっていた。
教会では子どもたちが泣きながらクレアの名前を呼んでいた。
そのうち一人をつかまえて状況を聞くも、まだクレアは戻ってないようだ。
町長は状況確認のために司祭を呼び出そうとするも司祭の姿が見えない。
どうやらこの騒ぎが起こってから姿が見えないとのことだ。
町長は2人を捜索隊と同行するように伝えて家に戻るとある鳥籠へ向かう。緊急時の連絡に使用しても良いと各町村へ支給されている
冒険者の滞在している近隣の町、村へ
断られる可能性も高いが何もしないよりはマシだろうとの判断だ。
一方、ダレンたちは一度部屋へ戻り、各自の装備を整える。
迷子になっているクレアがどういう状況か分からないため、少しの保存食と毛布などが入っているダレンの背嚢は持っていくことにした。
ダレンの装備は軽鎧、背嚢、剣に大盾であり、基礎身体機能が低めのリアは聖魔術師のローブとランタン、ルカは皮の胸当ての軽鎧と剣、ランタンを装備している。
急いで準備した3人は走って町から出て畑に向かっていく。暗くなってきたこの時間は魔物が活発になり、数は多く、狂暴となり攻撃的となる。
魔物避けの魔石の設置された場所に避難している可能性を考えていた。
畑に向かう3人だったが先頭を行く索敵に優れたルカが手で止まるように合図をする。
「来るっ!」
言いながらルカは後方に飛び退く。
次の瞬間、ルカの立っていた場所に棍棒が振り下ろされる。強い衝撃音がして土や砂利が周囲へ飛散する。
「くっ!」
「きゃあ!」
そこに立っていたのは二足歩行の豚のような見た目、ファンタジーお馴染みのオークだ。闘い方はただひたすらに力でごり押しをするだけだが、厄介であることには変わらない。
もう一度棍棒を振り上げて攻撃態勢に入る。
「今はゆっくり相手にしてる暇はないっ!」
ダレンは大盾を構えてオークに向かって距離を詰めていく。
「ダレン兄ぃ!危ない!」
ルカが叫ぶと同時に振り下ろされた棍棒。ダレンは大盾にてそれを正面から受ける。
先程よりも更に大きな衝撃音がして、まるで鍔迫り合いのように互いの力がせめぎ合う。
ほどなくして「……オォ」と情けない声を上げてオークが後ろによろめく。
「すげぇ。この辺りのオークに力で勝った!」
「ダレン様は『誰かのため』のときが一番強いんです」
———『リアに!近づぐなぁ!!』———リアが思い出すのはゴブリンに足がすくんでしまった時のこと。傷だらけでも何よりもリアを守るために立ち上がったダレンの姿。
「ルカ!頼むっ!」
「任せてっ!」
大盾で押し付けられるように動きが防がれているオーク。皮膚は硬いがその状態なら両手で体重を込めれば急所を刺すことができる。
グサッと太い音がしてルカの剣が横からオークの首筋を貫く。
オークは光となって消えて、魔石が地面に転がる。
「やっぱり魔物がより攻撃的になってる!急ごう!」
転がる魔石には目もくれずにダレンは先を急ごうとする。
「
ダレン、ルカの体が光に包まれ体力が回復する。
「急ぎつつも安全を期して行きましょう!」
「ありがとう、リア。ごめんね、焦りすぎてたみたい!安全確保をしながら、まずは畑に行ってみよう!」
少し冷静さを取り戻したダレンたちは急ぎつつ、無駄な戦闘は極力避けながら魔物避けの魔石が設置された畑に到着した。
町中にいるのがベストだ。だが、それはないような予感がダレンはしていた。
クレア自身が知らないところで、自分を保護する立場にある司祭から領主の長男へと物のように、軽いことのように、渡されたと聞いたら周りの大人全員が信じられなくなるのではないか、と思う。
その状態であの町にはクレアが落ち着ける場所はないのではないかという気がしていた。
孤児たちは畑にも収穫の手伝いで行っていたようだ。せめてここにいてくれと願いを込めて畑を探す。
「……いない、いない……クレアーッ!!」
「クレアさーん!!」
「クレアさーん!……んー、クレア姉ぇ!!」
魔物避けの魔石があるため捜索に全力を出せる。これだけ大きな声とランタンの明かりがあれば畑の外にいても気付くはずだ。
しかし、無情にもクレアは畑内にはいなかった。
(思い出せ、思い出せ……クレアの情報……)
ゲーム内ですぐに役目を終えるダレンやそもそも登場していないリアと違い、メインキャラクターだ。
どれだけ過去の、会話の少ないゲームだとしても多少情報は出ているはずだ。
