真夜中の鍋

厨二病患者

真夜中の鍋

都内のアパートに住む大学生のAくん。


12月の寒い時期、1人でテレビを見ながら鍋をつつき肉を食べていた。


「やっぱり寒い夜は鍋で肉をつつくのが最高だな」


炊き立てのふっくらとしたご飯とともに、ときには溶いた卵につけ美味しそうに頬張った。


貧乏な大学生にとって、久しぶりに食べるご馳走。


Aくんは至福の時を過ごしていたが、突如テレビの画面が切り替わり、緊急速報のニュースが流れた。

おととい、死体損壊事件があったらしい。

このアパートの近くだ。


どうやら、バラバラにされた遺体を食べた形跡があるらしい。

歯形から人間と思われると。

いわゆるカニバリズム。

ニュースを読み上げるアナウンサーも、コメンテーターも、

人間の行動とは思えないといった様々なコメントがされる。


「近くにお住まいの方はどうか、見知らぬ人が訪ねてきても決してドアを開けないようにしてください」

アナウンサーは最後にそう締め括った。


「生きづらい世の中になったな」


Aくんはそう呟きながら食事を続けていた。


また数分後、速報のニュースが流れる。


昨日また同じ手口の事件があったようだ。

おとといと昨日と続き、連続殺人事件のようだ。


これまた、恐ろしい事件であるとのコメントがテレビから流れてくる。

そしてその現場は、おとといの事件より更にAくんのアパートに近い。


今まで聞こえていなかったが、近くで警察・救急車のサイレンが鳴り響いている。


「まじか、ちょっと怖いかも」


玄関からノックの音が聞こえてくる。


Aくんはいよいよ怖くなった。

アパートの電気はついてるので居留守は使えない。


「だ、誰ですか...?」


玄関をノックしていたのは、事件現場周辺に聞き込みをしている警察官らしい。

聞くところによると、先日の事件で監視カメラに映っていた人物と似た格好の者が、

このアパートに入っていったとの情報があったらしく聞き込みをしているようだ。


しかしAくんはドアを開けようとしなかった。


「見知らぬ人が訪ねてきても決してドアを開けないようにしてください」


そう、アナウンサーの言葉を思い出して。


ドアの向こうにいる警察官らしき人物は、ドアをガチャガチャとし出した。

一向にドアを開けないAくんに痺れを切らして、部屋に入ろうとしているのだ。


Aくんはとっさに、台所にあった包丁を取り出す。

そして部屋の電気も落とした。


やがてドアの鍵は解除され、警察官らしき人物が侵入してきた。

かつこつと靴の音が近づいてくる。

その歩く振動で、さっきまで食べていた鍋がグラグラと揺れている。

ドアが開いたことで外の冷気が流れ込んでくる。


Aくんの心臓は、異常なまでに脈を打ち出した。

一刻もこの場から逃げたい、誰か助けて。

そう思っていたのも束の間。


警察官らしき人物が部屋の電気をつける。


悲鳴が聞こえてきた。


数十秒ほど悲鳴は続いた。


異常を察知した近くにいた別の警察官が駆けつけてきた。


その警察官が目にしたのは、最初の警察官の遺体と、人肉と思われる肉が詰まった鍋だった。


唖然とする警察官が、拳銃と手錠を用意するとAくんはつぶやいた。


「生きづらい世の中になったな」


鍋からは、赤く染まった遺体の一部が見え隠れしていた。

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真夜中の鍋 厨二病患者 @tyuni-byou

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