エピローグ
諦めと素直(真夜、真昼視点)
*** 真夜視点 ***
真昼から名前とあの笑顔を魅せられてからの記憶が曖昧だ。気がつけば自分の部屋に居て、着替えもせず、帰って来たままの状態でベッドに座っている。
「マジかぁ……」
さっきからそれしか呟いていない。それほどまでに俺はあの笑顔に魅了されてしまった。
だって、あの笑顔は今まで高橋にしか見せていなかった。いや、本人にはそんな意図はなく、ほぼ無意識で見せていた筈だ。……そんな笑顔を俺にも魅せるだなんて、誰が予想出来た。
(少なくとも、それはもっと先の話だと思っていたんだけどな……)
「もう、無理だよ……」
俺は昨日までに考えていた事を振り返る。
本当なら今日、真昼が高橋に告白して2人一緒に教室に戻ってくる筈だった。そして、笑顔で恋人になれたと俺たちに報告する。
俺たちはそれを祝福し、真昼たちが仲良く帰るのを見届けてから、雄太たちと俺の失恋パーティーを開いて大いに騒ぐ。
その後は夜遅くに家へ帰り、失恋したことを実感して、思う存分泣いてスッキリして、真昼の事を綺麗さっぱり諦めて、翌週になったら真昼のただの学友、
それが、昨日まで、……いや、今日の放課後まで決めていた俺の、悔いはあっても後悔のない選択だった。……だけど、それはもう無理なようだ。
(もう無理なんだよ、真昼……)
あんな笑顔を魅せられて、シンヤと呼ばれて、喜ばない男は居ない。好きにならない男は居ない。諦めるだなんて言う、そんな薄っぺらいハリボテの覚悟程度では、もうこの気持ちを抑えつける事はもう出来ない。
俺は今、どうしようもなく、真昼が欲しいと思っている。高橋と両想いだとかもうそんなの関係ない。どんな手を使ってでも真昼が欲しいと、そんなどす黒い醜い感情に支配されている。
「…………真昼は泣いてた」
今日、真昼は高橋に告白をしようとしたが失敗した。他でもない好きな相手である、高橋の手によって、独善的な善意によって彼女の一世一代の告白は失敗した。
そんな彼女の表情は本当に辛そうだった。あの涙に、あの叫びに一体、どれだけの想いが込められていたのだろうか……。
(諦めるとかそんな馬鹿な事は、もう考えない)
俺自身が立てた誓いはみるみる崩れていく……。真昼の想いを優先したいのに、その真昼の視線の先にいる高橋があれほどまでにダメならもう無理だ。
仮にこのまま高橋と付き合えたとしても、絶対に何処かで歯車が狂う。そしたら真昼が今回以上に悲しんでしまう。そんなのは耐えられない。
(クズだろう、NTRだろうと、もう関係ない)
あの時は諦めようとして、己の誓いを捨てようとしたが、もう捨てる事はしない。君を幸せにするのは俺でありたいという気持ちは今でも変わりはない。むしろ、強くなった。
もう決めた。もう諦めない。この先、俺はもう2度と、悔いも後悔も残しはしない! 己の道は定めた。
「どれだけ時間がかかったとしても、付き合ったとしても、……必ず君の心、想いの全てを、高橋から俺に、塗り変えてみせる」
それが、俺の新たな誓いになった。
*** 真昼視点 ***
「はぁ、はぁ、はぁ……、私、葉桜君の、名前……」
家に入る間際、本当は真夜君と呼ぼうとしたのに、どうしてか、シンヤと呼んでしまった。そして、そのあまりの恥ずかしさから、彼に何も告げずに、家に入ってしまった。
「な、なんで……」
そのまま、ずるずると玄関で靴も脱がずに、その場で座り込んでしまった。物凄く心臓がドキドキしていて、顔も赤い。自分でも自分が分からないでいる。
そして、勢いよくドアを開けて入ってしまったので、それに驚いたママたちが私の様子を見にやって来た。
「真昼? いきなりドアを開けて帰ってくるなんてどうしたの? ……ってどうしたの、真昼!?」
「お姉ちゃん!? なんで玄関で座ってるの?」
「え、あ、ママ、優花……、あの、私……」
(ど、どうしよう。……私、今、どんな顔になってるの?)
