心機一転⁉~妻に浮気されて捨てられたおっさんの死に戻り努力の青春リベンジ~
D@11月1日、『人生逆転』発売中!
第1話 裏切りと死に戻り
―α世界線・2033年12月24日―
ある日、妻のミヤビがいなくなった。俺は、
でも、彼女は帰ってこなかった。
そして……
朝一番に自宅のポストに一本のUSBが置いてあった。嫌な予感がしながら、自室の古いPCでデータを確認する。そこには、「あなたへ」と名前が付けられた映像データファイルだけが入っていた。唯一の幸運は、娘が学校に行ってくれたことだ。
震える手でそれをクリックする。そこには、お気に入りのワンピースを着た妻が笑って写っていた。撮影場所は、この家のリビング。
「あなたへ。突然、いなくなってごめんなさい。でも、心配しなくていいわ。私は元気でやっているから」
なぜか、笑っているのに冷たい口調。嫌な脂汗が背中に流れる。
「私と離婚して欲しいの。実は、ずっとあなたのほかに好きな人がいたんだ、私。あなた、鈍いから気づかなかったでしょうけどね。その人とずっと浮気してた。結婚当初から」
あまりのショックに一時停止のボタンを押す。頭がズシリと痛む。吐き気を必死に我慢しながら、動画の続きを見る。
「相手は、あなたも知っている人。というよりも、最愛の人を亡くして傷心だったあなたとよりを戻したのも、その人の命令よ。あなたって高校時代に浮気した私に捨てられたのに、許しちゃうくらいのお人よしなんだもん。本当にバカだよねぇ。私が先輩に捨てられたっていう嘘、本当に信じてたの?」
我慢できずに、椅子から崩れ落ちて、床に倒れこんでしまう。
過呼吸気味で、苦しい。
「ここまで言えば、誰かわかるよね。私の最愛の人は……そう、高校時代から付き合っている先輩です。彼ね、ついに奥さんと別れられたから、私と結婚してくれるって言っているの。だからさ、もう別れましょう、私たち。あとね、彼、あなたのことムカつくんだって。知っているでしょ、彼は大きな会社の社長さんだから、あなたの取引先に圧力かけちゃうってさ。そうなったら、もう全部終わりでしょ。知ったことじゃないけど、この先も頑張って生きてね。あと、あの娘は、私が引き取るわ。理由は聞かなくてもわかるでしょ。バイバイ」
手を振った後、撮影していたあいつが出てきて妻とキスをしていた。それを俺に見せつけるようにして、映像は終わる。目の前がチカチカする。俺は意識を失った。
意識を取り戻すと、時間は昼を超えていた。どうやら、3時間ほど気を失っていたらしい。
今日は仕事を休む連絡しておいたから助かった。机の鍵付きの引き出しを開いて、昔もらった手紙を持ち出す。12月の冷たい外気に震えながら、手紙を書いてくれた人のもとへ一目散に走った。
※
「俺、全部失っちゃったよ。バカだったよ、本当にさ」
彼女が大好きだったホットミルクティーと
もう一本買っておいたミルクティーを飲みながら、22歳の若さで逝ってしまった恋人にすがってしまう自分が情けなかった。
妻のミヤビとは、中学時代から付き合っていた。でも、高校で一度別れたんだ。理由は、高校2年のクリスマスに発覚した彼女の浮気。バスケ部のエースで大きな会社の後継者である先輩と浮気していた。よく話を聞いたら、高校入学時から彼女は浮気してたそうだ。
ショックで不登校気味になったときに、助けてくれたのが、このお墓で眠っている
入試を終えた後、すぐに告白して、恋人になった。
同じ大学に通い、幸せな日々を過ごした。あんなに幸せだった日々は、たぶん自分の人生の中では訪れないはずと言い切れるくらい。
でも、俺が働き始めて、彼女が大学を卒業する年に、不治の病が見つかった。発見が難しい癌で、見つかったときにはもう手遅れだった。若いから病気の進行も早く、お互いに覚悟もできないまま彼女は死んでしまった。そして、その心の隙をミヤビたちに狙われたんだろうな。
俺が家から持ち出したのは、彼女が最期にくれたラブレターだった。
彼女の墓前で、好きだったミルクティーを飲んで、手紙を読み返す。すべてを失ったとしても、彼女のために人生をやりなおす覚悟を固める。
だが……
胸に強烈な痛みを覚えた。先ほどのショックの影響だろうか。それとも……
息ができなくて、身体が引き裂かれるような痛み。
「こんなところで終われるかよ」
まだ、会社のことだって。あいつがどんなに妨害してこようが、従業員を守らなくちゃいけないんだ。
梨華との約束もある。
死にたくない。後悔だらけの人生だったけど、まだこれからなんだ。
せめて、もう一度……
大好きな人たちとやり直したい。
『道隆君、山茶花の花言葉って知ってますか? 永遠の愛と困難に打ち勝つなんですよ』
一番幸せだった時期の思い出が走馬灯のようによみがえってくる。
もう駄目だと直感した。痛みで携帯電話の操作もうまくできない。
ゆっくりと意識が遠のいていく。こちらの世界での俺の人生はこうやって終わりを遂げた。
※
道隆君へ
こういう形で、お手紙を書くことをお許しください。そして、おばさんが亡くなったばかりで一番大変な時に、一人にさせちゃってごめんね。
ずっと、あなたのことが好きでした。あなたにミヤビさんという恋人ができたと知った時、私の世界が終わってしまったくらいに落ち込みました。道隆君の卒業式の日、告白してくれて本当にうれしかったんだよ。あの日の夜は、嬉しくて泣きました。
それからずっと。病気になった今でも、私は幸せです。あなたと過ごした幸せな思い出があるから、もう何も怖くない。
だから……
私が死んだら、私のことは忘れてね。少なくとも、道隆君自身の幸せを見つけてほしいです。思い出は大事だけど、それだけに縛られては欲しくないんですよ、私はね。
怖くないとは言えません。怖いです。でも、あなたと少しだけ話せれば、そんな怖さもどこかに行ってしまうんですよね。
そんな私が幸せじゃないわけがないんです。すべて、あなたのおかげです。本当にありがとうございます。
道隆君、愛しています。だから、幸せになってください。
敬具
梨華
※
―β世界線・2014年4月10日―
脂汗で目が覚めた。
ここはどこだろう。お墓の前で倒れて、誰かに発見されて病院に運ばれたのか?
でも、知っている天井だ。むしろ、懐かしいくらいの。
マイホームの部屋よりも小さい。まるで、子供部屋だ。レトロゲームの任天堂WiiUが目に入った。プレステ4もある。
本を確認すると、現代では古典となっているライトノベルたちが並んでいた。
まるで、高校生に戻ったように。
慌てて飛び起きる。見知った廊下や階段を駆けだして、台所に向かう。
そこでは、俺が会いたかった人が、朝食の準備をしていた。
一度も「お母さん」と呼べなかった優しい継母が、楽しそうにスープを作っていた。
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