フェチフェチ!!
関口 ジュリエッタ
第1話 俺の大好きな「つま先」の持ち主が現る!!
蝉の合唱が響く蒸し暑い時期、高校二年生の
今回の体育の授業は短距離走。こんな蒸し暑い三時間目の授業でやる種目ではない。
ため息をつきながら自分の番が来るまで隣にいる仲の良い友人と小粋な会話をしていると一人の人物に目を向けてしまう。
「美しい……」
「ん? どうした烏羽?」
じっと見つめている烏羽の目線にはブサイクの隣に学年一の美女がいた。
てっきりその子に夢中になっていると友人は思っているらしく気になるなら告白して来いよ、と言われたのをきっかけに烏羽はその場から立ち上がり、その子のいる場所まで向かう。
友人は冗談で発言したのにまさか本当に告白しに向かうとは思っていなかった。
女子のグループに向かっていく烏羽に女子達の目線が一気に自分に注目をする。
艶のある髪に女性を虜にしてしまう誘惑の瞳、それにめけ内くらいの輪郭や高身長の肉付きのいいスタイル。そんな全学年から超絶イケメンと言われている烏羽が女子の方へと向かってきたら注目を浴びるのは無理もない。
近くに来ると自分の事についてひそひそと女性同士の会話がどうも烏羽は馴れないでいた。別に悪い噂をされているわけではないのにあまり良い気持ちはしない。
そう思いながら女子のグループ近くまで行くと一人の美少女が体育座りから立ち上がり、烏羽の方へと向かう。
「どうしたの烏羽君?」
先ほど友人が告白してこいよと言っていた人物。
そんな美少女とイケメンの二人がいるとあまりにも映えて他の生徒達は眩しく目をつむってしまう。
しかし、自分に用があると思って声を掛けてきた沢尻に軽い返答をする。
「アンタに用はない。俺はこの女子に話があるんだ」
烏羽が指を差す先には学年一の超ブサイクの女がいた。
彼女の名前は
思わず峰岸は後ろに蹌踉めく。
「美しい……、もう一度見せてくれないか?」
あまりの衝撃発言に周りにいた生徒は思わず絶叫してしまい、走っていた生徒達も思わず足を止めてしまうほどに。
当の本人も疑いの目を烏羽に向けてくるが真剣な強い眼差しを向けてくるせいで頬が腐ったザクロのような色合いをし、思わず目を背けてしまう。
そんな峰岸にもう一度烏羽は質問をする。
「頼む! もう一度君の美しいつま先を見せてくれ」
「……へ? 今なんて?」
拍子が抜けた声を漏らした峰岸はもう一度烏羽に訊いてみる。
「君のその美しく張りのあるつま先を今一度俺に見せてくれ」
あまりの強引に詰め寄ってくる烏羽に仕方なく峰岸は靴と靴下を脱いだ。
一見普通のつま先に見えるが、烏羽は違かった。彼の見えている光景は女神を見つめているかのように美しく黄金に輝いているつま先に見えていたのだ。
どうして彼はここまで親権につま先に見取れてしまっているのかというと、彼は大のつま先フェチだったのだ。
峰岸のつま先は烏羽にとってまさに理想のつま先であった。
「あの……もう良いですか?」
弾かしそうな醜い上目遣い見せてきた峰岸を見て烏羽はお礼を述べて靴や靴下を履いても良いと伝える。
急いでそそくさと靴下や靴を履き、先ほどのように下を向いてまま体躯座りをする。
周りの生徒達はざわめく。
「君の名を教えてくれないか」
「峰岸芽知香」
「俺は烏羽宗一郎だ。よろしくところで峰岸は好きな人とか彼氏とかいるのか」
さりげなくぶっ飛んだ会話してきた烏羽に峰気はたじろぎながら弱々しい声で話す。
「好きな人もいませんし、彼氏もいません」
自分で発言すると悲しくなった峰岸は肩を重くなり俯いてしまうが、烏羽の返答に思わず息を呑んでしまう。
