第7話
「井上公孝です、陸上部に入ってます! 好きな事は部活動での練習とカラオケ! そのカラオケでの十八番は米津玄師! モットーは文武両道で、得意科目は現代文と英語と数学と政経と化学で、苦手科目は特にありません! 将来の夢は陸上選手としてオリンピックに出る事なんで、応援よろしく!!」
思いっきり、吐き出してやった。今の俺の全てと、これからやろうと思ってる事。
本当は泉坂、お前と勝負をする事。そして、これからの俺の夢に、ライバルとしてお前にいてほしいって夢も言いたかったけど、さすがにそれは息を詰める事でぐっと堪えた。言葉を吐きだした俺の視界の真ん中にいたお前の背中が、ぴくりと大げさなほどに揺れた事に気付いたから。
え、泉坂? お前……。
俺の見間違いではない事は明らかだったから、もう一度手を伸ばして、今度こそその肩を掴もうと思った。
お前、席に着く時に俺の顔を見たけど、すぐにそっぽ向いたよな。まるで、君とは今日初めて会いましたよみたいな態度だったけど、本当はお前、俺の事を覚えているんじゃ……。
そう言いたかったのに、それよりわずかに早く、「そんなの知ってるよ!!」と俺を
「陸上部期待のエース様であるお前の事、同じ学年で知らない奴なんていねえだろ?」
「むしろ、他に何ができないのか教えてくれよ、井上~!」
相田と安西か。この二人とは一年の時も同じクラスだった。悪い奴らじゃないんだけど、二人そろうと悪ノリの度合いが二倍どころか五倍にも十倍にもなるんだから、あしらい方を間違えるとちょっと厄介なんだよな……。
「他にっていうか、今はまだできてない事ならあるぞ? でも、今年はガチで狙おうと思ってる」
「へえ、そのこころは?」
相田が机の上に放りっぱなしだったノートを丸めると、それをマイクのようにこっちに傾けてくる。俺はまた本音をぐっと堪えてから、答えてやった。
「そんなの、全国大会での優勝に決まってるだろ!?」
その途端、教室中におお~っと感嘆の息が混じった声が広がり、皆の熱い視線が一斉に俺へと向けられた。
昨日までなら、それらは泉坂を捜す為の手段の一つに過ぎなかった。こうやって、少しずつ俺が有言実行していき、目立っていく様を周りに見せていけば、いつかきっと泉坂に届く。そしてもう一度、お前と勝負できる日が来るって信じて頑張ってきたんだ。
なのに、泉坂はそんな俺の姿を肩越しにちらりと見た後、また前を向いてうつむき加減の姿勢に戻ってしまった。そして、その日一日中、まるで知らんぷりをするかのように、俺とは……いや、誰とも口を利かなかった。
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