想いと雨 前編(真昼視点)
*** 真昼視点 ***
「おはよう、ママ、優花!!」
「おはよう、真昼」
「おはよう、お姉ちゃん!」
私はいつもよりも元気にママたちに朝の挨拶をした。本当はパパにも挨拶をしたかったんだけど、今日は朝から会議らしく、既に家を出ている。
「お姉ちゃん、遂に今日告白するんだよね?」
「ふふふ、えぇそうよ!」
「あら、そうなの? 相手は健斗君?」
「勿論よ、ママ!」
私がそう答えると、『そう……』と何だかトーンが小さかった。私が不思議がっていると、『気にしないで良いわよ』と言うので、その通りにする事にした。
「真昼、後悔しないようにしなさいよ」
「分かってるわ、ママ」
「…………先輩」
優花は小さく、葉桜君を呟いていた気がするけど、そろそろ学校に行く時間だったので、私はそれを追及する事なく、家を出た。流石に今日は健斗と一緒に登校する事は出来ないので、1人で登校したのだけど、もう自分がどうにかなるくらい、ドキドキで胸がいっぱいだった。
***
「まひる、頑張ってね!」
「応援しているからね」
「ファイトです!」
「ふふっ、皆、ありがとね」
みーちゃんを含めた仲良しグループの皆から声援を貰い、より一層今日の告白を成功させると心に決めていると、村田さんが『そう言えば』と、何かを思い出したかの様に尋ねる。
「今日は夕方くらいから物凄い豪雨と言う予報らしいわよ。……真昼ちゃんは傘、持ってきた?」
(え……、今日雨が降るの!?)
そういえば告白の事で頭がいっぱいで、天気予報を見ていなかったのを思い出した。
「ど、どうしよう。持ってきていないわ!」
「大丈夫ですよ、真昼さん! 高橋君と相合い傘をすればいいんです! お付き合いでの初仕事ですね」
それを聞き、『最高のアイディアだわ!』と、小町さんに伝えた。確かに恋人関係の初めての下校が相合い傘って、物凄くロマンチックで良いかもしれない。
「……ほんとに頑張ってね、まひる」
「みーちゃん?」
みーちゃんだけは何だか、悲しげな表情のまま、私にそう告げるが、私は最後までそれがどうしてなのか分からずじまいだった。
***
「それじゃ、皆、行ってくるね!」
そして放課後、屋上に行くことを皆に伝えて、先に屋上に向かうことにした。向かう前にそっと葉桜君の方に視線を移してみたんだけど、葉桜君は俯いていて、今どんな表情なのか分からなかった。……そういえば、今日は1度も葉桜君と話せていない。話すタイミングが無かったと言うのもある。だけど、彼と話せていない。それが、とても寂しかった。
「まだかな、健斗……」
屋上に着き、私は健斗を待っている。この待っている時間は何とも言えないむず痒さがあり、緊張からなのか、心臓の高鳴りが煩く、それだけ私はこれからの事に期待しているんだと思えた。
そして空を見上げて見れば、確かに雨雲が濃くなっている。もしかしたらそう時間がかからないうちに、降るんじゃないかとさえ思う。
(ふふふ、雨が降ったら健斗と相合い傘……)
既に健斗と恋人関係になれると思っているので、告白後の下校について妄想している。今か今かと待っていると、ガチャっと屋上のドアが開く音が響き、遂に健斗が来たんだと、胸が高鳴った。
「健斗!」
「よう、待たせたな」
心なしか、屋上に来た健斗がいつもよりもカッコよく見えて、更にドキドキ感が強くなる。
「ううん、大丈夫よ! それよりも来てくれてありがとう。とても嬉しいわ!」
「あははは。真昼が呼んだんだぜ? 来るに決まってるだろ?」
「ふふふ、そうだったわね」
この何気ない会話が今まで以上に楽しい。もう、これでもかと言うくらい今、私の、健斗に対する想いは膨れ上がっている。
もう1秒も無駄にしたくない。せっかくみーちゃんや、葉桜君が後押ししてくれたんだから。そんな逸る気持ちを抑えきれず、健斗に告白をする事にした。
「あ、あのね、健斗。今日ここに呼んだのはね、……私、けん──『ちょっと待ってくれ、真昼』」
健斗に告白をしようとした瞬間、健斗に止められてしまった。一瞬何が起きたのかが分からず、私は『え?』と口にするのが精一杯だった。
「ど、どう、した、の?」
震える唇を必死に動かし、告白を遮った理由を尋ねた。
「真昼。真昼の気持ちは俺も分かってる」
それを聞いて、体がビクンとなる。健斗も、私が好きだということに気が付いていたんだと思うと、嬉しくなる。……でも、だからこそ思う。
「え、じゃ、じゃあ、何で?」
「俺はもっと、真昼には喜んで欲しいんだ」
「……喜ぶ?」
喜ぶって何を? だって、告白して恋人になれたら、それ以上に喜ぶ事ってあるのかしら?
