第3話 悪役令嬢として当然ですわ
「エレシア」
ほどなくしてやってきた宰相閣下、つまりはエレシアの父は、驚きを隠せないままエレシアの前の椅子に座り、自分の娘を頭のてっぺんからじっくりと見た。その姿は、今朝と何ら変わりがない。つまり、今朝見た卒業パーティーに参加するといっていたドレス姿のままなのだ。違う点は化粧が少々崩れていることだろうか。
「お父様、確認したいことがございます。単刀直入に聞きますわ。エドワード様は何をしてらっしゃいます?」
「自室で例の男爵令嬢と仲良くしているぞ」
「何もエドワード様から聞いてらっしゃらない?」
「何も聞いていないな?」
そう言って宰相閣下はついてきた秘書官に確認をとる。秘書官は黙って首を左右に振った。
「エドワード様が、私に向かって「お前を幽閉に処す」って言ったのよ。何も報告してないってどういうことよ。まさかと思うけど、あのバカ、書類を起こすってことを知らないのかしら?」
一応自分の婚約者でこの国の王子である人物をあのバカ呼ばわりは、なかなかなものなのだが、咎める人は誰もいない。
「失礼ながら、エドワード様は何をするにも書類が必要で、自分の予算を使うにも決裁が必要なことをご存じないようです」
秘書官がしれッとそんなことを言って、一枚の紙を出してきた。そこには箇条書きで何かがびっしりと書かれている。
「え?何よこれ?マリアンヌ嬢のドレス代、マリアンヌ嬢の食費、マリアンヌ嬢の世話係……は?どこから出すのよこのお金」
箇条書きに書かれていたのは、本日だけでエドワードが勝手に使った金額だった。マリアンヌつまり件の男爵令嬢でこのゲームのヒロインに当たる人物だ。とはいっても、卒業パーティーで悪役令嬢エレシアを断罪したからゲームは終了しているわけで、もうマリアンヌはヒロインではないのだ。ついでに言えば
「エドワード様も、自分がまだ王子のつもりでいるみたいですけど?」
秘書官が困ったような顔をして書類を一枚出してきた。昨日付でエドワードは王位継承権を失っていた。なぜなら、議会で承認が得られなかったからだ。執政者としての教育をまともに受けてこなかったから、議会で異議ありとなり王位継承権を失ってしまったというわけだ。おまけに、王城に王族でない人物を連れ込んで、勝手にお金を使っている。マリアンヌのドレス代というのは多分今日の卒業記念パーティーで着ていた趣味の悪いピンク色のフリフリドレスのことだろう。大昔のアイドルみたいな、肩が大きく無駄にレースがあしらわれていて、スカート部分にはこれでもかというほどレースで作られた花が縫い付けられていた。其のドレスの仕立て代を本日経理に回してきたのだろう。多分、エドワードの王子としての予算が余っていれば何とかなるだろうけれど、エドワードはずっとマリアンヌにたいして浪費をしていたので、実は予算がかつかつなのだ。
「まあ、まだ伝えていないのだから仕方がないとは思うのよね」
エレシアがそんなことを口にしたものだから、宰相閣下が呆れた顔で聞いてきた。
「伝えていないと言えば、そもそもなんだってお前は
「ああ、それは、ですね。お父様。騎士がとりあえず私を馬車に乗せたまではいいのですが、どこに幽閉するかエドワード様が指示をしませんでしたでしょ?ですから貴人の幽閉先と言えば
「なるほど、しかしだな。その騎士からは何も連絡が来ていないのだぞ?」
「私もそれで困っていたのですわ。だって、交代の時間が来ました。って言っていなくなってしまったのですもの。そのあと、いくら待っても誰も来ませんでしたのよ」
「それはエドワード様が書類を起こして指示を出さなかったからです。交代の騎士はいつも通りにエドワード様の宮殿に行きましたから」
秘書官がしれッと答えた。
「それはそうよね」
エレシアは深ーいため息をついた。そう、今現在この無憂宮はエレシアが不法侵入した状態なのだ。早急に手続きをしないと、エレシアは罪に問われてしまう。
「よし、決めたわ。お父様、私ここに住むことにします」
「な、なぜ?」
「だって、王位継承権を持っているんですもの私。王城に住む権利、ありますわよね?」
「そうですね。エレシア様以外の方は皆さん王城に居を構えていますから、学園を卒業され成人となられたエレシア様は
そういうが早いか、秘書官はあっという間に書類を起こし、不備がないか確認を要求してきた。もちろん住む本人エレシアにとって過不足がないかはもちろん、父親である宰相閣下からは警備体制などの不備がないかの確認だ。
「これでエレシア様は本日から
仕事は早いことに越したことはない。おかげでエレシアは不法侵入の罪に問われることは無くなった。そうなると、今度は元王子となってしまったエドワードの問題を処理しなくてはならなくなった。
「エドワード様は本日付で無職となりますから、早急に就職して頂かなくてはなりませんね。失った王位継承権を取り戻したいのなら、宰相閣下の元で働くことが最短ではありますが」
「断る」
「私もお断りします」
秒で断られてしまった。仕方の無いことだが、エドワードは頭が弱い。執政者としての教育を怠ってきたから、即戦力として使えないのが実態だ。
「とりあえず、私に「婚約破棄だ」とも言ってきましたから、私にとってはもはや他人。さっさと王城から出ていって貰えばよろしいのではなくて?」
「そちらの書類の処理は?」
「ああ、婚約の?そもそもそれについては書類さえ交していなかったからいいのよ。お互いが王位継承権を持っていたってだけの結託?同盟?まぁ、口約束みたいなものでしたもの。ねぇお投様?」
「そうだな。一番王位に近い存在になるためにそのようにしていただけで、婚約の書類など交わしてなどおらん。婚約出来る年齢になった時にアレはアレと仲良くなっていたからな」
もはや名前も口にしたくないのか、宰相閣下はアレと言い始めてしまった。
「わかしまりた。では、エドワード様には王族に代々下賜されてきた館を斡旋します。使用人については予算で賄える人数に限りがございます」
「いいんじゃない?王族としての品位が保てれば。それ以上を望むなら働いてもらわなくちゃ」
書類書き回り、ようやくエレシアが食事にありつけたのはエドワードのいる部屋の灯りが消えた後だった。
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