国狩りの男とドクズハーレム〜俺はただ残りの人生を謳歌したかっただけなのに、なんか変な女共までついてきた〜

@glitchman

国狩り、ダーラ

「…なんにもねぇな、俺」


目には血に塗れた包帯を巻き、背中に大剣を担いだこの男はダーラ。


かつて己の狂気のままに一つの国を滅ぼした国狩りとして知られる史上最悪の殺人鬼である。

そんな彼はとある路地裏で腰掛け、見えもしない空を見上げていた。


「マズい魔物の肉食って、ひたすら生き残って、そんで殺して殺して殺して…俺本当に殺戮以外なんにもやってねぇな」


そんな独り言を呟き、ため息を吐く。その姿はすっかり疲弊し切った、覇気も感じられない青年でかつて国をたった一人で滅ぼしたとは思えない姿だった。


「ッ!! いたぞーっ!! 王国騎士団を呼べーッ!!」


「げっ?!マジでしつこいな.....!!」


無論そんな大罪人が指名手配されていないわけもなく、毎日このようにして追われている。少し休んだら見つかり、追いかけ回され、逃げ切ったらまた少し休み、そしてまた見つかって追いかけられる…そんな日々の繰り返しであった。


「あークソッ…もう終わりでもいいかもなぁ…」


そんな日々にもはや嫌気が差し、何度も捕まろうかとも考えた。だがやはり自分の命は惜しいのか、すんででいつもその考えを吹っ切る。

今日もまた逃げ切って、そしてまた見つかって追いかけ回されるのだろうと考えていた。

…しかし、今日は


「…」


路地裏に少女がいた。服もボロボロで、髪も全く整えられておらず、目には正気も宿っていなかった。

いつもなら気にならない、だって探せばそんな子供はいくらでもいるし、そんなものに目を向けても仕方ない。

しかし、今回は何故か彼女が目に止まった。理由を聞かれれば無論わからない。

だがどうしようもなく、彼女が気になったのだ。


「…チッ!」


さらに走るスピードを上げ、彼女のいる路地裏に入り、息を潜める。


「…? 貴方、は」

「うるせぇ、ちょっと黙ってな」


顔を見上げこちらに尋ねてくる少女を睨みつけて黙らせる。

気になっているようだが、不思議と怖がってはいない様子だった。


「クソッ、どこに逃げた?!」

「あんな奴をいつまでも放っているわけにはいかない!早く探し出すんだ!」

「…行ったな。ハッ! ちょっと気配消しただけであっさり見失うなんざ、相変わらず低脳だな」


追手が見失ったことを確認すると、その場によいしょっと座り込む。


「え、えっと…追いかけられて、ましたが…」

「あ?お前が気にすることじゃない、首突っ込むんじゃねぇよ」

「…」


気になったから接してみたものの、そこらの捨てられている奴とは大して変わらなかった。何故ここまで気になったのか結局自分でもわからず、「俺の勘もそろそろ鈍ってきたか?」と心の中でつぶやく。


「…はぁ、なんか拍子抜けしちまったな。さっさとトンズラさせて…「待って、ください」…あぁ?」


立ち上がり、そろそろ移動しようとしたその時。少女に腕を掴まれた。いつもなら無視するところだが、思わず苛立ち振り向いてしまう。


「お前、まさかついて行かせてくださいなんざ言うつもりじゃないだろうな?…いいか、世の中舐めんじゃねぇよ。そんなに生き残りたけりゃ自分の力で食い付けや」

「…」


その弱々しい姿が、かつての自分に重なったことから余計語気が強まってしまう。

少女は目を見開き、驚いた様子でダーラを見つめる。

ショックだったのだろうか。しかしこれならもう付いてくることもないだろうと思い、少女の手を振り払って再び歩き出そうとした、その時だった。


「見つけたぞ!やはり路地裏か…!」


先ほどの追っ手が道を塞いだのである。懐から抜いた剣をダーラに向け、臨戦体制に入っている。


「チッ、流石に隠れるところがワンパターンすぎたか…」


舌打ちをし、流石に今回は戦わなければならないか、と背中の大剣を引き抜こうとしたが、その手を止めた。


『…いや、こいつに適当に囮になってもらえればいいんじゃないか?』


そう思い、少女の方を振り向く。少女は少し困惑したような様子でダーラを見つめていた。


「…おい、ガキ。俺について来たいならこの男を殺せ。お前の力で道を切り開いてみろよ」

「なっ?!お前…そんな幼い子にできるはずがないだろう?!どういうつもり…「黙ってろ」ッ…!!」


語気を強め、追っ手を黙らせる。

さて、ガキはどうなっているだろうか。人を殺すことへの恐怖に押しつぶされている?それとも罪悪感に苛まれている?と考えを膨らませて少女の方に振り向くと…


「えへっ、えへへ…本当に、いいんですか…?!」


嬉々として、立ち上がっていた。先ほどまでの正気のない顔はどこへ行ったのか。その顔は自分と何ら変わりない殺人鬼の、狂気の笑みであった。


「…あぁ、やってみな」


ダーラはただ、ニヤッとしながらそれだけ返す。


「ひっ…?! ま、まさかお前もダーラの仲間「スフラーンス…!」ッ?!ぐっ!!がぁっ?!ひぎぃっ!!た、だずげ…」


彼女がただ一言、そう唱えると男は突如苦しみだし、身体中から血を流して倒れてしまった。


「…えへへ…どうですか? しっかり、殺しましたよ…!


彼女は興奮した様子でダーラに振り向く。その様子はもはや快楽殺人鬼であった。


「…マジかよ、大当たりじゃねぇか」


…そして、彼は久々に彼女が霞むほどの狂気の笑みを浮かべながらそう呟いた。

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