「あぁ。俺たちは昔、結婚の約束をした幼馴染だろ? だからそれに相応しい告白があると思うんだよ」
「……相応しい?」
相応しいって何? 私たちは確かに昔、そういう約束をした幼馴染だけど、別にそれに相応しい告白なんて無いわ。
「あぁ! だからさ、クリスマスまで待っててくれないか? 俺が最高の思い出をそこで作るからさ!」
健斗は満面の笑みで私にそう告げた。
(最高の思い出? 何よそれ。私とって最高の思い出は今ここで健斗と恋人になる事よ……)
それを言葉として伝えたくて、小さな勇気を振り絞り、健斗に伝える為に口を開く。
「あのね、健斗。そういうのも嬉しいけど、私はね、今──「それじゃダメなんだ!」」
またしても健斗に遮られてしまった。ダメの理由が全く分からない。そして、さっきまでの胸の高鳴りは嘘のように消え去り、今、頭の中はぐちゃぐちゃになっている。
「今ここで応えても真昼は喜ぶと思うけどさ、それだけじゃ足りないと思ってる。長年一緒にいたからこそ、積もりに積もった気持ちってのは、これくらいじゃダメなんだよ!」
健斗はそう力説する。確かにこの告白は、多くの時間を健斗と過ごして、積み上げてきたからこそである事には間違いはない。でも、どうしてそこまでクリスマスに拘るのかが分からないので、混乱する頭で何とか質問を捻り出す。
「だから、今ではなく、クリスマスなの?」
「そうだ。それに、やっぱり告白は男の俺からした方が良いし、俺たちは結婚の約束をした幼馴染だ! それに相応しいのはやっぱりクリスマスなんだよ。……だからそれまでは準備期間として、今はまだ、ただの幼馴染としていようぜ」
多分、それが理由なんだと思った。健斗にとっては自分の方から告白したいんだなって……。
(でも、裏を返せばクリスマスになれば、絶対に健斗と恋人になれるって事よね……)
必死にそう自分に言い聞かせて、健斗の言葉に返事をする。
「………………わ、分かったわ。その、クリスマスまで、待っているわ……」
「やったぜ! 真昼なら分かってくれると思ったよ」
ほとんど押し付けに近いと思ったが、敢えて口にする事はしなかった。だって、健斗がそう言うんだもん。
「んじゃま、帰るか! そろそろ雨も降りそうだしな」
健斗は雨が降るから帰ろうと、聞いてくるけど──。
「ごめんなさい。……少しだけ1人になりたいから、先に帰ってもらってもいいかしら?」
「そうか? 真昼がそう言うなら分かった。んじゃ、またな!」
健斗はやり切ったと言わんばかりの表情で屋上を後にする。そして、私は──。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうしてどうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして──。
(どうして、こうなったのよ……)
頭の中は、今までにないくらい混乱している。だって、今日は健斗に告白して、健斗が受け入れて、そしたら恋人関係になれた事をみーちゃんたちに報告して、楽しく健斗と一瞬に帰る筈だった。
そして、今までにないくらい幸せな気持ちで家に帰って、ママたちにも報告して祝福してもらって、明日からの新しい健斗との関係に想いを馳せながら、1日を終える筈だった。
(なのに、どうして、こうなったの?)
私が健斗の事が好きなのを健斗は知ってた。そして、事前に知ってたとはいえ、健斗から告白すると言った事から健斗も私の事が好きなのは確実だった筈なのに……。
(お互い好きなんだからいいじゃない。なんで、今じゃダメなの? 相応しいって何なのよ……)
私、何か悪いことでもしたのかなと考えてみるが、何も思い浮かばない。そもそも正常に考える事が、出来ないでいる。ずっとぐるぐると何がダメだったのか答えを見つけようとする。
(なんで、何でなのよ……)
急速に心が凍りつくような感覚がしてきた。もう何も考えたくない、何もしたくない、そんな感情だけが今の私を支配する。
あれから何分、何十分かは分からないけど、何もせず、ただずっと屋上で1人佇んでいる。もう、どうでもよくなる。
そして──。
ガシャン! と勢いよく屋上のドアが開く音が聞こえた。
(もしかして──)
健斗? とも思ったが、健斗がわざわざもう一度戻る事が無いのは私がよく知っている。じゃあ誰が来たの?
そんなのは考えるまでも無かった。だって、私が辛い時、いつも傍に居てくれた。いつも助けてくれた男の子は1人しかいない……。
ゆっくりと俯いていた顔を上げて屋上のドアの方を見る。
(ほらね、やっぱり彼だった……)
そこには息を切らしながら私だけを見つめていると思われる葉桜君の姿があった。
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