第31話 Her mother

俺は自転車を押しながら歩き、マイはその側を歩いた。自転車があるのでさすがに手はつなげない。2人乗りが一瞬頭をよぎったが、いかにも青春な感じはするかもだけども、安全への不安も強く感じていた。ほぼ同じタイミングで彼女が言った。

「二人乗りって思ったけど、夜だし危ないからやめとこ。」

と、言う事で、引き続き二人で普通に歩いた。彼女はああ見えて本当に常識人だと思った。俺なんかははみ出せない小心者の陰キャだし、見た目も、それなりだから、時々俺は釣り合ってないかと不安になる。でも、そんな俺を彼女はかなりありのままで受け入れてくれていると感じる。

「はーくんはそのままが良いと思うよ。」

彼女は前にそう言ってくれた。最初はお世辞か社交辞令なのかとも思ったけど、気を使っても言葉はあまり飾らないから今はそれを信じている。だからこそ、ある程度の清潔感は大事にしている。そのことは何も言ってこない。気づいていないのか、特に気にしていないのかははっきりとはわからない。でも、礼儀みたいなものだと思うから、これからも続けていこうと思っている。

「そう言えば、はーくん好きな料理って何?」

そういや、今度ご飯を作ってくれると言っていたのを思い出し、少し考える。オレの頭の中に、一つの料理が何故か浮かぶ。そこまで好物だと感じたことはないはずなのに、その姿がぼんやりと形作られていく。その名を何となく口走る。

「あ、ハンバーグ!」

確かに、食べるとどういう訳か幸せな気持ちに不思議となる気はした。肉が食べられないとかがなければ嫌いなひとはほぼいない。そんなおかずの名前だ。

「オッケー、ハンバーグだね。大丈夫!余裕で作れちゃうから、楽しみにしててね。」

彼女は腕まくりをするような動作と共にそう言った。自信有りげだ。

スーパーを出てだいたい10分くらいか、目の前に高さにして10階ないくらいのマンションが見えた。

建物を彼女が指さしながら言った。

「アタシんちこのマンションだよー。」

高級とは言わないが、そこそこ綺麗な建物だった。

「一緒だとあっという間だね。ちょっとつまんないな。」

まあ、俺も消化不良感はある。

建物の入り口に、女性の人影が見えた。それはゆっくりと近づいてくる。

「おっ、麻衣美今帰ってきたか。」

「あっ、ママ今日早くない?」

マイの母親らしい。

「んで、その隣が、噂のはーくんだね。」

マイは家でも俺をはーくんと言っているようだ。

俺はどう返していいものか少し迷った挙句。

「ども、あの、麻衣美さんにはお世話になってます。」

返事は無駄に当たり障りなさそうなものになった。

「なるほど、中々いい男じゃないの、麻衣美もやるわね。」

「もう、ママったら。」

仲はかなり良さそうだ。

「最近は、麻衣美ったらはーくんのことばっかりで。」

お母さんもかなり明るい人であるようだ。

「えー、だって。」

この母娘のやりとり、すごく微笑ましい。相当に仲も良さそうだ。

「家の用事でスーパーに来たら、麻衣美さんが働いてて。」

「声かけてきたのが、まさかのはーくんなんだもん。」

と、経緯などを話していたら、また時間が経ってしまった。

「ママ、今度ははーくんにご飯作ってあげようと思ってるの。」

「おっ、胃袋つかんじゃう?良いねえ。麻衣美はよく料理してるから、腕はなかなかよ。」

マイのお母さんは俺を家に招くことを特に気にもせず、むしろ歓迎してる節もあった。

「細かい日程は後でメッセージで決めよっ。」

「まあ、あまり遅くなるとさすがにうちの親も心配するだろうから、そろそろ。」

「はーくんまたねー。」

マイが先に家へ入っていき、

「今日はここまでわざわざ麻衣美を送ってくれて、ありがとうね。」

「陽人くんのお陰で、麻衣美は前よりも明るくなったのよ。」

少し意外にも思える話だった。

「だから、これからも麻衣美のこと、頼むわね。」

「はい。」

俺は少し強く声をだし、しっかりと頷いた。

その後マイのお母さんから道を聞き、俺は、行きとほぼ同じ位の時間で家までたどり着いた。

帰宅すると、

「結構時間かかったわね。」

と母親が一言言ってきたが、俺の表情を見て、何かを察したらしく、深く聞いてくることはなかった。

ただ、マイの家に招かれたことは、後で頃合いを見ては母親の耳には入れておこうと思った。


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