僕だってここにいる
園長
第1話
母親が不倫していたらしい。
だけど別にそんなことはどうでもいい。何となくだけどそんな気がしていた。
問題はそれが発覚した時期だ。
よりにもよって夏休み、しかもお盆の前ときた。
そして、両親の話し合いの末に出た結論。
それは離婚でも別居でも裁判でもなく、“とりあえず時間をおく“という、あまりにも当たり障りがなさ過ぎて逆に僕を激情させるに至るものだった。
なんで、あんな隣の部屋にいても聞こえるぐらいの口論で出る結論がそれなんだよ。
しかもその“とりあえず時間を置く”間、今いる横浜の家を出て盆休みの間とさらに1週間、あわせて2週間も父方の実家に帰省することになってしまったのだ。
父方の実家は遠いので、行くのもたぶん小学1年生の時以来だ。
もちろん僕は最後までめちゃくちゃ反対した。塾もあるし、友達と遊べなくなるし、それに一番何が嫌かってこの父親の実家、田舎なのだ。
なのに、両親2人ともここだけ口を揃えて、僕のためにも必要な時間だとかなんとか言って最終的に丸め込まれてしまった。
もういっそ世間体を捨てて街中で「アーワワワワワー!!」ってインディアンが手を口に当てて叫ぶやつをやりながら練り歩きたいような気分だった。夏休みを返せ! とその時は両親を呪った。
じいちゃんとばあちゃんの家はただの田舎ではない、マジモンのえっぐいド田舎のクソ田舎、こんなところが日本に存在していたなんて……と当時小学1年生になったばかりの僕はカルチャーショックを受けたレベルだった。
まず網戸に張り付くガの大きさが手のひらサイズだし、家に鍵をかけないのはあたりまえだし、蛇の抜け殻やら蜂の巣やらツバメの巣もあり得ないくらいの数を目にする。
かろうじてスマホの電波が届くのだけが救いだったけれど、それも場所によっては不安定になった。
だがまぁ……まぁ、百歩譲ってそれはまだいい。そういう土地だからそれは誰も悪いわけでは無いし、否定はできない。
けれど実際に来てみると一番嫌だったことは、じいちゃんもばあちゃんも、母さんの話をそれとなく抽象的な言葉でごまかしたり話題を変えたりすることだった。
母さんのことを許せないならもっと憤るべきだし、なんかあるだろ。
ちなみに僕を見たじいちゃんの第一声は「おぉ浩太郎、ははは、誰かと思った。大きくなったね」だった。「ははは」じゃねぇんだよハゲ!
ちなみにじいちゃんはハゲてはいない、白髪は多いけどふさふさだ。だけど僕は心のなかでは「ハゲ!」と罵倒している。なんというか、精神的にハゲなのだ。
そして父さんに至っては家からクソでかいキャリーバッグに釣り道具やら仕事道具やらをパンパンに詰め込んで持ってきていた。
家庭がこんなことになってるのにテメーには責任感ってもんがないのか! 離婚するならする、しないならしないではっきりしろや! とも思う。
そんな、田舎具合に辟易したりじいちゃんばあちゃんの腑抜け具合に驚愕しつつも、まぁネットがつながるし、スマホとゲーム機はあるから、なんとか生きて伸びていけるかな、と思ったのが昨日のことだった。
そして今朝、じいちゃんが近所の杉林にシカの被害が出ていないか見回るのについて行くという、そんな謎の修行のようなことのために軽トラに乗せられ農道を走っていた時だった。
道すがら近所の小学生とおぼしき男子達とその引率っぽいおじさんに出会った。
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