「だったら俺と付き合わないか?」
「おいおいおいおいおい! どうしちまったんだよ烏羽! 暑さで頭がイカれてしまったのか!?」
仲の良い友人が烏羽につか付いてきて、両肩をブンブンと上下に振るってくる。
自分の両肩を掴む友人の腕を振り払い、真剣な眼差しで友人に告げる。
「俺は本気だ! この恋は誰にも止められない」
「もう少し時間が欲しい……ダメかな?」
友人に強く発言した烏羽に背後から峰岸の言葉を聞き、烏羽はコクリと首を縦に振る。
烏羽は男子グループの方へと戻ると、沢尻は眉間にしわを寄せてギロッと峰岸のへと向ける。
☆
それから数日間、峰岸は烏羽からのもうアプローチの地獄が始まった。
休み時間になると必ず連絡先などや隙あらば告白をしてきたり、昼休みになればいつ生にか前の机の椅子に座り、一緒に食事をしたりなど烏羽の行動に遂には峰岸も折れて翌日の昼休み、
「本当に私と付き合いたいんですか?」
「もちろんだ。君に――いや君の美しいつま先に惚れた」
相変わらずぶっ飛んだ台詞に峰岸は迷う。一応人生で外見を褒められたのは生まれて初めてなので少しだけ嬉しい気持ちにはなるし、スポーツ万能で学歴も学年一の超絶イケメンに告白されているのに何故か告白を受け入れることはできなかった。
たぶん峰岸の心の中では周りの友人との罰ゲームで学年一の超絶ブサイクの峰岸に告白しろ言われたに違いない、と感じていたのだ。
遊ばれてる感じになってしまった峰岸の心はこれ以上烏羽に迷惑を掛けない、と思い。烏羽の告白を受けることを決意した。
それからは二人は恋人となるのであった。
たった一日で二人が付き合っていることが全校生徒に広まり、その噂を耳にした沢尻は眉間に青筋を浮かせながら下校時間、峰岸を体育館の裏に呼び寄せる。
不安な表情を峰岸は浮かべながら沢尻と三ン人の友人に囲まれてしまう。
「どうしたんですか?」
ブルブルとブタが震えるみたいに恐る恐る沢尻に尋ねる。
すると沢尻は峰岸の髪を強引に掴み自分のほうへと引き寄せる。
あまりの激痛に顔をゆがめ、峰岸は抵抗をする。
「あんま調子に乗らないでくれる。烏羽とは私が付き合うことになっているのよ。ブタは大人しく引き下がりなさい」
「離してください、私だって烏羽さんと釣り合わないと思っています。だけどあの人のためなんです」
峰岸は仕方なく罰ゲームで告白をしてきたんだと勘違いをしていたので、罰ゲームが終わるまでは別れることはできないと彼のためにも思っている。だが、その行為が峰岸をさらに逆鱗に触れてしまう。
「ふざけないでよ!」
峰岸に向かって手を上げようとしたとき、
「そこで何をしているんだ」
背後から烏羽が現れた。
沢尻が峰岸を振り払うと峰岸は地面に転ぶそのとき、足を勢いよく挫いてしまった。
その光景に烏羽は急いで峰岸の所へと向かう。
「大丈夫か! 峰岸!」
抱きかかえる烏羽を見て、沢尻は話しかける。
「烏羽君。そんなデブほっといて私と遊ばない。私の知り合いにカフェを経営してる人がいるからそこに行こうよ」
「足を見せろ」
「へっ? なにを言っているの?」
思っていた回答とはまるで違い、沢尻は少したじろいでしまう。
「いいから」
強引に烏羽に求められて渋々沢尻はローファーを脱いで、白の靴下も脱ぎ捨て烏羽に足を見せる。
すると烏羽はゴミを見るような表情で沢尻のつま先を眺めた。
「全然ダメだ。こんな汚く醜いつま先に一ミリたりとも君には心が揺らがない」
「それってどういうこと?」
烏羽は峰岸に許可を得て彼女のローファーと靴下を脱がせて見せつける。
