報告
愛しの妹と感動の再会を果たし、それから何やかんやと自分が異世界に行っている間のことを聞いた。
「あの、今って西暦何年ですか!?」
なんていう、人生でいつか言いたいセリフ第七位くらいの質問をして、マッチと会う前から浦島太郎状態なのは把握していた。
でも、把握はしても実感はしてなかったんだな。
一回り下で、ひたすらに可愛がっていた妹は、今は美魔女──初めて聞いた言葉だが、要するに歳の割に若々しくて美人なおばさんってことらしい──なんて呼ばれているようだ。
あんなに小っさかったのになあ、もう56だってよ。
マッチは68だし。
てかマッチは『60を超えた政治家は全員引退しろ』とか言ってたくせに、自分は70手前で官房長官なんかやってるのかよ。
と、思ったけどあの当時と今じゃ状況が違うしなあ。
ちなみに奈緒が美魔女って呼ばれているのは──本人が美形なのもあるが──明らかに肉体が若いからってのもある。
そして、それは(こちら風に言えば)探索者として魔物を狩っていたから──レベルが上がっているからに他ならない。
こっちの世界でも『レベルが上がると老化が遅くなる?』なんて言われているらしいが、あちらの世界では常識だった。
そもそも長命種なんていう500年1,000年当たり前に生きるヒトが居る世界ではあるが、どんな種族であっても高レベル者は──種族平均と比べると──明らかに長寿であった。
こっちではダンジョン出現から50年だから、まだその辺の検証は進んでないようだけど、これからは当たり前になってくるだろう。
なんせ、長寿といっても年寄りのまま長生きするわけじゃなくて、老化自体を遅らせるのだから、若い内からレベルを上げてる人間であれば、還暦過ぎても今の俺くらいの見た目だったりするわけだし。
科学的(魔法的?)な証明とかは知らないが、見てわかるほどの抗老化の方法があるのに、人類が飛び付かないわけがないのだ。
向こうでは、戦士ではない貴族の女性が、その効果を得るためだけにレベルアップをする、そのための護衛なんていうクエストがどこの街でも──街と呼べる規模の集落であれば──あったくらいだ。
まあ護衛といっても、実際にはその女性が所属する貴族家から兵士だのなんだのを出して彼女らを守り、クエスト参加者はいわゆる勢子の役割で、貴族の集団に向かって魔物を追い立てるのが仕事だ。
その後、家の兵隊が弱らせた魔物にトドメを刺すのが異世界の美容法というわけだ。
閑話休題。
そんなわけでこっちの世界では随分と時間が過ぎていて、妹はおばさんになってるし、幼馴染は官房長官になってるし、スマホやら配信者やらなんかよくわからないものが世には溢れているし、両親は亡くなっていた。
俺が変にダンジョンの出現と同じタイミングで異世界召喚なんてされちゃったもんだから、息子はどこかのダンジョンの中に居ると思い込んだ両親は歳も考えずにダンジョンに潜ったり、他の探索者に聞いて回ったりしていたらしい。
ダンジョンの誕生時には常に同時に地震が発生するんだけど、それが全世界的に複数同時に誕生したもんだから地震の被害も察して余りある。
加えて各ダンジョンは誕生と同時に魔物の氾濫を引き起こした。
大地震によって各種インフラが崩壊しているところに、わけのわからん化け物の群れとか、端的に言って地獄でしょ。
狭義にはこれをダンジョン災害と呼ぶらしい。
そんなダンジョン災害後に、自腹かつ自己責任でダンジョンに潜っていた命知らずたちを集め、管理する組織として、いわゆる探索者ギルドができた。
正式名称は別にあるが、ダンジョン省──これの正式名称も別にある──の下部組織で、探索者の管理やダンジョン資源の管理が主な業務らしい。
そんな組織ができてからは、各支部に俺の情報はないかを問い合わせたりもしていたとか。
結局は、遺品のひとつも見つからず、失意のまま亡くなったらしい。
そりゃ遺品なんて見つかるわけないよな、死んでないんだからさ。
むしろ俺の方が両親の遺品を渡されたよ。
手紙だった。
毎年、俺がいなくなった日に、その一年であったことを書いていたようだ。
〇〇さん家の〇〇くんがダンジョン災害で亡くなった……
浩一郎くんは東大に進んだ、本当ならアンタも一緒に……
浩一郎くん、卒業後は官僚になって、ダンジョン省にいくらしい……
奈緒ちゃんが中卒で探索者になる、お兄ちゃんを見つけるんだと言って聞かない……
奈緒ちゃんが美しすぎる探索者として話題に、本人は嫌がっている……
最近は身体を動かすのが厳しくなってきた……
何度も諦めようとした、でもできなかった。
自分たちが諦めてしまったら、それで本当に青平がいなくなってしまうようで。
たったひとりの息子を、自分たち両親が消してしまうようで。
今、どこにいますか。
会いたいです。
そんな四十二通の手紙を読み終え、目の前の墓石に手を合わせる。
先祖代々の墓はダンジョン災害の時に潰れてしまったらしく、両親の死後はこの、奈緒の仕事場の近くにある山奥のこぢんまりとした霊園に墓を建てたらしい。
「奈緒」
「ん?」
「ありがとうな」
「なにがー?」
「色々」
「うん。どういたしまして」
「もう一個お願いがあるんだけど」
「なに?」
「すぐ行くから、先に車乗ってて」
「……うん。ゆっくりで良いよ」
背後の気配が遠ざかっていく。
まったく、美魔女呼ばわりも納得のいい女になりやがって。
強がって、冷静なフリをできたのもそこまでで、
堰を切ったように、涙が、言葉にならない思いが、溢れた。
「あ、あ、ああああああああ」
「お、れが、俺が、あと、一年、早く」
「父さ、かあさ、ん、ごめ、なさ」
手の中の手紙に涙が落ちて、元からところどころ滲み歪んでいた文字がさらに歪んだ。
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明日から仕事初めなので更新頻度は確約できませんが、なるはやで頑張りたいので応援よろしくお願いします。
Nikolai Hyland
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