“黄昏のお姉さん”は夕方に現れてガラクタを押しつけてくる魔性で魅惑のお姉さん
殻半ひよこ
1/お姉さんと会うなら黄昏時の公園で
爛熟した青空が、黒々とした夜の気配を匂わせはじめたころ。
僕は、お姉さんに会いにいく。
乱雑に切られて目にかかる赤錆の髪、大きな上着で鎧うから逆に際立つ華奢な体躯、蝋燭みたいに生気の淡い肌。
膝の上に乗せているのは、四本の足が付いた箱……
錆びついた遊具が身を寄せ合う公園の、葉のない枝を揺らす木の下のベンチに座る姿は、上品で、儚げで、退廃の王さまのようで。
だからあの人は、こんなあだ名を持っている。
“黄昏のお姉さん”。
「お姉さん」
公園に踏み込みながら呼びかけると、彼女の表情は目に見えて点灯した。
その生き生きとした、嬉しそうなこと。
「やあやあ、少年」
隣を空ける動作で、さりげなく座る場所を誘導された。
尻を置いた位置は、ほんのりと
「なんですか」
「なぁに。面構えがまた立派になっていると思ってねえ。男子三日会わざればウンニャラホというが、ふふ、どうやら私はまた若者に圧倒的成長を促してしまったらしいな」
「まあ、苦労はしたんでそうかもですが。なんというか、一概に認めるのもシャクですね……。はい、これ。前回の宿題です」
ポケットからメモを取り出して、お姉さんに渡した。
書かれているのは「故障した子供用球体状加工物発射玩具の活用について」というレポートだ。
題名こそ仰々しいが、要するに「ビー玉を飛ばして遊ぶ小さい人型おもちゃだが、そのビー玉を中に入れる部分である後頭部のフタが癒着していて、本来の用途では使えない。これをどう再利用するか」へ大真面目に挑んだ考察である。
普通に生きていたら到底使わない部分の脳みそを使うのに難儀したが、どうにか『胴体部の発射機構は生きているのだから、前からどんぐりとか入れて飛ばす。そこそこ楽しい。地面に発射しておけば、いつか大きな木になるでしょう』という用法をひねり出した。
採点や、いかに。
お姉さんは真剣な表情でレポートを読み終えると、果たしてその口から「よき」の一言がこぼれ落ちた。
「この観点はなかったよ。ふふ、どんぐり……どんぐりかあ。絵面を想像するだけで、実に愉快じゃあないか。いつか本当に芽が出れば素敵だね」
いよっ、とぱちぱち拍手してくるお姉さん。どうも、とこちらは頭を下げる。
「どうか大切に扱ってくれたまえ。では、次の宿題は〜、っと」
お姉さんが唐櫃を開け、手を突っ込む。
こちらが固唾を飲んで見守る中、取り出されたのは……
「……なんですかそれ」
若干黄ばんだ、灰色で縦長の箱……箱? 左には十字の形をしたボタン、中央下部には斜め向きの楕円のボタンが二つ、右側には丸型のボタンがこれまたふたつ付いた、何か。
表面には印字があったようだが、ほとんどかすれてしまっている。一部だけかろうじて読めるのは……B、O、Y?
「これはね、少年。子供を大人に、大人は子供にしてしまうという、それはそれはとてもすごくてすばらしいものさ。ただちょっと、いつも通り、トラブルがあってね」
お姉さんが箱の上部の、スイッチらしき部分をスライドさせると、聞いただけで心が弾むような、ピコーンという音が鳴った。
続いて、これまた賑やかで独特の音源の音楽が奏でられる……えっと、
「これは、こういう楽器とかじゃあ……」
「ないね」
「となると、やっぱり……本来なら、ここに何か映るんでしょうね」
箱の前面上半分ほどには黄緑色の液晶がついているが、そこはずっと沈黙を保っている。これがただの飾りなわけ、まさかあるまい。
「そう。これはね少年、絵を見ながら音を聞き、ボタンを押して遊ぶ携帯ゲーム機なんだ。でも、この子は長年愛用された反面疲れてしまって、もう絵を映し出せない。とても本来の用途では使えない。……というわけで」
はい、どうぞ——と、お姉さんは箱を差し出してきた。
「また、新しい仕事を与えてやっておくれ。もう十分に働いて、
「承知です。まあ、こいつの気分も、それなりにわかりますからね。何しろ、同じ
受け取った箱は、想像よりも重みがあって、ずっしりと手応えがあった。……なるほど。このピコピコってかんじのサウンド、聞けば聞くほど癖になる。
……さて、そろそろ解説する必要があろう。
僕とお姉さんの交流。それは、毎回、おおむねこのようなイベントで構成されている。
①。
お姉さんから使用と経年で劣化し、何らかの故障を起こした廃品を渡され「使いみちをひねりだしてみよ」との宿題をもらう。
②。
僕は「こういうふうに使ってみた」レポートを作成。お姉さんに提出する。
③。
お姉さんが回答を採点。①に戻る。
なお、渡されたガラクタはそのままもらってしまってよい。
……と、こんな具合だ。
すべては、とある日の黄昏時、ふと通りがかったごく普通の少年が、どこか退廃的で放っておけない雰囲気のお姉さんに、うっかり話しかけてしまったことから始まった。
かくして二人だけのどこか特別な時間、益体のあるようでない、いややっぱり結構あるやりとりは続いているのであった。
「たのしみ、たのしみ。今回は一体、どんなとんちを聞かせてもらえるのやら」
「プレッシャーかけないでくださいよ。まあ、本気ではやりますけどもね。適当に」
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