「君の足と比べれば一目瞭然。峰岸のつま先はかなり整った形だ。美しい曲線や肌もすべすべでたまらない」
「私の方が綺麗でスマートでしょ! それにスキンケアだって毎日欠かさずしてるし!」
「そんなささくれのあるつま先に俺は惹かれない」
「なっ!?」
沢尻は思わずたじろいでしまう。
確かに沢尻のつま先にはささくれがあり、峰岸のつま先はささくれはない。だが、細く綺麗なつま先と、太く醜いつま先とはたかがささくれくらいでは断然自分のほうが勝ると沢尻は思っていた。
「つま先とは本来大事な部分なんだ。つま先がしっかりしていれば血液やリンパの巡りが良く足の筋肉もしっかりつくし、下半身のスタイルにもよくなる」
「だったら私のほうが――」
「――だからこそ峰岸のほうが断然良いんだ」
沢尻の言葉を遮って烏羽は会話を続ける。
「見た目は確かに沢尻の方がシュッとしてるがつま先の骨格がアンバランスで見るに堪えない。一方峰岸は見た目は肉質の塊でもあるがつま先の骨格が均一に整いつま先から足に掛けて美しく整っている、これはまさしくアート。痩せる努力をすれば君はかなりの美脚になる」
「うそよ……そんなことあってはならない。こんなブサイクにつま先で負けるなんて……」
涙を流しながら峰岸はどこかへはし去って行く。
「待って、舞可っ!」
その後を追うように峰岸の友人達も後に続いて去って行った。
「大丈夫か」
「……うん」
峰岸は相撲取りのように起き上がり烏羽を見つめる。
「君のつま先は女神なんだ。だから骨格が歪んでしまったら大変だ。気をつけてくれよ」
「うん。ありがとう」
自分に心配してるのかそれとも自分のつま先に心配してるのか峰岸は複雑な気持ちになる。
「それじゃ一緒に帰ろう」
「ちょっと待て。烏羽君に話したいことがあるんだけど」
「俺に?」
今、峰岸が思っていることを烏羽に話す。
「烏羽君が友人達との決めた罰ゲームで渋々私に告白してきたわけじゃないんだよね?」
烏羽は峰岸の発言に深いため息をする。
峰岸の履いているローファーを脱がして靴下も脱がし、露わになったつま先に向かって烏羽顔を近づけ、足の親指に軽く口づけをする。
「何してるのよ!」
顔を腐ったトマトのように赤黒く染め上げて峰岸は慌てふためく。
「これでも俺のことを疑っているのかい?」
「疑ってない! 疑ってないからっ!!」
手をバタバタとさせる峰岸に苦笑する烏羽は靴下やローファーを履かせる。
「もうすぐ夏休みだ」
「そうだけど……それがどうしたの?」
「夏休みまでの間自分を鍛えてみてはどうだ。峰岸なら沢尻に負けないようなスタイルになられる」
「そんなの無理だよ」
否定する峰岸の烏丸は強い眼差しを向ける。その真剣さに峰岸は心を揺らがせる。
「やりもしないでそんなことを言うなよ。峰岸ならできる。だから夏休み自分を鍛えて沢尻を見返してやれ」
烏羽の熱い言葉で峰岸はコクリと頷いた。
こうして夏休みの期間峰岸は超絶過酷なダイエットを始めるのであった。
☆
それからしばらく月日が流れ夏休みが開けて二学期に突入すると、学校内が一人の生徒にざわつき始める。その光景を見た沢尻は眉間にしわを寄せていた。
その女子生徒はつかつかと烏羽のほうへと歩み寄る。
「おはよう、烏羽君」
烏羽は大きく目を見開いた後、満面の笑みでその女子生徒のつま先を見ながら挨拶をする。
「おはよう、峰岸」
これから二人の恋はさらに大きく実るのであった。
フェチフェチ!! 関口 ジュリエッタ @sekiguchi
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