『Blue veins』
宮本 賢治
第1話『Blue veins』
成人の日。
祝日でお休み、やった〜♪
そんなイメージしか無かった。
あとは、テレビで派手な袴を履いた若者が暴れているみたいな···
でも、今年はちょっと違う。
ニコが美桜さんのお店で晴れ着の着付けと、それに合わせたヘアメイクのバイトをしているからだ。
前日の準備から大変らしかったけど、スゴく楽しかったみたい。
疲れた〜って言いながら、ぼくと子犬のユキに、楽しそうにお話してくれた。
今日はいろんなとこで、『20歳を祝う集い』が開催されるらしい。
ニコも朝から、美桜さんのお店でがんばってる。
夕方になって、ぼくの部屋がノックされた。
ニコなら、ノックせずに入ってくる。母さんかな?
「はい、どうぞ」
ぼくはベッドに寝転び、ユキをコチョコチョして遊んでいた。
ドアとは反対方向に顔を向けていたぼく。ユキはドアの方向を見ていた。
ユキの目が点になっていた。
ぼくはドアの方向に振り返った。
すると、バッチリヘアメイクして、晴れ着を着たニコがおしとやかに立っていた。
「···スゴい」
ぼくはバカみたいな顔をして、つぶやいた。
ニコはスゴくキレイだった。
お姫様みたい。
ユキを抱いて、ぼくは立ち上がった。
「ニコ、スッゴく、かわいい!
メチャクチャ、キレイだよ!!」
ぼくの率直な感想を聞いて、ニコはニッコリ微笑んだ。
「トムにキレイって言われて、うれしい」
どうした、ニコ?
テンションが控え目。
おしとやかなお嬢様だ。
ユキも、お姉ちゃんがメッチャキレイになったことに驚いてる。
ニコはユキの頭を優しく撫でた。
「美桜さんが、今日のご褒美って言って、自分の晴れ着をわたしに着付けてくれたの」
「へ〜、美桜さんの晴れ着か。
ニコ、スゴく似合ってるよ」
ニコの着ている晴れ着。
柔らかな白地に、淡いピンクやゴールドで描かれた桜と牡丹の模様が入っている。品があって、かわいいデザイン。
ニコがクルリと後ろを向いた。
「ほら、帯もスッゴいでしょ。
文庫結びですわよ」
上部分でリボン結びをしたような仕上がり。清楚な印象を受ける。
「これ、美桜さんに教わって、自分で結んだんだよ」
「へぇ〜、スゴい! 上手に出来てるね」
「ヘアメイクは美桜さんがバッチリしてくれたんだよ」
ポニーテール風のアップスタイル。毛先は軽くカール。サイドに小ぶりな桜の髪飾りがかわいい。
美桜さんの着物だから、桜模様と桜の髪飾りなんだな。
ニコ、スッゴく似合ってる。
ピンクのリップとチークも桜のイメージ。
アイシャドウもブラウン系なのが、ニコの優しい印象に合ってる。
ニコが口に手を当てて笑ってる。
かわいい。
やっぱ、女の子はおしとやかだとステキだな。
ニコがぼくに顔を寄せた。
口元に手を当て、耳元でささやく。
「···え、何で? バカじゃないの」
ぼくは目の前の見た目だけはおしとやかな、バカ娘の提案にドン引きした。
ニコが食い下がる。
「お願い、子どもの時からの夢なの!」
手を合わせて、バカ姫がお願いしてる。
でも、どうしても、バカげてる。
「トム、お願い!
今度、メッチャ、エッチいことしてあげるから!!」
エッチいこと。
しかも、メッチャ!
···ぼくはチョイチョイ、この性格が嫌になる。
「わかった、やろう!」
ぼくはニコの晴れ着の帯を持った。
引っ張る。
「あれ〜!」
クルクルクルと回転し、帯がほどけるニコ。
帯がほどけ、着物がはだけたニコ、ベッドの上に座り、手をつく。
「御殿様、お戯れを···」
ニコは上目遣いでぼくを見上げた。
「···プッ、アッハッハッハッハ!」
ニコがベッドをパンパンパンと叩いて、大爆笑している。
「メッチャ、おもしろい!
アッハッハッハッハ!」
ニコは小さい時から、テレビのコントが大好きだった。
腰元をもて遊ぶ御殿様のコント。
その再現をしたかったらしい。
あまりの爆笑ぶりに、ぼくとユキは少し引いた。
「ねぇ、ニコ、ホントにその晴れ着、もう一度、自分で着付けできるの?」
涙を指で拭いながら、ニコが答えた。
「何言ってるの?
わたしは美桜さんの一番弟子だよ。完璧だから」
そう言って、着付けたニコ。
何だ、こりゃ···
お姫様と言うよりは、天才バカボンなのだ。
明らかに帯のバランスがおかしい。文庫結びはどうした。
バカボンが言った。
「トム、美桜さんに電話して、
わたし、怖くてできない···」
美桜さんはすぐに来てくれた。
久しぶりに会ったけど、ホントにおキレイ。
トップスが黒のリブニットに黒のタイトスカートとシンプルで動きやすいスタイル。
ヘアスタイルも低めのシニヨンに黒のヘアクリップでアクセントとお仕事重視。
ホントに仕事場から駆けつけてくださったみたい。
晴れ着で着飾る主役を立てるために黒一色なのかな。
けど、その分、シルバーの細身のバングルとピアスが洗練されてて、メッチャカッコ良い。
それでも、初めて会う、真っ白な子犬のユキを見た時は、ちょっと女の子だった。
「え〜、ユキ、メッチャかわいい〜♡ ぬいぐるみみたい!」
普段はクールビューティーな美桜さんのかわいい一面だった。
そして、着付けが始まった。
その時から空気が変わった。
基本、美桜さんは終始、大人の笑顔なのだが、明らかに空気が変わったのだ。
まずは美桜さんから一言。
ニコへ
「おい、一番弟子。何やってんの?』
なかなかなパンチのある一言。
ニコは美桜さんと目を合わさず、下を向いたままで言った。
「···ゴメンなさい」
そして、ぼくに
「トムくんも、何やってんの?
ムフフ、うい奴じゃ♡とか、言ってたの?」
かなり、パンチのある一言。
「···いえ、そこまでは言ってません」
美桜さんが大きくため息をつく。
「もう、ホント、バカなんだから」
はい、その通りです。
ぼくとニコは頭を下げた。
「ねぇ、ニコ。
この着物と帯、結構良いもんだから気をつけてねって、言ったよね」
美桜さんは優しくゆっくりと、ニコに話し掛けた。
でも、怖い。
「···はい、ゴメンなさい」
ニコは泣きそうな顔でビビッてる。
「しかも、あれだけ着付けして、何で、バカボンなの?」
「···はい、ゴメンなさい」
「それに、トムのご両親とニコのご両親にも、まだ晴れ着姿見せてないんでしょ」
「···はい、ゴメンなさい」
「今度したら、殺すよ」
「イエス! マイマスター!!!」
ニコがどこの軍隊で習ったんだと言うくらいに直立して、返事した。
超絶美形の美人が優しい笑顔をしている。
なのに、こめかみに青筋立つんだ。
ぼくは素直に思った。
ぼくの腕の中で、ユキも震えていた。
美桜さんを怒らせてはいけない。
キレた美人は本当に怖い。
『Blue veins』 宮本 賢治 @4030965
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