徒歩禁止の肥満大国
ちびまるフォイ
運動が必要となる車
「年間の事故のうち、80%は歩行者との接触です!
この悲しい事故をなくすために、これからは歩行を禁止します!」
大統領の命により、すべての歩行が禁止となった。
最初はすさまじい非難が行われたが、
高速道路の整備、ホバー車の格安提供などが行われ
むしろ利便性があがったことで文句は言われなくなった。
それからしばらくした頃。
「大統領、お時間よろしいですか」
「秘書くん。入りたまえ」
「はい」
「して、歩行禁止法のその後はどうかね?」
「はい。歩行者と車との接触事故は2%まで減りました」
「やった! 大成功じゃないか!!」
「ですが別の問題も……」
「なんだ? こんなにインフラ整備されて、
誰もが便利になった理想社会でなんの問題が?」
「運動不足です」
「私の話をしてるんじゃない」
「いえ、社会の話です」
「ぬ?」
「今現在、現代人の肥満率は4000%を超えています。
あふれすぎた脂肪をフリマサイトで売買するほどです」
「え……そんなにみんな運動不足なの?」
「徒歩が禁止されたことで、誰もが車移動です。
お店の中でも自動運転セグウェイで移動するでしょう?」
「たしかに……」
「事故による死傷者は減りましたが、
肥満が原因での病気死亡者数は大幅増加。
トータルで見ると、事故の死人よりも増えてます」
「うそぉ!? お前、ぜったいそのこと公表しないでよ!?」
「もちろんです。しかしこのままでは肥満に国民が殺されますよ」
「ふっふっふ。私を誰だと思っているのかね秘書くん。
一国のあるじともなれば、アイデアがあるのだよ」
「本当ですか」
「さっそく自動車会社にとりついでくれたまえ。
運動不足も解消し、インフラもキープできる
とっておきのアイデアがあるのだ!!」
こうして大統領は自動車会社に訪問。
そこで大統領権限により、嫌がる自動車会社の社員を働かせて完成までこぎつけた。
製造された新型の車は、大統領演説でおおっぴらに公開されることとなる。
それだけ肝いりの大統領のアイデアだった。
「国民のみなさん! 我が国は肥満という病魔に苦しんでいます!!!」
大統領は自信満々に演説を続ける。
「そこで! みなさんの便利な生活をキープしながらも、
運動不足を同時に解消できる夢の自動車を開発しました!!」
車にかけられていた布がはずされた。
「これが最新の車です!!」
「大統領! 見た目は普通の車のようですが?」
「ちっちっち。中を見てください。ここ、ペダルの部分です」
「こ、これは!? 自動車の中に自転車のペダルが!」
「そう、これは湖のアヒルボートにインスピレーションを受け開発した
最新の自動車です! ペダルを漕ぐとエネルギーが溜まり前に進みます!」
「ということは……?」
「自動車を進めるために、ペダルを漕ぐ必要があります!
運動不足を解消しながら自動車としても使える画期的な車です!!!」
大統領の演説後、部屋に秘書を呼びつけた。
「それで、大統領製の新型自動車のうれゆきはどうかね?」
「絶望的です」
「えっ!!! な、なんで!?」
「原因すでにわかっているものと思っていました」
「完璧なはずだ! だって運動不足を解消しながら、
自動車で移動もできちゃうなんて完璧だろう!?」
「大統領。国民はそもそも運動したくないのですよ。
ペダルこがないと先に進まないなら、普通の自動車にします」
「なんて怠惰なんだ!! これだから愚民は!!」
「でも大統領も自家用車はペダルついてませんよね」
「カッコ悪いもん!!!」
「そういうとこです」
大統領は自信たっぷりだったアイデアが失敗に終わり、
すっかりやる気を無くしてしまった。
「あーーあ、なんだよもう。じゃあどうすればいいんだ」
「大統領、諦めないでください」
「じゃあなに? 普通の自動車の座席に、
電気で筋肉を自動振動させて運動不足でも解消させる?
通販であるじゃん。腹筋を振動させるやつ」
「運転中に筋肉振動させるなんて事故のもとですよ」
「あ゛ーー! もう! あれもだめ、これもだめ!
じゃあ秘書くんがやればいいじゃない!」
「よろしいのですか?」
「まあもっとも! 大統領で思いつかなかったのに
秘書の知恵でどうこうできるとは思えないがね!」
「実は私も温めていたアイデアがあるんです」
「ふん。まあすきにやりたまえ!」
表向きは大統領の司令という体裁のまま、
秘書のアイデアが実行へとうつされた。
しばらくすると、みるみる運動不足指数がダウン。
肥満という大病は過去のものになった。
大統領は秘書を部屋によびつけた。
「秘書くん、君すごいじゃないか!
我が国の肥満がついに私だけとなったよ!!」
「効果がでてなによりです」
「君の才能を見出した私の成果でもあるがね」
「もちろんです」
「それで? いったいどんな自動車にしたんだ?
どうやって運転手の運動不足を解消させたんだ?」
「でしたら、大統領も体験するのがよろしいかと。
ちょうど外に車も停めております」
大統領が外に出ると、アイドリング中の車が待っていた。
「さあどうぞ、乗ってください」
「見た目は普通なんだけどなぁ」
大統領が乗ろうとしたときだった。
自動車は自動発進して大統領との距離をあける。
数メートル先でふたたび停車。
「なっ……!?」
大統領は車に乗るため、おいかけて猛ダッシュ。
それを感知すると自動車はふたたび数メートル先まで進む。
「待てーー!」
大統領が車に近づけば近づくほど、
車は勝手に動いて乗らせまいと距離をあけて逃げる。
その攻防が運動不足解消の適性運動量に達すると、
ついに車は停車して乗り込むことができた。
大統領は肩で息をしながら秘書に訪ねた。
「おまっ……お前……車に何した……?」
秘書はにこやかに答えた。
「すべての車を運動しないと乗れないようにしました」
徒歩禁止の肥満大国 ちびまるフォイ @firestorage
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