第1章 第6話:「また来る理由」

カフェを出る時間が近づき、彩花は名残惜しさを感じていた。星空ブレンドの余韻、穏やかな音楽、そして静かな店内の雰囲気。そのすべてが心を軽くしてくれた気がする。


「そろそろお会計をお願いします。」

彩花がそう声をかけると、店主はお釣りを準備しながらふと尋ねた。


「今日はどうしてこのカフェに寄ろうと思ったんですか?」


その言葉に、彩花は少し考え込んだ。なぜだったのだろう。ただふと目に留まった看板に惹かれた──そう答えようとして、違うことに気づいた。


「たぶん……少し休みたかったのかもしれません。毎日忙しくて、少しだけ自分に戻れる場所が欲しかったんだと思います。」


その言葉に、店主は静かに頷いた。そして言葉を選ぶように話し始める。

「それなら、また疲れたときはいつでも寄ってください。この星空は、疲れた心を癒すためにあるんです。」


彩花はその言葉に心が温かくなるのを感じた。何か特別なことをしてくれるわけではないのに、この場所にはまた来たいと思わせる不思議な魅力があった。


「本当に、素敵なカフェですね。こんな場所に出会えてよかった。」


笑顔でお礼を告げ、カフェを出た彩花は、夜空を見上げた。ビルの間からほんの少しだけ星が見える。まるで、あのカフェの星空が外まで続いているように感じた。


明日もまた忙しい一日が始まるだろう。それでも、心のどこかに「星空カフェ」があると思うだけで、少し頑張れそうな気がした。彩花は小さく深呼吸をし、ゆっくりと家路についた。


このカフェとの出会いが、彩花の日常にささやかな変化をもたらすことを、彼女はまだ知らない──。


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