怒りと称賛
『お前のクラスで不味いことが起きた、直に来てくれ』
裕也から突然、そんな電話がかかってきた。声からしてそれなりにヤバい状況になっていることが予想される。
『分かった。直ぐに行く。内容は?』
「今はまだ言い争い中だ。藤原さんに男が絡んでる」
電話越しにだが、何やら言い争いをしている声が聴こえてくる。それを聞いて確かに不味いと実感する。
今の状況だと先生が来るまでにはまだ時間がかかると判断し、急いで向かうことにした。そして、俺たちの電話に不安を覚えた山口と雫が口を開く。
「真夜? 何があったの?」
「葉桜君、どうしたの?」
「うちのクラスで問題が発生したらしい。直ぐに向かうからお前らは後から来てくれ」
簡潔に伝えると、2人とも顔色が悪くなる。無理もない。だからここは『安心しろ』と声をかけて、俺は直ぐに教室へ向かった。
状況を知るために裕也には電話を繋げたままにしてもらっているのだが、突如女子たちから悲鳴が上がり、何かがあったと判断し、全力で向かうことにした。
***
「どけっ!」
既に教室の前には多くの人集りが出来ており、通るのが困難なほどだ。なので大声を出しさっさと突き抜ける。
そして、教室に入った俺の目に入ったのは──
「……おい、何してるんだ?」
多分、俺は今までにないほど、怒ってる気がする。胸が熱く、直ぐにでも殴りたい衝動に駆られる。
そこには倒れてる高橋と、涙を浮かべながら高橋を支えてる藤原さんと雄太、その後ろには村田さんらがおり、そして前にはガタイのいい大学生らしき男が2人いる。
俺の声に反応したのか『あ?』と2人の男が振り向くと同時に他のクラスメイト達も俺に気がつく。裕也達も俺が来たことに気が付き、安堵の表情を浮かべる。最悪の事態は免れたのか?
先ずは冷静にと、怒りをグッと堪え、状況確認を行うことにした。
「お客様、これは一体何があったのでしょうか。私の目には私らのクラスメイトが倒れているように見えるのですが」
「あ? 何だよこの執事服に眼帯付けてる痛い奴は。……別に、そこの可愛い女の子に声をかけて、遊ばないかと誘っただけだよ」
「当店はナンパやそれに類する事について、禁止しております。それはご理解されてないのでしょうか」
「あははは。文化祭だぞ? そんなの気にする奴なんていないって、なぁ?」
こいつらは言葉が理解出来ないのか。
「ルールを守る事に文化祭も何も関係ないと思いますが? ……それよりも何故、そこの男子生徒が倒れてるのでしょうか」
そう睨みつけながら尋ねてみれば、行動の理由すら説明つかない回答が飛んでくる。
「だがら、声をかけてお前みたいにアホな事言うもんだからつい、な」
「嘘よ! 真昼ちゃんの手を掴もうとしたから、高橋君が前に出たんじゃない!」
「あ!?」
「ひっ!」
村田さんが殴られた経緯について怯えながらも話してくれた。ほんとに勇気がある。
つまり、強引な手段を取ろうとしたが、高橋が邪魔に入ってムカついたから殴ったというところか。バカらしい。なら、もう気にする必要はない。
「暴力行為について、警察が来ると理解されてますか?」
「あ? こんなのちょっとした事故だろ事故! お前もさっきからうざいなぁ」
殴った事が事故だと? ふざけてるのか、それで一生の傷になる人だっているんだぞ。
かなり短気な性格なんだろうな。俺に近づきスッと手を伸ばし、胸ぐらを掴もうとするので、その手を逆に掴み捻り返す。
「痛!」
そう言葉を発しているが、構わず俺は掴んでる腕を相手の背中側に回し、膝裏を軽く蹴り、床に膝をつかせ、腕の関節をキメる。
ドラマなどの警官みたいに上手くは出来ないけど、即興だしこれでいいだろう。
さっきからただ見ていただけのもう1人の男は何が起こったのか理解出来ていなかったようだが、徐々に状況を飲み込めたのか俺に『てめぇ』と殴りかかってくるので、ワザと殴られ、もう片方の腕で相手の頭を鷲掴みにする。
不格好だけど、これで制圧完了だ。
「「いだだだだだ」」
2匹の猿が喚いているが、気にしない。
「俺の大切な人らに手を出したんだ。この程度で済んでる事に感謝しろ」
本当にムカつく。高橋が殴られて、藤原さんが涙を浮かべる。それだけでこんなに怒りが沸くんだ。藤原さんの身に何かあったら俺はどうなってたんだろうな。
ひとまず安全は確保出来たので、先生らに来てもらうよう村田さんらに頼むことにした。
「村田さん、悪いけど先生たちを呼んでくれるかな? ついでに警察も」
「え? あ、わ、分かったわ! 直ぐに呼んでくる!」
「真夜、どうやらその必要は無いようだ」
雄太がそう呟くと、先生たちがやって来た。どうやら騒ぎを聞いて駆けつけてくれたらしい。
「これは一体、どういう事だ?」
「彼らがうちの生徒に暴力沙汰を起こしました。俺も殴られたのでこうして実行犯を捕まえてるだけです」
その言葉に『ふざけるなよ!』と怒鳴っているが、無視する。クラスメイト達も冷静になってきたのか、先生らに状況説明をしているようだし、これでもう大丈夫だろう。
***
殴った奴らは先生らが連れていき、うちの出し物については少しの間、中断することになった。まぁクラスメイト達もまだ動揺が消えてないわけだしな。
なので、俺は高橋達の所に向かい、声を掛ける。
「高橋、大丈夫か?」
「葉桜……、その、悪い。助かったよ」
「気にするな。藤原さんも無事なようだし、良かったよ」
「ぐ、ぐすっ! うん、私も大丈夫だよ。健斗が守ってくれたし、葉桜君が助けてくれたから」
「俺はただのおこぼれだ。高橋が藤原さんも守ったからこその結果だ」
そう伝えるが、高橋は何やら悔しそうな顔をしている。
「それでも俺は殴られて、倒れちまった。情けねぇよ」
「何が情けないんだ?」
その言葉に高橋は首を傾げる。そう思うのも分からなくもないが、俺はその考えについて訂正を入れた。
「お前にとって、殴られて倒れるのが情けないっていうのか?」
「実際そうだろ。お前はそうならなかったのに」
「俺は単に殴られるのが分かってたから、意地を張れただけだ。普通いきなり殴られて倒れない奴はいない」
「いいか、今回お前は藤原さんをあのバカどもから守ったんだ。それは情けなくも何ともない、むしろカッコいい行動だ。起きた結果じゃなくて、そこに至るまでの経緯こそが重要なんだよ」
そう伝えるがまだ不服そうな顔をしているので、俺は言葉を続ける
「お前が守り、殴られた。その時間があったから最悪の事態の前に俺が来れたんだ。だから、お前は情けなくない。これでお前のことを情けないと笑う奴がいるなら、俺はそいつらを軽蔑する。例えそいつが友人だったとしてもな」
俺の言葉を聞いて、他の奴らも同意するかのように高橋を励ます。ほら見ろ、こいつらはちゃんとお前の行動を見てるんだよ。
そこでようやく殴られた頬が痛くなるのを感じる。高橋も殴られてるんだし、さっさと保健室に行くかと考えていたら、山口たちが戻ってきた。
「まひる! 大丈夫!?」
「みーちゃん! うん、私は大丈夫だよ。健斗と葉桜君が助けてくれたから」
「うわっ! 葉桜君達、口から血が出てるじゃん」
「あぁ、これから保健室に行く所だ。高橋、立てるか?」
そう尋ねてみたのだが、高橋は立とうとした時に顔を歪めた。
「足、やったのか?」
「……殴られた時に捻ったから捻挫だと思う」
サッカー部にとって足は重要だ。全く、余計な事を……。
「分かった。肩を貸すから行くぞ。藤原さんもついてきてくれ」
藤原さんにそう伝えると『分かったわ』と頷くので3人で保健室に行く事にし、教室を出る前に裕也に感謝を伝えた。
「失礼します。高橋が足を挫いたんで、見てくれませんか?」
「暴力沙汰について話は聞いているわ。ベッドに座らせて。貴方も消毒を」
「いや、俺はいいです。手持ちがあるので、俺はこれで」
ささっと高橋をベッドに下ろし、俺は一足先に保健室を出ようとしたところで藤原さんに呼び止められた。
「葉桜君も怪我してるんだから、消毒しないと……」
「この程度何でもないからな。それよりも藤原さんは高橋についてあげな」
それを聞いてもまだ納得していないようだった。
今回の功労者は間違いなく高橋だ。なら、邪魔者はさっさと退散するに限る。なので『本当に大丈夫なんだよ』と言って、俺は無理やり保健室を後にした。
***
「真夜、もう帰ってきたの?」
「あぁ、今はあの2人だけにしたいからな」
「……いいの?」
雫や山口らは俺が藤原さんの事を好きだからこそ、心配した口調で聞いてくる。
「今日はいいんだよ」
「真夜も損な役割だね」
「こいつは昔からだからな」
「うるさい」
その後、藤原さんは戻ってきたが、高橋は病院にそのまま向かったようだ。そして、1週間ほど絶対安静と診断された。
そんな感じで苦い記憶が残ってしまった文化祭2日目は終わった。
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