文化祭

文化祭の始まり

 今日は待ちに待った文化祭当日だ。衣装のお披露目以降もそれといった問題も起きず、順調に準備を進めることが出来た。やっぱりこういうイベント時の団結はいいなとしみじみと思う。


 ちなみに喫茶店の当番じゃない時間帯についてだが、かなり奮闘し見事、1日目に藤原さんと2人で回る約束をこぎつけることに成功した。高橋は面白くない顔をしていたが、2日目は山口の衣装合わせ、3日目はそもそもコンテストのみなので、時間を取ることができない。


 故に色々と手を回したのだが、意外にも藤原さんは乗り気で『いいわよ』と笑顔で答えてくれた。


(2、3日目は両方とも高橋と一緒のはずだから、この初日でどれだけ好印象を与えられるか……だな)


 幸いにも執事姿の俺については大好評だったので、回る時はそのまま着ていこうと思っているのだが、他の生徒にも注目されるのが面倒なんだよなぁと思ってしまう。


「ま、その時はその時だな。それよりもどこを回るべきか……だな」


 パンフには、お化け屋敷や射的、クレープ屋など色々な出し物が書かれている。きっとどこに行っても楽しいのは間違いないのだが、より好感度を稼げる所に行くのがベストだろう。


 となると定番のお化け屋敷かお互い甘いものが好きだからクレープ、ドーナッツ屋辺りがいいかもしれないな。


 そんな感じで高校に行く支度が出来たので、家を出ようとしたところ、LIMEにメッセージが来たのでアプリを開くと、藤原さんからのメッセージだった。


:おはよう、葉桜君! 今日から文化祭だね!

:おはよう。もしかして楽しみ過ぎて連絡したとか?

:よくわかったわね! 健斗はまだ寝てるから葉桜君なら起きてるかなと思って


 あぁ、これだけで嬉しいと思える俺は、どう考えても負けフラグのそれにしか見えない。だけど、こうして連絡するってことは少しは意識してもらっている証拠かもしれない。


:俺はこれから高校に行くところだったんだよ。これから始まろうとしてる文化祭の雰囲気を味わえるかなって

:わぁ、いいなぁ

:本当なら一緒に登校しないかと誘いたいが、高橋と一緒に登校するんだろ?

:そうね、健斗と一緒に登校して、文化祭の雰囲気を味わうわ!

:そっか。じゃあ俺はそろそろ行くよ。連絡ありがとうな

:ううん。こっちこそ、いきなり連絡してごめんなさい。後でまた教室で!


 そこで藤原さんと朝のちょっとしたやり取りを終えた俺は、高校へ向かうため家を出た。



***



「なぁ葉桜、あの行列はなんだ?」

「生徒のお客さんだろ? 何当たり前のことを……」

「いや、高橋が言うのもわかるよ。1学年で行列が出来てるのこのクラスだけだからね」


 文化祭開催まであと10分もないだろう。俺たちは教室で待機している。ちなみに午前はいつものメンバーに村田さん、小町さん、横溝などと言ったクラスでも上位に位置する人気者たちで構成された精鋭揃いだ。


 だからなのだろうか、既に教室の外には物凄い行列が出来ていた。ピンバッチの色から先輩方も多くいるようだな……。


「あははは、これは多分葉桜君の効果だねー」

「俺の?」

「だって、今の葉桜君の執事姿物凄くカッコいいから、みんなそれ目当てだと思うよ?」

「えぇ、男子たちは真昼ちゃんやみーちゃん目当てかもしれないけど、女子の目当ては明らかに葉桜君だと思います。昨日写真で撮らせてもらいましたが、もう最高ですよ」

「村田さんまで……」


「真夜、諦めな。多分、午前中は修羅場だろうね」

「なぁなぁ、何で朝っぱらこんな戦場みたいなことにならないといけないんだ?」


 どうやら、この行列は俺の所為らしい。そして、文化祭開始を告げる放送が生徒会長によって宣言され、ついに文化祭が開催することになったと同時に俺たちの戦場に火蓋が落とされた。



***



「Aセットですね。かしこまりました、お嬢様。お飲み物はどうしましょうか。本日は空もよく晴れていますので。紅茶がおススメでございますが……」

「あ、あ、あ、じゃ、じゃあ、紅茶でお願いします」

「わ、私も!」

「かしこまりました。ごゆっくりお待ちください」


 そんな感じで執事になりきりつつ、注文を受けた俺は藤原さんらがいる待機場所に向かって行ったのだが、後ろでは──


「何あれ、ヤバすぎない!? リアル執事だよ!?」

「めちゃくちゃ、カッコいいよ! あれなら藤村先輩にも勝てるんじゃない?」

「ねぇねぇ、後で連絡先とか交換できないかな──」


 と言った感じで俺の話で盛り上がっていた。


 現在、文化祭が始まって1時間が経過したと言ったところなのだが、いまだに客足がやむことはなく、行列は今も伸びているとのことだ。


 なお体制として、料理を運ぶのは女子の役目とし、席への案内及び注文の接客は全て男子がやることになっている。これは一種のナンパ対策でもあり、それ目当てで来る奴らに対して、問題行動を起こさないよう、常に男子が目を光らせている。


 ちなみに写真撮影、連絡先の交換はなどは禁止にしている。やってたら切りがないからな。


「Aセット、2つ。飲み物は紅茶だ」

「分かったわ葉桜君。みーちゃん、私が紅茶入れるから、Aセットの料理をお願いね」


「いやぁ、まさかここまで大盛況だなんてね。このままじゃあっという間になくなっちゃうよ」

「流石に午後になる前に無くなりました。なんてことは避けたいな」

「なら、私の方で入場規制をかけておくわ。それに、これ以上行列が長くなったら困るからね」


 俺たちの会話を聞いていた村田さんが、どうやら動いてくれるようだ。流石、学級委員長だ。こういう時ほんとに助かる。


 今は席がすべて埋まっているので、俺たち男子は待機場所で小休憩することになったのだが、紅茶を入れてる藤原さんが俺に、さっきの女子たちの事について尋ねてきた。


「葉桜君、さっき注文受けてた女子生徒って先輩だよね?」

「そうだな。バッチの色からして2年生の先輩だな。それがどうかしたのか?」


 この高校では制服にバッチを付けることが義務付けられており、赤、青、黄の3色で分けられている。俺たちのバッチは青色で、2年生のバッチは黄色だ。でも、何で尋ねてきたんだ?


「……別に。可愛い女の子だなぁって」

「まぁ確かに可愛いとは思う」

「否定しないのね。……ふーん、葉桜君ってああいう女性が好みなの?」

「好みと言うか、ただの感想だ。俺の好みはもっと違う」

「ふふふ、そうだったわね。だって葉桜君の好みは──」


 そこまでの会話で藤原さんが何を言おうとしたのかを俺は察知してしまった。なにせ以前、勉強会で藤原さんには俺の性癖がバレているからだ。だが、それよりも気にすべきことは、藤原さんがこの話をしてきたあたりから少し声色に不満な感じが含まれてる気がする。


 もしかしてと思い、藤原さんがカミングアウトする前に勝負に出ることにした。


「藤原さん、もしかして俺が先輩女子に鼻の下を伸ばしてると思ったのか?」

「……へ?」

「それなら安心してくれ。少なくとも俺がそういう反応をする女性は現状1人だけだからな」


 そう伝えると、『え?』と声が零れ、藤原さんは紅茶を入れている手が止まった。


「そ、それって好きな人に対してってこと?」


 藤原さんはちょっと動揺しているようだが、今はまだ話すつもりもなければ俺が誰が好きなのか悟られるつもりもないので、笑ってはぐらかすことにする。


「あははは、それは秘密だ。それよりも紅茶入れないと。お客さんが待ちくたびれるぞ」


 手が止まっていることを教えてあげれば、藤原さんも『あっ』と気が付いたようで、急いで紅茶を入れ、山口に配膳をお願いしに行った。


 その姿を見つつ、ふと高橋の方に視線を向けてみたが雄太らと話してるようで、こっちには気が付いていなかったようだ。


 それに安堵しつつ、着々と藤原さんの意識に俺の存在が根付いてることに嬉しさが込み上げてくる。


(どうやらこの文化祭、それなりにいい思い出が出来そうだ)


 さっきの藤原さんの反応に、この後に控える藤原さんとの文化祭巡り。きっといい事が起きるとそんな予感をしつつ、先ずは午前中を捌く事だなと切り替え、目の前の文化祭を楽しむ事にした。

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