第1章 第2話:「特製ブレンド」

カウンターに腰掛ける彩花の前に、店主が一杯のコーヒーをそっと置いた。白いカップからは、湯気とともに濃厚な香りが立ち上る。


「どうぞ、星空ブレンドです。」


彼の低く穏やかな声が耳に心地よく響く。彩花は一瞬ためらいながらも、カップを手に取り、そっと口をつけた。


一口飲んだ瞬間、驚きが彼女の顔に浮かぶ。苦味と酸味が絶妙に調和し、ほのかな甘さが後から追いかけてくる。思わずもう一口飲むと、じんわりと体が温まるのを感じた。


「すごく美味しい……」思わず声に出してしまうと、店主は少しだけ微笑み、「疲れている時にぴったりの配合なんです」と答えた。


「こんなに美味しいコーヒー、久しぶりに飲みました。」


自然と会話が始まる。彩花は、彼の落ち着いた物腰に不思議と安心感を覚えた。名前も知らない相手なのに、この空間には重苦しい沈黙や無理な気遣いがない。ただ静かに、心地よい時間が流れている。


「こんな遅い時間まで営業してるんですね。」彩花がそう尋ねると、店主は星空のような天井を見上げながら答える。


「星が見える時間帯にだけ開けているんです。この場所が、誰かの癒しになればと思って。」


その言葉に、彩花は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


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