第八話「解放」

 瞬時に隠子夢が速度を変え先に振らせる。それを見切り右ストレート。一は左腕で防ぐ。両者離れて探る。


(スピードは俺。防御力はある方か。時間をかければ左腕を破壊できるがリスクも……)

「何を考えてるか知らんが無駄だ。お前は私には勝てない。何れかわせなくなる」


円を描く隠子夢、その場で一点集中するいち


(‘‘防具’’を使えば楽に勝てる。けど、それじゃ修行にならない。こんなレベル、素手で一蹴しないと。もっと強く……)

隠子夢は‘‘あの日’’の事を思い出す。そして目を瞑り、深呼吸をする。


その隙を逃さず、一瞬踏み込んだが、止め、注視するいち

(目を瞑った。罠か。集中しろ。相手は餓鬼だ。後の先で行く)


隠子夢は半眼のまま歩を進める。ゆっくりと間合いを詰める。心は落ち着いている。一の間合いに右足が入る。刹那、床が弾ける音。雷鳴の如し。


(斬る!)


一は刀を抜く。が、鞘を足で押さえられ、さらに踏み込まれ、左の飛び膝。顎が破壊され血が飛び散る。一は自らの血を浴びながら、何故か五人で遊んでいた子供の頃を思い出していた──



「父様のように強くなって検非違使になるんだ。皆で悪い奴を捕まえるぞ」

かずにい正清まさきよは喧嘩も強くないし、得意なものがないから、なれそうにない。どうしよう」

「大丈夫だ正清。兄様達と遊んでいれば体は丈夫になるし、色々と教えてやるからな」

「うん。村一番の兄様達がいれば怖いもの無しだね。正清頑張る」

「我が不意打ちのやり方教えてやるよ」

「お前に合う武器を一緒に探してやる。なければ作ればいい」

「長物はどうだ。先手必勝だ」

「兄様……。ありがとう。なれる気がしてきた」

「そうだ。我ら五人が力を合わせれば何だって出来るし、誰にも負けない。それにお前達に何かあれば兄が助けてやる。我が絶対──」


「──お前達を守る」



受け身も取れず落ちていく一。薄れていく意識の中、微かに聞こえた本心。烏帽子が取れ、額に付いている黒い角が消えると共に、一の顔に生気が戻る。


隠子夢は一の体を横に向け頚椎に刀を当てる。

「地空の様に出来なくて御免。後で治してもらうから」

その刃で薄く皮を切り、中から黒い物体を取り出す。

(それにしても何故地空はあんな事が出来るんだろう?  ‘‘手当て’’もそう。確か朱雀組は不思議な力を使うらしいし、そこで修行したのかも。後で聞いてみよう)


止血後、隠子夢は地空の方を一度確認し、上へと向かう。体はほぼ無傷だが、心は少しすっきりしない。


(何だかな……)



捕縛され横たわる一の顔は、口から下は赤く染まっているにも関わらず、優しく微笑んでいる。


その穏やかで弟思いの兄の顔には、一筋の光が差し込んでいた──

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