第6話 堕蛇、戦う
バクが村を出発してから30分も立たない間に、三匹の魔物が襲い掛かって来た。
三匹とも四足歩行で狼の様な見た目をしているが、口からは涎を垂らし、何処か下品な印象を受けた。体を覆う毛の色も緑色で前の世界では見たことも無い様な見た目である。
「ガルルルルルルルル‼」
三匹はバクを唸り声を上げながらバクを睨め付ける。どうやら彼女を獲物として認識している様だが、当のバクは慌てた様子もなくジーッと緑色の狼たちを観察している。決して狼たちを舐めているわけではない。もう敵を前にして舐めるなんて愚行は犯さないと心に誓っている。どんな相手でも全力で叩き潰す。それが今の彼女の戦闘スタイルである。
「ガァァ‼」
一匹の狼が痺れを切らしてバクに飛び掛かる。他の二匹はそれを傍観していたので、三匹の間にチームワークの様なものがあるかは怪しいところである。飛び掛かって来る狼を見据え、バクは静かに呟く。
「クラップ」
すると彼女の右の制服の袖から銀色の鎖が飛び出し、しなりをながら真横から狼の体を鞭の様にバァン‼と叩いた。これにより狼は吹っ飛ばされて地面に落とされた。泡を吹きながらビクンビクンと痙攣する狼。生死は不明だが戦闘不能なのは間違いなかった。
狼を一匹倒しても一切の油断のないバクは、すぐさま他の二匹に視線を移す。出来れば早く倒して日が沈む前にオームの町まで行きたかった。
「来ないならコッチから行くよ、ストライク」
今度は鎖が真っ直ぐに狼目指して飛んで行く。そのスピードたるや音速であり、とても狼が反応できるスピードでは無かった。
“ガァン‼”
鎖は狼の頭に直撃し、そのまま後方に飛ばされる狼。そのまま二転三転と地面を転がり続け、遠くの方で倒れたまま動かなくなった。戦闘不能の有無は確認できないが、バクは仕留めた手ごたえを感じたので、とりあえず視線を最後に残った狼に移す。
「最後はアンタだけど、どうする?逃げるなら見逃してあげるけど」
昔のバクならこんな時に下卑た笑いをしていたところだろうが、そんなことをすることからとっくに卒業していた。
狼は暫くバクを見て唸っていたが、暫くするとクゥン鳴いてから尻尾を巻いて足早にその場を立ち去り始めた。一匹ではとてもバクには勝てないと思ったのだろう。
自分に尻尾を向けて隙だらけではあったが、バクは何もせずに暫く狼を見つめていた。勝負に負けて逃げる自分と狼を重ねてセンチメンタルな気持ちになっていたのである。冒険に出て初めての戦いに勝利したものの、バクに何の感動も無かった。ただ昔の自分を思い出してブルーな気分になっただけである。
さて、とにかく脅威は去った。バクは鎖を自分の体に収納して歩き始めた。
バクは服の下に鎖を四本ほど体に巻き付けている。四本とも三メートル程の長さで、それを体に巻き付けるとなると重そうだが、常時、能力をオンにしているので重さは全く無く、すぐに取り出せるようにしている。前の世界に居た時から鎖をこういう風に装備しており、自分は無防備だと敵を油断させる意味においても効果的である。
自分の鎖が魔物相手に通用するのか不安があったバクだったが、魔猪相手にも狼相手にも充分に通用したので安堵していた。それと、この世界に来てから鎖を操るパワーが増している様に感じられているのだが、その理由はバクには皆目見当がつかなかった。まぁ、良いことなので問題にすることも無い。
鎖も充分に通用するが、それでもバクは不安を持っていた。鎖はいつ壊れるかもしれないし、強敵になれば普通の鎖では通用しないかもしれない。ゆえに強い鎖を求めてオームの町を目指しているのである。トニオの話によると、オームの町には昔に邪竜を封印したとされる『神の鎖』というアイテムがあり、如何なる攻撃にも呪文にもビクともしないとされる代物だった。それはまさにバクにうってつけであり、手に入れないという選択肢は彼女の頭には無かった。
「最強の鎖を絶対に手に入れる」
歩きながら決意を口にするバク。早く強い鎖を手に入れて一定の安心を獲得したい。旅の当面の目標はそれに決まっていた。
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