【害虫アパート】弁護士なしで個人裁判の記録
ぐらこ
第1話 和解するか、裁判を継続するか
害虫(いわゆるG)が出るアパート。
不動産屋にとって借主がお客であるのは契約が成立するまで。
契約後は貸主を主人として行動する。
そうした態度や言動が目立つ不動産屋だった。
害虫アパートを退出してから半年が経った。
しかし、裁判は2025年になった今も終わっていない。
次は2月に裁判がある。
2月の裁判までに、和解に応じるか、裁判を継続するかを決める必要がある。
和解に応じる場合は、請求額の40万円に対し20万円で和解して終了。
裁判を継続する場合は、更に1年は掛かるだろう。また、裁判で回収できる金額は10万円以下になるかと見込んでいる。
害虫が出ることを理由に契約金から家財までを求めて勝った裁判の判例がないからだ。
正直なところ、被告側が簡易裁判から通常裁判に切り替えてくるとは思わなかった。
これ以上の面倒を避けて、40万円で支払いに応じてくると予想していた。
弁護士費用だけでも30万円ぐらいはすぐに行ってしまうからだ。
それならば裁判をせずに原告から求められた金額を払った方が早い。
被告には不動産屋と家主を連名で記載しているので、双方で分ければ20万円ずつだ。企業や金持ちならそれぐらい安いものだろう。
4月後半にまだ不動産屋と話し合いをしているとき、家主から害虫駆除と工事費の44,000円の半分、22,000円なら払いますよという打診が来た。
そのとき、私はアパートに居住できないことを理由に、入居に関わるすべての金額について契約費用から家具の代金までまとめて40万円程を返金してもらわないと気が済まないと思っていたので、22,000円の話は断り退去を決めた。
退去後、内容証明書を作成し不動産屋と家主に送付した。双方に無視をされた。
次にこの内容証明書を以て簡易裁判を起こした。
しばらく経って家主から届いたのは約88,000円を支払うので取り下げろという書面だった。
私はこれを拒否し、簡易裁判当日を迎えた。
簡易裁判所に被告らは来なかった。
ただし出席に相当する書類が提出された。
そこに、簡易裁判から通常裁判への移行を求めると記載されていた。
12月、通常裁判が行われた。
そこには被告側の弁護士と家主が法廷に座った。
傍聴席に被告側の男性がいたが、おそらく不動産屋の社員だろう。
裁判開始すぐ、裁判官が資料を改め、被告側から和解の申し出があったため裁判は中止された。
法廷の別の部屋に通され、相談員の人から示談金はいくらが希望かと問われた。
私は満額でと言ったが「それでは和解にならないよ」と言われた。
満額を求めるのであれば、和解ではなく裁判になるとのことだった。
そりゃそうだ。
最低でも30万円は返して欲しいが、被告側から提示された金額は20万円だった。
お金の問題もそうだが、そもそも悪徳不動産屋と家主が今後も同じようなアパート管理をしないようにするには、判決を出して判例をつくりたいという気持ちがある。
私の判例があれば、多くの人がこの判例によって訴えやすくなる。
この裁判をするまでネットで判例を探し、国会図書館や県内の図書館に電話をし、判例のある法務会社に電話をし、総務省にも電話をするなど、とにかく自分で入手できる情報を探した。
しかし、害虫(G)による被害を一般のアパートの借主が訴えて、判決まで出ているという事例を見つけることができなかった。
おそらく、多くの人が害虫やネズミなどの被害については、和解や示談をしているのではないかと思う。
また、裁判を続けることで相手側の弁護士費用が上がってゆくことに恐怖があった。ことによっては弁護士費用を含めた裁判費用を、原告である私に請求する裁判を起こすこともありえると思った。
そうすれば、裁判に負けて10万円程しか入らないが、裁判費用で100万円を請求され、結果として90万円の赤字になるということも考えられる。
私は考えながら感極まって「借金したとしても仕事してるから払いきれます」と同じ言葉を何回も繰り返して泣いた。
相談員の人が私をなだめながら「負けると思うなら和解したら」とやんわり諭してくれた。
でも、和解か裁判か、10分程度でことを決めろというのは無理があった。
悩んでいると「では、ひとまず考えるってことでどう?」と提案してくれた。
それを受け入れることにした。ひとまずいったん考えたい。
原告も被告らも、法廷に戻った。相談員の人が裁判官にそれを伝え、次回の日程を決めることになった。
裁判では、被告らに対して一言も苦痛や苦悩を訴えることができなかった。事前にYouTubeで勉強していたので、当日は口頭ではほとんどなにも言えないことは分かっていた。事前に書面で訴えることはできたので、できる限りこちらの言い分を記載しておいてよかった。
本来は精神的なことや気持ちを準備書面に記載することは意味がないと教わっていたが、書かずにはいられなかったので少し書いた。
被告らの弁護士が通路で話をしていた「言ったもの勝ち」と。いや、私は全然勝っていない。
なにしろ、1日も居住できずに40万円を失うことになったのだから。
つづく。
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