第2話 神授式
玄関を抜けると父ジェームス、継母アビゲイルと3歳歳下のヘンリーがすでに待っていた。
「お待たせしました」
近づくと父は気にしなくて良い、と表情で返事をして頷く。すでに待機してある大きな馬車に乗り込むと、ゆっくりと馬車は走り出す。
流れる街の景観をみると、巨大な王都の街並みに感動を覚える。ダレンの記憶はあれど、ゲームでは分からなかったことを実際に体感するとただただ圧倒される。
そうゲーム知識ではここまでは分からなかったのだ。
限られた容量で作られた過去のゲームには名前のある登場人物は多くない。
街だって馬車で移動するほど広くなかった。建物だって人々だってゲームより増えている。
そもそも街も村もダンジョンも、他の国も合わせても確か全部で30ヶ所程度しかゲームでは登場していないはずだ。
ダレンの記憶を辿れば一国のみでもその数を大きく越える街や村が存在するようだ。
確か膨大で詳細な設定を作った上で当時のゲーム機の容量に合わせて削って落とし込んだと言われていた。
(設定資料集や同名小説も読んだことのない僕には、もしかしたら活かせる原作知識はさほどないのかもしれない)
そんなことをドット絵でなく、当たり前のようにリアルな街の景観を見て思った。
物思いに耽っていると弟ヘンリーが笑顔で接してくる。
「兄様、これで遂にスキルとジョブを得られますね。優秀な兄様がこの神授式で更に素敵になってウォーカー家も安泰ですね、父上」
屈託のない笑顔でそう伝えるヘンリーだが、継母アビゲイルは僅かに顔をしかめる。
(そうか、母さんは実の息子であるヘンリーに伯爵家を継いでもらいたいんだな)
ダレンの記憶を探っても継母アビゲイルとはあまり関わりがなかったようだ。とはいえ、実の母とは1歳の頃にはすでに死別しているため記憶もなく、ダレン自身は関わりが薄いまでもアビゲイルを母と思っていたようだ。
また、腹違いの弟であるヘンリーは産まれた時から兄として在るダレンを慕っており、この笑顔にも裏はないようだ。
「ヘンリー、伯爵家の今後についてはまた夜にでも……」
少し歯切れの悪い父を見て、ダレンの記憶が浮かび上がり、伯爵家であるダレンが冒険者を行っていた理由に思い当たる。
「この場で大丈夫だよ、父さん。ヘンリー、良いかい?今から僕はスキルとジョブを得る。3年後はヘンリーの番だ。2人のスキル、ジョブを見て、より向いている方が跡を継ごう。神授式で授かるものはランダムだからね。だから、ヘンリーが神授式を受けるまでは僕はスキル、ジョブを活かした活動をしようと思うんだ」
当然ダレンからは「自分が伯爵家を継ぐ」と反発があると思っていた父は目を見開いて驚いている。
コホンと一度咳払いをしてすぐに困惑の色を隠す。
「その通りだ。スキルもジョブも与えられるが、その力を活かす方法は個人に委ねるられる。それを考えていかねばならない。神様は欲しいもののみを与えて下さるわけではない。現に私は伯爵家でありながら与えられたジョブは『料理人』だ」
「母さんもそんな感じで3年後のヘンリーの神授式みてから相談で良いかな?」
父同様に驚いていた母へも声をかける。父とは違い、驚きを隠せない母は更に目を見開く。
「今……か、母さんって……呼んで…………ヘンリーのことも気にかけてくれて、ありがとう……」
今にも泣きそうに表情を崩している。それを見て、やはりなと思うと同時に嬉しくなる。
(やっぱりゲームでは出てこないような人たちでも、ちゃんと人生があって、感情があるんだな)
父はそのやりとりを見て、更に破顔一笑する。
「優秀であるが故に他者に強く出過ぎてしまうこともあったが、そこまで先を考えられるようになったか。神授式を受けるにあたり自覚が芽生えたか」
和やかな空気の中、教会に着き神官より案内を受ける。
王都の教会だけあり教会自体に荘厳さがある。更には隣接して教会の枢機卿の住う宮殿もあるため前世の庶民としての感覚のみでは圧倒される。
(ダレン君の記憶にだいぶ助けられてるな)
苦笑いしながら、案内に着いていく。
教会に入り、前室を抜けて礼拝堂の脇より応接室へと通される。そこから更にダレンのみ別室へと通される。
「そちらの机のある水晶へ手をかざして下さい。与えられるスキルは教会でのみ水晶に念じることで効果を確認できます。最もジョブ、スキルは一覧を書き溜めたものがありますので図書館等でも確認できます。では、外で待機しております。終わりましたらお声掛け下さい」
一通りの説明をすると神官は部屋を出た。
さて、とひと息ついて考える。
この世界へ転生後、リアと会話し、直ぐに神授式へとやってきた。ここにきてようやく一人で考える時間がもてた。
幸運なことにダレンの記憶もあるため、転生という状況は信じ難いが混乱は最小限には抑えれている。
生徒と同年代の子どもへの転生、更にゲームでの範囲内でしかないが、この世界で起こる事や巻き込まれて憂き目に合う子も知っている。
(教え子たちと同じ年代の子たちなら放っておけるわけないよなぁ。もちろんダレン君も含めて……)
主人公のルークが冒険者になる3年間で色々と整える必要があるな、と思いを固めつつ、神授式という不可思議な儀式のため水晶へと手をかざす。
この神授式とは貴族階級の義務とのことで、平民は受けられない、らしい。
『らしい』と言うのは原作ゲームでは実は神授式自体が出てこず、ダレンの記憶でしか知らないからだ。
ゲーム開始時には主人公パーティの唯一の貴族である帝国皇女グレースはすでに神授式を受けた後なのか、はたまた容量の関係で削られた設定なのか、ゲームには神授式自体が出てこず、前世の記憶では知らなかった。
(そもそもゲーム内ではジョブは自由に変えられるし、スキルも自然と覚えられたのになぁ)
と、ドキドキしながら手をかざした状態で待つこと十数秒、水晶の変化はないが自然とジョブやスキルが解った。
ジョブ:聖騎士
悪役貴族
スキル:盾術
追放
「何これ……」
よく分からない文字に驚き、水晶から手を離す。頭に思い浮かんでいた文字は消えていく。
再度水晶に手を置くと今度はすんなりと文字が頭に浮かぶ。しかし、内容は変わらない。
「考えろ考えろ……こんな時こそ落ち着いて考えろ……」
生徒に伝えていたように敢えて声に出して自分へ言い聞かせる。
そして特に気になるスキルへ向けて意識を集中させる。先程同様に頭へ文字が浮かぶ。
『悪役貴族』
文字通り悪事を働く貴族。悪事を行いやすくなる特性がある。
『追放』
“追放”することで追放された人物の能力が大幅に増大する。
その際の感情の振れ幅が大きいほど、その者の能力は向上する。
……えっ何これ
※※※
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