第6話シナリオ
遠く下から川の流れの音が聞こえてくる、赤茶に荒れた崖の上。ミレアはその縁ギリギリを、フラフラとたどたどしい足取りで辿っていた上、時折興味深そうに下を覗き込んでいた。レグルスは暫し逡巡した後、極力ミレアを脅かさぬよう、努めて自然に彼女の腕を引き、崖とは反対側へ寄せた。まさにその時、突然銃声が鳴り響く。
「お、お前、【魔荒らし】だな!?」
銃声の発信源である、研究員と思われる男が震えた声で叫び出す。男が喚いている間に、レグルスは戦術を考える。飛び道具対刀、加えてミレアの存在。少々分が悪そうだった。この場を一歩も動かずに攻撃する方法に、魔法という手段もあるが、魔力を憎むレグルスは、気でも違わない限り魔法は使わないと決めていた。
恐怖で気がふれそうな男が今一度発砲すると、ミレアはレグルスの背後へ回った。男の視線がミレアへ移ると、ただでさえ恐怖で歪んだ顔が、更に醜く変貌した。
「第三室の亡霊……! 嘘だろ、じゃ、あそこの室長は本当に【賢者の水】を完成させてたというのか?」
耳慣れない言葉の数々に、レグルスは氷の刃で刺すような視線を寄越す。男は途端に、か細い悲鳴を上げ身を縮めた。
「そうか、わかったぞ。魔を憎むとか言っといて、実は至高の法欲しさに各地の研究室を暴れ回ってるんだろう! だからその亡霊を連れているんだな!」
何が可笑しいのか、男は高らかに笑い出す。既に気がふれているのかもしれない。男の発言とミレアになんの繋がりがあるかはわからないが、つまり男は、レグルスが不老不死の研究成果を盗み出すために研究室を荒らしていると言っているのだ。生かしておけない。そう思ったレグルスは、スラリ、と、とても理性的とはいえない衝動で刀を抜く。男が再度息を飲む。
「ざ、残念だな、ここに【水】はねぇよ」
「そんなものに興味はない」
言い放ち、レグルスが地を踏みしめたその時、男は大声を上げながら発砲した。男の下手な銃が、レグルスではない別の何かに当る。それは、当てられた物の力に逆らわずに後ずさり、崖の縁から足を滑らせ、川へ真っ直ぐ落ちて行った。
「ミレアッ!」
レグルスは手を伸ばすが届かない。急ぎ崖下を覗き込む。ミレアは驚くべき表情をしていた。
──何も、こんな時に笑わなくても
それが、レグルスの見た最初のミレアの笑顔だった。
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