「真昼、落ち着いた?」
「あ、うん。あの、ごめんなさい……」
その後、私はママに連れられて、リビングのソファーに座らされた。そして、ママが持って来てくれた暖かい紅茶を飲んでようやく、心が落ち着いてきた。
「いやぁ、お姉ちゃんが玄関で座り込んでるだなんて、何があったの? もしかしてけんにいさん? と言うより、告白はどうなったの?」
優花が怒涛に質問してくるので、どう返事しようか迷っていると、『優花、少し落ち着きなさい』とママが諭してくれていた。
「真昼、ゆっくりでいいから順番に話しなさい。いいわね?」
「……うん。あのね──」
それから私はママと優花に、今日の放課後にあったことをゆっくりと話した。
告白しようとしたけど、健斗からクリスマスまで待って欲しいと言われた事。
告白出来なくて物凄く落ち込んでいた時に葉桜君が助けてくれた事。
さっきお家まで送ってくれた葉桜君にどうしてか、シンヤと名前で呼んでしまった事。
それらを伝え終えると、『そうなのね』とママはどこか安心したような表情で私にそう言う。優花は、『けんにいさん、何やってるの?』と物凄く呆れていた。
「でも、やっぱり葉桜先輩が助けてくれたんだ。物凄くカッコいいね、お姉ちゃん!」
「そ、そうね。うん……、ほんとに、いつも助けてくれる」
「それにしても、喜んで欲しいねぇ……。真昼はそれでよかったの?」
ママは健斗の発言について私に確認してきた。多分それで納得しているのかと、尋ねているんだと思う。
「……よく、ないわ。だって、私は……」
健斗に告白したかった。それが言いたいのにどうしてか、その言葉が口に出せない。葉桜君の前では言えたのに、どうして?
「真昼、いい?」
「……何?」
「真昼はね、もう少し自分に素直になっていいのよ」
「素直?」
素直って、何に素直になればいいの?
「今、告白したかったって言おうとしたけど言えなかったでしょ」
「え、なんで、分かったの?」
「ふふふ、貴女の親よ。それくらい分かるわ。……でも、葉桜君の前では言えたんじゃないの?」
それも当たってる。ママは『やっぱりね』と私の顔を見てそう呟き、優花は『先輩は凄いなぁ』と感心していた。ママはその後も言葉を続ける。
「それはね、真昼が葉桜君に甘えられたからよ」
「甘えた? 私が、葉桜君に?」
「そうよ。ふふふ、頼りになる男の子がいるとね、女の子はついつい甘えたくなるのよ。パパの時もそうだったわ……」
突然、ママはパパとの惚気話をし始めたけど、ママの言葉を思い返す。
(葉桜君に甘えてた……)
そう考えると、これまで彼と一緒に居た時、私は自分の気持ちを隠すことなんてほとんどなかった事に気付く。いつだって、自分の気持ちを表に出せてたと思う。それが、ママの言う甘えてたになるのかな。
「まぁ、パパのお話は今はいいとして。素直になっていいって言うのはね、そういう男の子の前では自分の弱さとか辛さとか隠さなくていいの。我慢なんてしなくていいのよ。……そして、うんっと甘えなさい。自分のやりたいこと、伝えたいこと、何でもいいの。きっとその全部を受け止めてくれるわ」
ママはそう力説した。思い返してみれば、私は今ままで誰かに甘えたことってなかった気がする。それこそママやパパくらいなものかもしれない。
(でも、いいのかな。私が他の誰かに甘えても……)
そう思い、これまでの自分の行動について振り返ってみた。これまで私は、健斗の事ばかり考えてた。健斗のためにと、健斗がそう言うからって我慢してきた。
だけど、葉桜君の前では違った。我慢とか何もしていない。ずっとずっと、彼は私の事を尊重してくれていた。彼の前でだけ、私はありのままの私でいられた。
そう考えてたら、さっき何も告げずに帰ってしまったことを急に後悔してきた。今直ぐにでも葉桜君に会いたくなった。
「お姉ちゃん、なんだかニヤニヤしてるね」
「へ!?」
私、そんな顔になってたの?
「あらあら、真昼ったら、今日は告白する日だったのに、健斗君のこと、もう忘れてるわね」
「……うん。今はもう、そこまで健斗の事で悲しんでないかな……」
そんな言葉がスラっと口から出て、思わず自分でも驚いたくらいだ。
「ふふふ、葉桜君に感謝ね」
「うん。はざ……ううん、シンヤのおかげだわ!」
そう名前で呼んだが、さっきまでと違い、全然恥ずかしくない。むしろこの名前をもっと呼びたい。彼の前で呼びたくて仕方がない。
今日1日は怒涛の日だった。朝から放課後になるまでは、健斗に告白することに期待を膨らませた。そして放課後になったら、健斗から酷い仕打ちを受けて心が凍り付いた。だけどその後に来てくれたシンヤがそんな私の心を溶かしてくれた。
そして今は、シンヤに会いたくてたまらない。早く来週になって欲しいと心の底から願っている。
(早く、シンヤに会いたい)
第2章:完
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
これにて第2章は完となります。
本当なら第1章のエピローグでも書いていた様に、クリスマス等も第2章として載せる予定だったのですが、思いのほか話数が伸びてしまったこと(文化祭が長かった)、2章最後のエピソードが区切りとして良かったので、一区切りとさせていただきました。
やっぱり文章構成がちゃんとなってないと、そこら辺の塩梅は難しいですね。
それと、0章のあとがきに書いてる4000文字を超える場合、分割すると言うお話は取り下げます。
なんというか、テンポが悪くなると思いました
3章からはこれまでの皆の関係が加速していきますので、お楽しみにしてください!
それでは3章でお会いしましょう。
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