第11話 再会
「野営地だ!危なかったー。今日はここで野宿しよ。森で迷っちゃって……明日は母ちゃんに怒られちゃうな」
川を流れる水め夜行性の動物も、今はひっそりと息を潜めているのではないかと思うほどの静寂の中、一人の高い声が響く。
もちろんダレンやリアにもその声は届いたのだが、うっすらと目を開けて荷物がテント内に置いてあることを確認すると再度目を閉じて、疲れを癒すために眠りにつくのだった。
空が薄らと明るんできた薄明の頃、テントの中はそれでもまだ暗いが前日の緊張と高揚のためかダレンは妙にスッと目を覚ます。
その気配で、隣に寝ていたリアも目覚める。
「……おはよう、ございま……す。ダレン様」
「おはよう。ごめんね、起こしちゃったね。水を汲んでくるからもう少し休んでてよ」
普段はダレンが起きる前には完璧な準備を終えているリアの寝ぼけた姿を見て微笑ましくなる。
「いえ……私も、行きます……。すみません、寝坊して」
「あはは。いいから休んでて。起きるのが早過ぎたくらいだから全然寝坊じゃないし。僕は少し身体を動かしたいだけだからさ」
「……ありがとう、ごじゃいます……ございます……」
噛んだことに気がつき、赤面しながらも誤魔化すようにシュラフにぽふんと再度横になる。
そんなリアを見て、ダレンは何となく嬉しくなり、今日も頑張ろうと気合いを入れてテントを出る。
(大分、リアも打ち解けてくれてるのかな。上下関係のあるままじゃ余計な疲労が出ちゃうよね)
伸びをしながら川に向かい歩こうとすると昨日まではなかった見慣れないものが目に入る。
いや、見慣れた者と言った方が正確かもしれない。
昔のドット絵のゲーム、姿が分かるのはパッケージや説明書等に全身の絵が描いてあるキャラクターのみ。
その中で一番目立つところに描かれていた主人公……金髪の爽やかな顔、二度目の遭遇でもやっぱり記憶よりも少し幼い中性的な顔、ルークが小さな背嚢を枕にして地べたで寝ていた。
(ルーク君っ!なんでここに?)
状況は分からないが起こしてはいけないとゆっくりと川へ向かおうとする。
が、こういう時ほどお決まりの展開をしてしまうものだ。
パキッ!
振り出した足は見事に小枝を踏み抜き、音を立てる。
元々、周囲が明るくなるにつれて眠りは浅くなっていたルークはその音で目を覚まし飛び起きると、そばに置いてあった剣を鞘から抜き辺りを見渡す。その目には刃物のような鋭さがあった。
実に洗練されており、12歳の子どもとは思えない流れるような動きだった。素人目にも分かる無駄のない最適化された動きにダレンは目を奪われる。
「……あれ?ダレン様?」
当の本人は危険がないことを察知して剣を鞘に収めながら幼さの戻った目をパチクリさせながら呟くのだった。
3人でリアが手際よく作った朝食を摂りながらルークがここで寝ていた経緯を聞いた。
と言ってもとても単純なことで、いつも通り手伝いを抜け出して、城壁外で冒険者ごっこをしていたら、戦闘に夢中になり過ぎて魔物を深追いして道に迷っただけとのこと。
「……それはもう『ごっこ』じゃなくて本格的な冒険者だね」
「えへへ、今までは木の棒だったから戦闘はしてなかったけど、母ちゃんがお古の剣を買ってくれて嬉しくなっちゃってね」
「いきなり実践に出てるとはお母さんも思ってないと思うよ」
「確かに素振りだけだと思ってるかも。本格的に冒険者になるのは防具を揃えてからっていつも言われるし。防具は身体の成長が緩やかになったらって言ってたから」
ルークの口調が砕けているのはあまりにも敬語では話しづらそうだったためダレンが普段通り話すことを要求した。
さすがにダレンが伯爵家、それも有力なウォーカー家と知って尻込みをしていたが「家に帰るまで同じパーティに入ろう」「同じパーティだから敬語は禁止」とダレンに強く言われて、口調を戻している。
母親すら現状で防具を買うことを躊躇うほど成長期真っ只中のルークはとにかくよく食べた。
ダレンもリアも15歳とまだ成長期ではあるのだが、その2人が目を見張るほど食べている。
「それにしても美味しいなぁ。野外の朝食でこんな暖かいものが食べられるなんて天国だよ」