聖女クレア……回復魔法が得意であり、他者への思いやりの心が人一倍強い。
だからこそ、ゲーム内では孤児たちの生活を楯に取られて司祭に逆らえずに、奴隷のような生活をしていた。
主人公パーティでは元気で真っ直ぐな主人公気質のルークもしくはルカ、口数の少ないクーデレタイプの大魔導師ハンナ、口の悪いツンデレタイプの帝国皇女グレース、その個性的なパーティの良きブレーキ役とも言えるクレア。
丁寧な話し方で、少し緊張しいなタイプだったはず。
孤児になったきっかけは幼少期に住んでいた村が被災し、聖王国からの移民という形で当時から発展を続けていたウォーカー領へ移動中に魔物に襲われて孤児として近くの町の教会に保護された……。
両親と星を眺めるのが好きだったってエピソードの回想が僅かに流れたはず……。
(待てよ!あの回想は両親と過ごした最後の夜の回想のはず……幼児の足で遠くまで逃げれるのか……もしかして、いや、もしかしなくても近くの町ってここだろ?近くにご両親の亡くなった場所がある……?)
ダレンは必死に思い出そうとする。昔のゲームのグラフィック。山道や野道……どこかは特定出来る情報なんてない。
(……!……蛍だ!星に混じって蛍が飛んでる描写があった!)
「リア!ルカ!蛍が飛んでいそうな……小川が近くにある野営地って近くにあったっけ?」
「川?……最後に泊まった野営地には川はなかったよ!」
「その前の晩は一つ隣に宿泊したので来た道は違いますね……途中に違う村に行く道があったと思います。川はあるか分かりませんが、可能性があるのはその道かと……」
「ありがとう!ちょっと賭けになるかもしれないけと……そこまで探しに行っても良い?」
「もちろんです!ダレン様が行く場所が私の行く場所です!」
「もちろんだよ!まだ村から半鐘の音も聞こえないし、かがり火も見えない。どうせ探し続けるなら少しでも思い当たる場所に行こう!」
「ありがとう!……よし!安全に……でも、急ごう!」
⭐︎⭐︎⭐︎
クソガキが1匹、話を聞いてやがった。盗み聞きなんて悪いことをしておいて、騒ぎ立てるんだから許せない。
せっかく次期領主のガキと仲良くなれそうだったのに……。あいつも金を用意するために、わざわざ子どものために、なんて回りくどい言い訳を用意して……次期領主なんだから金くらいポンと出せよ。
あーイライラする。町の奴らクレアだけでなくオレまで探してやがる。クレアのバカも「それが孤児院のみんなのためになるなら……」なんて言って受け入れたくせに居なくなりやがって。大体、ダレンについて行っても孤児院のためにはならねぇよ。オレのためだオレのため。
まぁダレンが変な事業するらしいから、怪しまれない程度にガキ共に飯はやるけどな。今までみたいにぐーぐー腹を鳴らされたらオレが疑われちまう。
食費は多少増えるけど、まぁそれ以上にダレンから金を引っ張ってこれるようにクレアに媚を売らせれば良い。顔だけは良いからな……その辺の商人へクレアを渡して金蔓が出来れば良いって思ってたら次期領主ときた……全ての運がオレに向いてきたと思ってたのによ。
町の外に逃げたいところだけど、魔素が濃くなって魔物が強え。
朝になって、隠れて移動できる時間帯までは町の中で隠れておこう。
魔素が濃くなって怪我人が増えて儲けれるってんでここに来たけど裏目ったかな。
っと、誰か来やがった。
「ヒヒヒッ。お客さん、調子が悪いみたいじゃーん」
「な!お前!聖王国にいた占いババア!」
なんでこいつがこんなところにいるんだ。こいつがこのウォーカー領で魔素が濃くなるから商売のチャンスだよって。魔素が濃くなれば孤児にも魔術が使えるやつが出てくるかもしれないから、そいつ使ってバカ儲けしてる未来が見えるって言うからここへ移動の希望出したのに……。
「やい!お前はなんでいるんだよ!お前が仕組んだのか!オレはバカ儲けするんじゃないのかよ!」
「占いなんて信じてちゃってさー、実行したのはお客さんじゃん」
「信じてやったんだ!なんだ、その物言いは!お前みたいなババア信じなきゃ良かった!」
「……ババアババアって、こんなうら若き可憐な乙女に向かって何言ってんのさー……」
「何がうら若きだ!可憐でも……ねえし……ましてや乙女……って年齢じゃ…………おい!さっきのババアはどこ行きやがった!」
目の前にいたのは皺くちゃのババアだったはずなのに、急に変わりやがった!なんだこの美しい女性は!……女性?
