第5話シナリオ
船の居住区を出た沐漣は、甲板にて順調に魔物を倒していたが、その数は稀に見る多さだった。まるで何かに惹かれるように集まってきている魔物相手に、沐漣が訝しみながらも応戦していると、背後にある居住区の入口のほうから、何やら言い争う声が聞こえてくる。声の主は、咲枝と、彼女の監視役の侍女だった。
咲枝は沐漣の助太刀でもするつもりなのか、箒のような物を掴んで振り回している。その様子はどう考えても戦力にならない一般人にしか見えないが、既に半分以上混乱しているであろう彼女の頭の中からは、そのようなことは吹き飛んでいるに違いなかった。
咲枝たちのほうへ顔を向けたところで、沐漣は危うく魔物の攻撃を受けそうになる。すんでのところで顔を背け避けたが、咲枝たちの出現で気が散ってしまい、確実に疲労も蓄積していた。
「沐漣さん、後ろっ!」
咲枝が侍女の制止を振り切って駆けてくる。翼の生えた魔物が背後に迫る影が見え、沐漣が振り向くより、咲枝が前に出るほうが速かった。
(当たる……!)
沐漣が内心ヒヤッとした時。なんと魔物は、咲枝の中に吸い込まれてしまう。てっきり痛い思いをすると思っていたらしい当の本人も、驚きに満ちた顔をする。先に聖気の結晶石を吸い込んだのを彷彿とさせる出来事だった。更に驚くことに、次の瞬間には、その魔物は再び咲枝の身体から現れ、彼女の周りをぐるぐると飛んで、離れようとしない。端から見ると、まるで懐いているようにも見受けられた。
沐漣と咲枝が困惑している間にも、魔物はバタバタと飛びながら何かを訴え続ける。当然だが、沐漣たちには魔物が何を言いたいのかなどわからない。
「えーっと、助けてくれるってことで良いの?」
咲枝が当てずっぽうに尋ねると、魔物は肯定するかのように跳ね上がる。咲枝はヤケクソになりながら声を上げた。
「よーっし! なら、まずはあっちからやっつけちゃって!」
咲枝が指を差すと、魔物はすぐさまその方角へ飛んでいく。唖然としている沐漣の前で、仲間割れと言えなくもない闘いを繰り広げ始めた咲枝の魔物。咲枝が示した方向へ従順に攻撃を繰り出す魔物を前に、敵の一軍はいとも簡単に片付けられてしまった。
沐漣はこの一件で、咲枝をなんとしても金糸雀へ連れ帰らなければならないと改めて強く感じた。と同時に、このあまりにも異質な少女に関する皇帝への報告を、どうしたら良いものかと思い悩むことにもなるのだった。
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