魔物を倒した後に落ちる魔石。それに火打石などで刺激を与えると魔石自体が高音の熱を持つ。
その熱を利用して調理や湯沸かしを行っている。
しかし、普通の冒険者は魔石自体が収入源となるため勿体無いと使わずに干し肉等をそのまま食べることが主流である。
もちろん夜になれば薪を使い火を起こすことは多いが、朝から薪を使って火を起こしてなんてしているとその分活動時間は短くなる。
余談ではあるが、魔石は与える刺激により発生するものが変わる。
強い風を与えれば、風が起こり、船の推進力に使われている。
氷点下の刺激を与えれば、魔石自体が氷のように冷たくなり、冷蔵庫などに使われている。
この仕組みを物流にて活用したのがダレンの父ジェームズである。魚を氷魔法にて即時冷凍し、大量の魔石にも魔法により刺激を与えて保冷剤のように使い鮮度を保っていた。
「お姉ちゃんも貴族様なんでしょ?それなのにこんなに美味しいものをパパッて作れるのずごいね!」
「私は三女なので、他家にお仕えできるよう色々と幼少期からやってたんです…………ま、まぁ……りょ料理はダレン様と冒険に行くために……最近覚えたものですけど……」
顔を赤くしながらも誠実に応えるリア。ポケットにはたくさん書き込まれたレシピメモが入っているはずだ。
そのリアの想いにダレンも頬が緩むのを感じたが、気恥ずかしいため話題を変える。
「よし!それじゃ今日はこのまま王都に戻ってルーク君の宿屋にまずは行こうか。お母さんが心配しているはずだ」
ルークはせっかくなら魔物と何回か戦ってから帰りたいとごねたが、王都までの道中で遭遇する魔物と積極的に戦うことでしぶしぶ了承した。
その戦闘においてルークは圧倒的だった。
周囲を警戒し、いち早く敵に気付き、敵に背後をとらせない。
正面からの戦闘でも狙いすまして確実に一合一合詰めていく。
実際の剣を持ったのはごく最近とのことだからまさに天賦の才だ。
(ゲームでは3年後にこの子の先輩ポジションなのに。現段階で超えられてる気が……ダレン君の中身が僕に変わったからか?……でも!)
万が一が起こる可能性がある状況で、危険なことを子どもだけにさせておけるダレンではない。
盾を構え、ルークの動きの邪魔にならないよう相手の攻撃のみを防いでいく。もちろん後方に控えるリアに魔物がいかないように注意しながら。
誰かを守る、というのがダレンの『悪役貴族』でない方のジョブである『聖騎士』の役割なのだろう。
即席とは思えないほど連携よく、魔物を倒すことができた。
また、ルークがいることでのメリットは魔物に気付くのが早いという点だ。
早く魔物に気付くことで背嚢を降ろす、抜剣する、盾を構える、といった予備動作を事前に済ませることができた。
昨日のように野営準備をして荷物おろしてから、何も持たずに戦闘を開始するという状況は本来少なく、背嚢を降ろす余裕があることは、それだけで荷物があることのデバフを防ぎ、動きにバフをかけるようなものだ。
ルークを含めた3人での戦闘は、昨日苦労して背後から戦いを挑んでいたことを思うと効率性は比にならなかった。
そして、やはりリアの魔力量は多く、戦闘が終わるたびに
体力面も不安がなくなり、戦闘を繰り返しても王都までは昨日よりも大分早く着くことができた。
ルークの両親が経営する宿屋に向かうとおよそ客商売とは思えない『無』の顔をした女性が立っていた。
ダレンの姿を認めると驚き、その表情は流石に青く変化する。ダレンはその表情には見覚えがあった。
前世で学校に何度も呼び出された親の、今度こそはという思いが予想通り外れてしまった時の、全てを受け入れて違う道を探すしかないとう諦観だ。
ルークはダレンの後ろに隠れるようにしていたが、ダレンがルークの頭を撫でるとその手に自分の手を重ねてグッと一度強く握ると前に出る。
「母ちゃん、夜までに帰れなくて本当にごめん!……あと、もう一つごめん!ボクやっぱりすぐにでも冒険者になりたい!ダレン様と一緒に冒険に行かせてください!」
今度はダレンとリアが驚く番だった。
※※※
6/4 4/4
次回6/5 7:00更新予定
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます