近接無双の回復術師~触れたもの全てを治せるチート転移者が、闇ギルドから脱出して自由を求める物語。美女A級冒険者の弟子になったら、ヒーラーなのに前衛で戦うスパルタ教育が待っていました~

にんじん漢

第1話 軟禁生活

 治水慶十郎。19歳。

 俺は今、怖い人たちの元で働かされています。ここは闇ギルド【卑屈な小鬼】のアジト。古い酒場のような建物だ。


 ここで俺は回復魔術で客の治癒をさせられている。


 「おい小僧!次の客が来たぜ!なんでも監獄から脱獄する時に切った脚を元に戻してほしいんだとよ」


 「その次の依頼は呪いの解除な。冒険者を殺した時にかけられた呪いを解除してほしいんだとよ」


 しかも客もヤバい人ばかりで、治癒するごとに自分の心がすさんでいく。魔力が切れたら休んで、回復したらまた治癒をして。そうして道具のように酷使される日々だ。


 何でこんなことになってるんだろうか。俺は2年前のことを思い出す。


 事故で足を怪我して入院していた俺は、気づいたら俺は見知らぬ森の中にいた。


 これだけでも衝撃的な現象だが、これ以上に驚くべきことが起きた。

 折れた脚が痛んだので、痛いの痛いのとんでけって具合に手で撫でた。すると一瞬にしてその怪我が治ったのだ。一生歩けないかもしれないと言われた大怪我だったのに、それが一瞬で完治だ。


 俺は最強の痛いの痛いの飛んでけを手に入れてしまったと即座に理解した。


 そうして治った脚の感触を確かめながら、しばらく森を歩くと、大きな剣を持った大男たちに遭遇した。その人たちとの会話の中で俺が異世界に来てしまったということが分かった。


 正直治癒能力を目にした時の方が衝撃的だったな。あれを見た後で異世界と言われても、道理でねという感想しかなかった。


 なぜ俺が異世界に転生したのかは謎だが、この世界でも言葉が通じたのはせめてもの救いだな。


 いや、いっそ言葉が通じなかった方がよかったのかもしれない。だってその大男たちがこの闇ギルドのメンバーだったんだから。


 俺は生きていくために自分の治癒の能力をプレゼンした結果、彼らに捕まってしまったのだ。


 こうしてこの建物まで連れ去られてから2年もの間、軟禁治癒漬け生活を強制されているのだ。


 はあ、せめて第一村人がまともな人間だったらな。教会とか冒険者ギルドとかで働けたかもしれないのに。なんでよりによって犯罪者集団に捕まって片棒を担がされてるんだろ。


 入院生活の不自由から解き放たれたと思ったら、また不自由がやってきた。俺は自由になりたい。


 「今帰った」


 「「「おかえりなさいませボス!」」」


 アジトにボスが帰ってきた。髭がもじゃもじゃのおっさんだ。この人が一番怖くておっかないんだ。


 「治癒の小僧が人体だけでなく、物の修復までできるってのは本当か」


 「はい。3日前ほどに発覚しました」


 3日前に俺は落とした皿を拾おうとして指を切ってしまった。その怪我を治そうと治癒魔法を使ったら、指の傷だけでなく皿の損傷まで元に戻ったのだ。それを周りにいた男たちにも見られてしまっていた。また便利な機能を見つけちゃったというあいつらの顔はひどく不快だった。


 「その噂がすでに他の闇ギルドまで広まってる」


 「おお、じゃあこれからまた治癒ビジネスで稼げると」


 ギルド内の男たちが盛り上がる。しかしボスは浮かない表情だ。


 「そんな悠長な話じゃねえ。ただでさえ強力な治癒や解呪の力で裏世界で注目されてたんだ。さらに物の修復ができるなんて知れたら、下手したら他の闇ギルドが一か八かこのガキを奪いに…」


 ドーーーン!!


 ボスがそこまで言ったところで建物の外から爆音がした。今の話からして誰かが俺の身柄を狙ってやってきたのだ。俺ってばそんなヤバい能力を持っちゃってたのか。


 「早速来たな。野郎ども!【卑屈な小鬼】に喧嘩を売ったことを後悔させてやれ。命をかけても治癒のガキを守り抜け」


 もじゃもじゃのおっさん…俺のことをそんなに大切に想ってくれて…


 「こいつはこのギルドの収入の柱だからな」


 そうですよね。別に仲間だから守るとかそういうわけじゃないですよね。期待した僕が間違ってました。


 ちなみにもじゃもじゃのおっさん以外は馬鹿ばかりなので、収入の柱である俺をサンドバックにすることもあった。大切にした方がいいと思うが、チンピラにそんな知能はない。無限に治るサンドバックを痛めつけるのが面白くてやめられないらしい。


 もう襲撃者はこいつらを倒しちゃってくれないだろうか。いやその襲撃者も俺を利用しようとしてる奴らだからダメなのか。終わってんな異世界。


 「じゃあお前は奥の部屋に入っとけ。あとこの隙に乗じて逃げようなんて考えるんじゃねえぞ」


 そう言われて俺は他の小部屋に監禁されてしまった。扉には外から鍵をかけられる。


 はぁと俺はため息をついた。


 この闇ギルド同士の抗争でどちらが勝っても、俺のこの不自由な生活は変わらない。なんでこんな人生になっちゃったんだろ。


 逃げるか。まあ鍵もかけられてそんなチャンスないんだけどな。何を夢見てんだろ俺は。


 ドガーン!!


 外の戦いが激化していく。今の音はビックリしたな。おそらく魔術による砲撃が着弾した音なんだろうが、俺に直撃したのかと思うほど近かったぞ。


 「おいおい、みんな俺を大切にしてくれ…よ…」


 振り向くと建物の外壁が壊れていた。


 「あれ?これ逃げれるんじゃね?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る