「なんだよ……。じゃあ、水乃に令状だな。死体遺棄になるんだろうな、コレ。」

「はた迷惑な事件だったな...。」

　口々に愚痴をこぼす捜査員達。瞬間、バンッと音が響いた。霧野が目の前のテーブルを叩いた音だ。

「それでも警察官ですか？」

「何？」

　霧野の乾いた笑い声が響く。

「仲間意識が高いことは結構だ。味方は多いにこしたことはない。だが、お仲間意識は捨てろ。コイツが犯人だってアイツも言っていたから。みんなが言っていたから犯人だ。それで、間違っていたらアイツのせいだ、コイツのせいだと言い訳を並べるのか？ふざけるな。警察が間違ってはならない。たった一言、その一言で市民一人の未来が、人生が変わることもあるからだ。もし、松本を誤認逮捕していたとして、誰が責任を取る？お前たちの決定は、お前たちひとりひとりの意思だ！一人の人生を三分割で分け合って責任を取るんじゃない。ひとりひとりが、国民一人分の人生を背負うんだ。それだけの責任と義務を背負う証として、お前たちはその警察手帳を受け取ったんだろ！！！！！」

　言葉を紡ぐその人は、捜査協力者でもなんでもない。

　誇り高き警察官を目指していた、神童丈瑠の真の姿であった。

「警察官は決して間違ってはならない。国民が助けを求めるのは警察だ。警察にだけだ。必ず助けてくれると信じてくれているからだ。その信用を決して地に落してはならない。その信頼に必ず答えなければならない。君たち警察官が国民を守ってくれるからこそ、公安の人間は国の秩序の為に動ける。誇りを忘れるな。いつだって背中に日の丸を背負っていると思え。町行く人々全てが、君たちの家族であり恋人だと思え。見捨てていい国民など誰一人としていない。国民全員が君たちの救うべき、守るべき尊き命だ。ひとりひとりを軽んじるな。その一言に、その行動一つに、全国民の命と人生がかかっていることを忘れるな。それがこの日本という国の誇り高き警察官のあるべき姿だ！！！！！」

　霧野はそう言い切ると靴音を響かせながら、志葉の傍まで来た。そして志葉の腕を取ると、満点の笑顔を捜査官たちに向けた。

「と、以前志葉さんがおっしゃっていました！さすが公安の警察官さんですよね。僕、感動しました！！」

　ねーっと霧野は志葉の顔を覗き込む。

「そ、そう、でしたかね…💦……。」

「もう、忘れちゃったんですかぁー？」

　志葉は無表情を張り付けたまま、「各自、やるべきことに取り掛かるように。」と告げ、今なお腕に纏わりついている霧野、もとい、神童を引き摺りながら退出したのだった。