遥か未来で
ぼっちマック競技勢 KKG所属
自由に呪われた一つの世界
父は、優しい人でした。優しい、というのが私を愛してるという事なのかはわかりません。だけれど、父は私を大切にしていました。決して傷つかないように守ってくれました。
それが、愛なのかはわかりません。
ただ、父は私が傷つかないように自分を傷つけてくれることもありました。
大変な思いをしてくれていました
だけどただ、それだけのことです。
愛がなんなのか、わかりません
父は、わたしが十ぐらいの時にいなくなりました。家から出て、名無しになりました。
だから、父は自分に名前を与えたそうです。わたしにその名前を教えてくれて、次会う時はその名前で呼んでくれと言いました。
父は、それを自由と呼びました。
自由がなんなのかわかりません。
ただ、私は自由がないそうです。父は名前を決められるから自由と言っていました。だから名前を決められない私は自由ではありません。
だけど私は、父のようには思いません。
私は名前を1523といいます。15の家系である父と、2の家系である母の子供だからです。私は、彼女たちの3番目の子供でだからさいごに3がついているそうです。
この世に1523は私しかいません。母によると、わたしは個性があるそうです。固有番号がついて他のクローン達と違い、識別されるから。だから母によると私は自由な考え方ができて、自由に人生を歩めるんだそうです。
父は、出て行く時私にも名前をくれました。新しい名前です。二人だけの秘密といって、それを自由と呼びました。
私は、自由です。だって母がそう言っていたから。自由に考え、生きられると。
母は、父が出て行く時怒っていました。15の家系のオリジナルで、私と同じように個有番号を父が持っていたからです。15の家系の恥と、母は言いました。
父が言うには母は、父を恨んでいたそうです。なんでかは私にはわかりません。私は何も教えてもらってないからです。
みんなは私を自由といいます。だけど私には愛というのも憎悪というのもわかりません。
だけど、みんなが自由と言ってくれるから私は自由です。
▲
私は、女だから母の家系を引き継いで2の家系の代表になります。私は固有番号を持ったオリジナルだからです。
オリジナルは、遺伝子を新しく作るために子供を作る必要があるそうです。だから私は18を超えた頃多くの男と体を重ねました。2年で子供を3人産みました。
オリジナルは、感情を持てるから幸せを知らなくてはならないそうです。だから、私は20を超えた頃に体を重ねた男のうちの一人と結婚をしました。ホルダーを使って番号を入力し、夫婦になりました。昔までは指輪という道具を使って夫婦かどうか識別したと母は教えてくれました。
今に比べて面倒な儀式をたくさん行わなくてはならなかったそうです。これはオリジナルがたくさんいた時代のはなしです。
ある時、私は工場に行きました。夫である17の家系の代表がそこで働いているからです。そこではクローンが食料をつくっています。
女のクローン達は少しの分前をもらい、それを食べながら農業を行います。植物を育て、私に食べさせるそうです。
男のクローン達は山に行って肉をとってきます。女のクローンと同じようにして、とった一部を食して生きていると言います。
私はそれをみに来ました。特に理由はありません。
その工場のなかではたくさんの私と私の夫が働いていました。不完全なクローン達で、オリジナルである私たちの記憶はありません。
だからただ、働くだけです。私たちの方が自由です。
「可哀想な私たちね」
私は同情して憐れみました。
だけれどなぜでしょう。彼らが働く様子を見ていたらなんだか心が締め付けられます。どのクローンも目的を持って動いています。目的に縛られている、と言えばそうなのでしょうが、心は縛られていません。
目的を持っているからイキイキしています。ずっと同じ行為をしているだけなのに。
私は、家にいても家事をすることはありません。食料を作ることもありません。食べて、寝て、母に教えられたように運動をし近くのオリジナル達と世間話をします。
私は自由だから、働かなくてもいいからです。だから母の言われたように生活します。母に言われたことをやっていました。
いま、生きる意味を持っている彼女が羨ましくなりました。
私はその日の夜、夫と数ヶ月ぶりに体を重ねました。オリジナルの役目は新たなオリジナルを、新たな遺伝子を作ることだからです。
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次の日、私は山に登りました。世界の母に会うためです。私の母のずっと前からいる女の人が世界の母です。
母が私に全てを教えてくれたように、彼女はずっと前の母に全てを教えてくれました。
それが本当に全てなのかはわかりませんが私の知っていることは全て彼女が私たちに授けたものです。その知識が延々と引き継がれて、私まで届いているのです。オリジナルとクローンの仕組みも、家系の仕組みも全部世界の母が知っています。
荒い呼吸を繰り返しながら傾斜のきつい階段を登りきると、一つの家が立っていました。昔母に連れてきてもらった時となんら変わりはありません。
私たちの家とは全然違う作りをした大きな家です。その戸を叩き中にいる世界の母を呼びました。
すると戸からは私が出てきました。それが世界の母でした。私と同じ私です。
私は、昨日のことを相談するのをやめました。迷いを打ち明けるのをやめました。はっとその姿に息を呑み、ただ一言。
「さようなら」
来た道を引き返しました。
私は後悔していました。世界の母に露骨な期待をしていたことに嫌気がさしました。彼女は、私が知っていることしか知らなかったのです。私の完全体のクローンでした。
いや。
私が彼女のクローンでした。
私は、私に嫌気がさしました。世界の母の私ではなく、固有番号1523である私です。
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