「おい!お前!なんだその羽と角は!」
角と羽が生えてやがる。それ以外は人間と全く同じ……いや、人間離れした綺麗さだが……。
「おい、待て待て!もしかしてお前は魔族か?」
「せいかーい!馬鹿でも分かるように角も羽も隠さなくて良かったー」
「なんで魔族が……魔物避けの魔石はどうした?」
「あぁ!?魔物なんかと一緒にするんじゃねぇ!!!……ババアって言ったりー、魔物扱いしたり……これだから馬鹿はきらーい」
「……どうして、魔族が……?」
「あ!思わず殺気を込めちゃったー。ごめんねー。お漏らししちゃって汚いでしゅねー。何かね、魔皇帝様が信じてる占いババアのね、あっアイツは本当にババアだからババアで良いよー、この辺りの孤児から魔法が使えるやつが出てくるってクッソ曖昧な占いしやがってねー。そいつらを何だか連れてこいってさー。それで来たけど、全然分かんないからさー。あんたに手伝ってもらってんのー」
「魔素を高めて…………オレが神授式やって……どこに出るか分からんから、自分から生み出そうってことか?」
「あれー?もしかして馬鹿じゃなかった?そそ。見つからないなら作ればいいかーって」
「お前の方が馬鹿だろ。魔法なんてオレでも使ってるよ。回復魔法をよ」
「……はぁ。やっぱ馬鹿だったわー。いーい?あんたら人間のは『魔術』。アタシらが使ってる『魔法』を学問として研究してー……長ったらしい詠唱をしてー、ようやく下位互換が使えるだけの『魔術』なんだよー。アタシらの下位互換なの下位互換」
「……下位互換、下位互換って訳の分からん占いを信じて、面倒くさいことやってるのはオレもお前も変わんねぇだろ……特大ブーメラン野郎が」
「乙女に野郎ってひどくなーい?アタシだって、占いなんてどうでもいいしー。手間かけるくらいなら全員始末したいよー。でも愛する魔皇帝様が魔法を使えるやつを必ず連れてこいってさ。命令なんだもん」
「……へっ、そしたらじっくり待ってな。もう神授式してやらねぇから。時間かかるかもしれないぞ。ザマァねぇな」
「……強制的に体内の魔核を開かせる神授式が使えないのは確かに残念だけどー、魔素を高めれば、その分だけ魔核が育ちやすいからねー。地道に魔素を高めていくよー」
「魔核って何なんだよ。訳わかんねぇけど、ご苦労なこった。もうオレの関係ないとこでやってくれよな」
「うーん、人間は殺すなってさー止められたけど……必要経費分くらいは別にいいよねー。魔皇帝様許してくれるかなー。」
「……どういうことだ?」
「……ねぇ、魔素ってどうやれば高まるか知ってるー?魔物や魔族……大きな魔核が体にあるヤツが食事をするねー。魔素が放出されるんだー。ゲップみたいでやだよねー。特にアタシみたいな上位魔族が食べた方が周囲の魔素は高まりやすいんだってさー……でもって何故か人間を食べた時が一番魔素が高まるんだってー!あんた不味そうで嫌だなー」
「……うそだろ、やめろ……」
全然足が動かねぇ。やめろ、近づくな。化け物が。そんな綺麗な顔しやがって。
近づくんじゃねぇよ!
そんな口を大きく開けてもそんなに綺麗なんてやっぱり人間じゃねぇな。化け目め。
※※※
6/6 4/4
明日6/7は7:00、11:00、16:00更新予定
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます