見つめ直す(健斗視点)

*** 健斗視点 ***


「はぁ……」


 金曜日、部活も終わったので今日もまた1人で家に帰っている。真夜から真昼の事が好きだと言われた日から既に5日が経過した。その間、俺と真昼は一度も会話をしていない。


 そして、真夜は俺にあんな事を言っておきながら、普段と何一つ変わらずに俺や真昼達と接している。その接し方があまりにも自然過ぎて、本当に真昼の事が好きなのかと疑いたくもなる。


 だけど、あいつがそんな冗談を言わない事くらい、俺にだって分かるし、柊からは『ようやく、知ったかぁ』と言う始末だ。


「真昼……」


 今までなら、俺の横には真昼がいた。部活で疲れ切った身体も、真昼が傍にいるだけで、力がみなぎり、活力が蘇る。


 ……だけど、そんな真昼は今はいない。先月から真夜や山口と一緒に帰っているからだ。



(そういえば、今日は山口1人で帰ってたな……)



 なら、真昼は今日、誰と帰るんだ? そんな考えが頭に浮かび、真っ先に浮かんだのは真夜だった。


 もしかして、真夜とデートでもしてるんじゃないのか。そんな不安だけが俺の胸の中に残り続ける。



「あら? 健斗君じゃない」

「おばさん……」


 家に着いたので、鍵を取り出そうとバッグを漁っていたら、真昼の母親、春香さんから声をかけられた。


「こんちは」

「ふふふ、こんばんわ。今日も部活だったのかしら。流石、高校生男児ね」

「そうっすね。もうクタクタです。おばさんは買い物ですか」

「そうよ。そろそろ優花も受験だから、力が付く物を食べてもらわないとね」


 そうか、そろそろ優花も受験なのか。確か、真夜が勉強をみてるんだったよな。


(あいつ、自然とそんな話まで付けてたんだからすげぇよな)


 善意が多数を占めてるとは思うが、きっと真昼に近づく目的もあったんだろうなと、今更ながらも考察する。そして、おばさんから最近の真昼について聞かれた。


「真昼から聞いたわよ。喧嘩、したんですってね」

「えぇ、まぁ。色々あって口論になっちまって……」

「ダメよ。男の子が女の子を泣かせるのは」

「分かってるんすけどね。あの時は、どうも色々と興奮しちまって。ほんと俺、何してるんだか……」

してるのね……」



(後悔。……そうかもしれねぇ)



 だって、真昼とあんな風に喧嘩をしたのは生まれて初めてだったし、好きじゃないと言われたのも初めてだ。


 あんな事にならなければ、多少なりとも、真昼の心の中にはまだ俺が──。



「ねぇ、健斗君。後悔するのはいい事よ。自分をなんだから」

「機会?」

「そう。……後悔するって事は、自分に至らない所があったと自覚している証拠なのよ。それをどう直していけば次に活かせるのか、それが重要なの」

「難しいっすね……」

「そんな事はないわよ。それに、迷ったらに相談すればいいんだしね!」


(友達……、相談……)


 それに関連して思い浮かんだのは他でもない、恋敵の真夜だった。あいつはどんな時でも、ちゃんと自分の考えを持ってて、他人を想いやれるすげぇ奴だ。


(きっと、考えて考えて考え抜いて、その中で最良はこれだと信じてるんだろうな……)


 だからこそ、あいつの行動にはブレがない。真っ直ぐ眩しいくらいに……。


「考えてみます。……あの、それで真昼は? もう帰ってるんすか?」

「真昼なら今日、と遊びに行ってるわ。帰りは遅くなると思うし、多分ご飯も食べてくるんじゃないかしら」

「友達……」


 その友達と言うのは、十中八九真夜だと思った。なら、もしかしてデートなのだろうか……。



 それが本当だとしたら……、それはやっぱり、嫌だなぁ……。



***



 おばさんと別れた後、夕飯等も済ませ、今は自室でボーとしてる。


「見つめ直す……、か」


 真夜からも同じ事を言われた。だけど一体、何を見つめ直せば良いのだろうか。それが分からなかった。そんな中、さっきのおばさんの言葉を思い出した。




──それに、迷ったら友達に相談すればいいんだしね!




「友達に相談……」


 真夜は仲直りに手助けは出来ないと言っていたが、くらいなら大丈夫なんじゃないのか? そんな考えが頭を過る。


 スマホで今の時間を見ればもう22時だ。恋敵に頼るのは癪だが、この際、使えるものは何でも使おうと思った。


 それに、この時間なら多分もう家にいるだろと思い、真夜に電話をかけることにした。そして何度かコールした後、真夜が電話に出たのだが──。



『何のようだ……』



(なんか、めっちゃ声のトーンおかしくねぇか?)


 真夜の声は普段とは違い、何処か恥ずかしそうな、それでいてどこか抜けてるような声だった。


『いやその前に、お前どうした? なんかおかしくねぇか?』

『気にするな。色々な事に悶えてただけだ』

『意味が分からん』

『だから気にするな。………………それで、何の用だ? お前が俺に電話するなんて珍しいな』


 切り替えたのか、いきなり普段の口調に戻ったのでびびった。


 あいつの情緒、大丈夫か?


『あ、あぁ。お前にその、相談がしたくて……』

『真昼か』


 即答だった。いやまぁ俺が相談するからにはそれしか無いと思うんだけどさ。


『俺は、手伝えないと言ったはずだが?』

『それでも、相談に乗るくらいは出来るだろ?』

『…………誰の入れ知恵かは知らんが、高橋にしては考えたな。まぁ、相談に乗るくらいなら問題ない』



 癪に触る言い方だったが、今は置いておく。ひとまず真夜に、自分を見つめ直すにはどうすれば良いのかを聞いてみた。



『やれやれ、今週いっぱい、一体何をしているのかと思えば、ずっと考えていたのか……』

『い、いいだろ、別に』

『まぁ、こうして俺に相談してきただけ、成長してると言う事か』


『なぁ、お前も柊も、一度は俺をバカにしないといけない理由でもあるのか!?』

『いや別に? まぁいい。それで、何を見つめ直せばいいのかだったな』

『そうだ』


 ようやく話が進んだかと思いつつ、俺は真夜の言葉を待った。



『とりあえず、何でこの間、真昼と喧嘩になったのか。それは分かるか? 俺を抜いてな』

『……真昼が、俺に不満を持ってた』

『そうだな。確かに真昼はお前に不満を持ってた。なら、その不満って言うのが、何なのかは分かるか?』


 まるで一緒に真相を突き止めようとしている探偵の様な口ぶりだった。



『自分勝手だったとか、真昼に言われた事しか思い浮かばねぇんだ。多分そう言う事じゃねぇんだけど、それが分からねぇんだ……』


『なまじ、長く一緒にいた弊害だな。……なぁ、なんで真昼にを言うようになった? 言うようになったんだ?』

『なんで、今それを』

『大切な事だ。いいから言え』


 真夜にそう問われて、いつから真昼に対して軽口を言うようになったかを思い返した。


 確か──。



『……中1の時、1つ上の先輩から真昼が告白されてた所を見たんだ。それで……』

『真昼がと思った』


 そうだ。あの時、真昼は始めて俺以外の異性から告白された事もあって、困惑しつつも、何処か嬉しそうに報告するから、それで──。


『それが、お前の1だ。いや、今日まで続いた大元と言ってもいい』

『なんで、それが……』

『例え軽口でも、言われた方は悲しむだろ。なまじ、それで先輩を撃退出来たもんだから、お前はそれ以降も、周りへの牽制も込めてやってただろうし。……だがな、真昼と向き合い、自分の気持ちをはっきりと伝えていれば、こうはならなかった』


『遅すぎるって言いたいのか?』

『違う。1人で突っ走り、それを辞めなかったのがダメなんだ。それと、その一件以降、お前、ちゃんと真昼とはあるか?』

『あるに……』

『本当にあると、言いきれるんだな? 毎日作ってくれる弁当に美味しいと伝えたか? 一緒にやってくれた勉強会に感謝はしたか? 真昼との当たり前の日常会話に、誠意を持って接していたか?』



 まるで俺の心を見透かすように真夜は問う。それに対してはっきりと反論が出来ない自分が悔しい。俺は今まで真昼とどう接してきた? それが思い出せない。



『黙るという事は、なんだよ。いいか? 一方通行じゃダメなんだ。きちんと相手の行動や言葉に、が大切なんだ。……それからなんだよ、自分の想いや言葉を相手に伝えるのは』

『耳を傾け、想いやる……』


 真夜の言葉が胸に突き刺さる。思えば俺は、真昼の言葉を受け止めていたか? 感謝を伝えていたか?



(いや、出来てる訳がねぇな……)



 だって、真昼に呼ばれて屋上に行った時、俺は自分の考えしか伝えていなかったんだから……。ちゃんと真昼の言葉を聞いていれば、今頃喧嘩もしていない。



『そういった小さな負の積み重ねが限界に達したのが今回だ。俺はただの引き金に過ぎない』

『…………』



『最後の間違いはな、……真昼をいつまでも、過去にとしか見ていなくて、自分以外に心が傾く事がないと思い込んでいた事だ』


『真昼はな、今や明日を大切にしたいと考えている、何者でもない、なんだよ』




──結婚の約束が何? 健斗にとっては重要なのかもしれないけど、私はそんなのどうでもいいの! だって、そんな約束なんかよりも、好きな人と一緒に過ごす時間の方が私にとっては、何よりも大切だから!!




 真昼のあの時の言葉を思い出す。真夜は真昼と同じだ。真昼は今を大切にしてたけど、俺は過去を大切にして、縋ってた。それが俺にとって、1番話だったからだ。



 思えば、真昼は幼馴染や約束について、大切にしてはいたが、それを重要視する事はなかった。


 逆に俺は、それを重要視していて、今の真昼をちゃんと



 その認識のズレが、今回の喧嘩に……、いや、これまでの事柄の全てに関わってたんだ……。



『なぁ……』

『なんだ?』

『どうすりゃいいんだろうな……』

『んなの、お前が1番分かってる事だろ』


 そうだよなぁ。つーか、何が相談に乗るくらい、だ。バッチリ手を貸してるじゃねぇかよ……。



『あんがと。とりあえず、出来る事からやるわ』

『それがいい。無理に全部やるよりもな』

『お人好し』

『何の事だ? 俺は相談に乗っただけだ』


 そう締めくくり、俺たちは通話を切った。そして改めて、あいつには敵わねぇと思った。



「はぁぁ、つまるところ、俺がバカって事なのか」



 藤原真昼ふじわらまひる。俺の初恋の人で、幼少の頃に結婚の約束をした女の子。ずっとそれが続くと思っていたが、どうやら違ったらしい。


 もう遅いかもしれない。もう俺が望んだ未来には行けないかもしれない。それでも、やり直す事は出来る筈だ。


 いきなり全部をやり直すのは無理でも、少しずつ、少しずつと、元に戻せる筈だ。だから先ずはここから始めるべきなのだろう。



「来週、真昼に謝らないとな……」



────────────────────────



ここまで読んで頂き、ありがとうございます


とりあえず、これで3章の裏側としての話は書けたと思いますので、ようやく2月へと移れます

あ、本エピソードはもう1話続きますし、まだ健斗の物語は終わらないです


今回、真夜の声がおかしかったですね

そろそろ真夜視点が欲しいですよね

という事で、尺と構成の都合で、本編に入れ込む事の出来なかったショートストーリーを書きましたので、時間が是非あれば読んで下さい。


それでは、また明日の投稿でお会いしましょう









── ショートストーリー:悶え ──


*** 真夜視点 ***


「………………恥ずい」


 真昼とのデートが終わり、今は自分の家に戻って来た訳だが、戻るなり自分のベッドの上で静かに悶えている。


 今日の俺は色々とおかしかった。特に"てんぼうパーク"にいた時の俺は、俺であって俺でない。



「何が、「その人に毎日、恋をしているんだから」だ! もう告白同然じゃないか……」



 正直な話、言った事に後悔はない。今週中ずっと真昼に元気が無い事くらい分かっていた。


 だから少しでも元気に、少しでも不安が消えればと思って、俺の想いの全部を乗せたのだから。でもそのお陰なのか、真昼が元気になってくれて本当に良かった。



 だが、問題はその後からだ。


 元気になった真昼はそれはもう凄かった。



(真昼、絶対俺に対して、恋を自覚したよな?)



 元気になった真昼は、これまで我慢でもしていたんではないかと思うくらい、自分の気持ちをはっきりと伝えてきた。それによって俺の理性はゴリゴリ削られ、限界ギリギリだった。


 そして、極めつけは最後だ。


「頬へのキスもそうだけど、あの笑顔は卑怯だって」


 あの笑顔は、以前に見せた笑顔以上だった。あれはもう、の笑顔だった。それで心は限界を超えて、今こうして悶えてる。


 まだ真昼の気持ちを聞いてる訳じゃないから、ただの勘違いかもしれない。それでも胸の奥から嬉しさが湧いてくる。


 短くも長い5ヶ月だった。それだけに嬉しかった。例え勘違いだろうとも、次こそは面と向かって真昼に告白をしたいと考えられるくらい、俺の心は鷲掴みにされた。


 あとは──。


「ミミ、だな……」


 俺に好きだと一生懸命アピールする女の子。俺が知る限り、1番恋に全力な可愛い女の子。


 あの日からずっと考え、自分なりにミミと向き合って来たと思うが、それでも俺の気持ちは変わらない。


 だとすれば、ちゃんとと言わなければならない。



(ほんと、こういう時程バカだよなぁ、俺って……)



 そんな考えをしていると、スマホが突如鳴りだした。まさか真昼か!? と思い、急いで確認したのだが──。


「高橋かよっ!!」


 ベッドの上にスマホを速攻ぶん投げる。とは言え、あいつから電話が来るのも珍しいなと思い、渋々俺はそれに出るのであった。



ショートストーリー:完

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