第2話:星屑の迷宮
青と金の光が螺旋を登る空間。足元には柔らかな光の道が伸びている。その先に立っていたのは、透き通るような姿をした少女だった。
「こんにちは、アルト」
「君……誰?」
アルトが声を震わせると、少女はにっこりと笑った。
「私はノア。この『記憶の庭』の案内人」
「記憶の庭……?」
アルトが眉をひそめると、ノアは続けた。
「ここは、失われた記憶が眠る場所。私たちの過去が星屑に姿を変え、眠っているの」
ノアの話は、アルトにとって要領を得ないものであった。
「僕は……家に帰りたいんだ」
アルトが不安と焦りを含ませた早口でそう告げると、ノアは小さく頷いた。すると、無数の星が周囲を漂い、それぞれが微かに輝きながら軌跡を描きだした。そうして、その一つがアルトの手元のブローチに呼応するように強く輝き始めた。
「アルト、あなたが辿るのはこの星」
ノアは柔らかい声で言った。
「この庭では、星屑の一つひとつが物語を持っているの。それに触れると、その星の物語を体験することになるわ」
アルトは戸惑いながら、目の前の星を見つめた。星は手の平ほどの小ささに見えたが、なぜかその先に広がる無限の可能性を感じた。
「……その星に入ると、家に帰れるの?」
「冒険が始まるのよ。一つの物語が終わると、またここに戻ってくるわ。そして、辿った星たちが繋がり、やがて星座を作るの」
「星座……」
アルトは不満そうにノアの言葉を繰り返した。二人の会話が噛み合っていないことに気づき、ノアは微笑んだ。
「星座が完成すれば、君の世界への出口も見つかるはず。でも、どんな星座がいつ完成するかは、誰にも分からないわ」
アルトはブローチを握りしめ、肩に乗るフィオに視線を向けた。フィオは短く「ピッ」と鳴いて、励ますように羽を広げた。
「私はここで待っているわ。あなたが戻ってきたとき、その星で何を見て、何を感じたのか、聞かせてね」
ノアがそう言うと、手の平ほどの大きさだった星がアルトの目の前で膨らみ始めた。星は次第に巨大な光の渦へと変わり、その中心には暗闇と、かすかな青白い光が見えた。アルトは光の渦へと手を伸ばした。その瞬間、世界が反転するような感覚に襲われた。光が弾け、彼の身体は渦の中に吸い込まれていく。光の渦に揉まれている間、アルトは無数の歌声に包まれているような気がしていた。それは懐かしさと未知の期待が混じり合った音色だった。ノアはその光景を静かに見守りながら、そっとつぶやいた。
「怖くはないわ。きっと、君自身の中に答えがある。いい旅を、アルト」
星の光が消えた後、青と金の光が漂う空間には、ノアと無数の星屑だけが残っていた。
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