第44話 Morning at cafe

その喫茶店は、マイの家から、歩いて10分足らずのところにあった。以前2人で行った駅の近くの店にちょっと雰囲気は近かった。

「マイはこういう感じの店が好きなの?」

思わず聞いてしまう俺に、

「えー、意識とかしてないけど、言われてみたらこないだのとこと似てるかもね。」

入り口は木の扉で、「OPEN」の札が下がっている。俺がドアを開け、ドアについていた鈴が鳴る。

「いらっしゃい、空いてる好きなところに座ってね。」

マスターっぽいおじさんの声に促され俺たち目に付いた空席についた。

しばらくしてから、注文を取りに来たのは、先ほどのおじさんだった。

「いらっしゃい。ご注文どうします?」

聞かれて、マイが答える。

「おはよ、マスター。モーニングセット二つ。」

「はい、わかりました。っても、朝はこれだけなんだよね。」

マスターは笑いながら答えると、俺たちも釣られて笑ってしまう。

「じゃあ、今持ってくるからちょっと待ってて。」

と言って、マスターは奥へ引っ込んだ。

ふと俺は周囲を見渡すと、どこのテーブルにも、コーヒーとトーストとサラダが置かれていた。

「名古屋の方にあるモーニングみたいだな。」

「へー、そんなのあるんだ?」

「日曜の朝にコーヒー頼むと、何かついてくるってやつ。こっちでもやってるとこあるんだ。」

「はーくん詳しいね。」

「テレビとかでやってるのを前に見たんだ。」

「テレビ見るの?」

「たまにね。」

そうこうしていたら、マスターのおじさんが2人分のコーヒーとトーストとサラダとドレッシングをお盆にのせて持ってきた。手早くテーブルに並べると、

「じゃ、ごゆっくりどうぞ。」

と言って、また下がっていった。

「じゃ、いただこうか?」

「そうだね。」

それから二人で、出てきた料理をなんとなく食べ始める。

店内は穏やかな、のんびりとした空気が流れていた。客層は高齢者や家族連れなど様々で、席はまあまあ埋まっていた。でも、店内は意外に静かだった。話し声も聞こえてはきたが、気にならないくらいだった。俺たちも、飲み食いしながら、他愛もない話に花を咲かせていた。

思えば緊張を全くしていないことにふと俺は気づいた。リラックスして、一緒に過ごせるのはいいと思ったが、マイと一緒にいるのに、緊張感がなくなり、だらしない部分が目立ったら良くない気もした。

たかだか一夜を共にしただけの関係とも言えたけれども、それだけで、俺は安心しすぎていやしないか。

あれこれ色々考えていたら、マイが言った。

「はーくん、もしかして、昨夜のこと、本当は嫌だったの?」

俺が考え込んでいるように見えたのだろう。俺は、

「それだけはない。絶対に。」

とはっきり答えた。その後、俺は自分の思っていることを正直に打ち明けたのだ。それに対して彼女は、

「もー、はーくんどんだけ真面目なの。でも、そこが、アタシは好きだよ。悩んでるのは、それだけアタシのことを思ってくれてるって、わかるから。」

「だからといって、このままだと。俺はマイの優しさに際限なく甘えちゃいそうで、駄目になっちゃうんじゃないかって、それが不安なんだよなあ。」

「いいよ、一緒の時は、思いっきりアタシに甘えていいよ。ちゃんと受け止めてあげるから。でも、怒るときは怒るよ、多分。」

何という包容力のある言葉なのだろうか。甘えたい時は甘える。それを聞いたら、俺は何だか肩に力が入りすぎていたのかも知れないなと思った。

気がつくと時間はそこそこ過ぎていた。会計を済ませ、俺たちは店を出た。すっかり日が高くなっていた。もう随分二人で長い時間を過ごしている。この後どうしようかと思っていたが、彼女から寂しそうな声が上がる。

「あーあ、今日夕方からバイトあるんだよね。」

だとしたら、一緒にいられるのはこんかいはそこまで、ということになりそうだ。明日からは日常がまた始まる。楽しい時間には限りがあるのだと痛感した。だからこそ、その時間は全力で楽しまなければ、と思った。

少なくとも今回俺たちが一緒に過ごせる時間は余りないということは間違いないと思った。


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