第21話 Holiday 4
俺たちはその後も街を歩き、店に入ってマイが服を見ると言う時間が続いた。でも、購入したのは最初に行ったカリスマ店員のいた店だけで、その後は、見るだけで終わっていた。因みにあれからはほぼ俺たちは手をずっと繋いでいた。慣れてきたかと思っていたが、気がつくと俺の手は何だか汗ばんできていた。その時汗を拭こうと思って一時的に手を離したのだが、手に汗をかいていたのは、俺だけじゃなかった。マイの手もほんのり汗ばんでいたのだ。
「緊張してるんだね?」
俺は汗を拭いながら、尋ねると彼女は、
「何だろ?きょうのアタシ、変かも。」
と、言って、緊張感を否定しなかった。あと、
「何かちょっと疲れてるのかも、どっかで休もうかな?」
と少しではあるが疲労感も口にしていた。
人混みを歩き続けていたら、さすがのマイでも疲れてくるだろうし、俺はそれよりも先に疲労を感じていたから、休憩は賛成だった。
俺たちは少し歩きのペースを落とし、休憩出来そうな場所を探した。
幸いなことに、チェーンのコーヒーショップに空席が見つかったので、そこに入った。ここは、注文してカウンターで受け取るタイプだ。まず席を確保してから、各々が注文しに行くのだが、まずマイが飲み物を注文しにいって、会計をすませると側の受け取り口で商品を受け取るようだ。俺は自分の注文に備えて様子を観察していた。一分もしないうちに、マイが戻ってきた。手には生クリームがたっぷり入ったドリンクがあった。多分甘そうだ。
続いて俺が飲み物を注文しに行った。俺は甘い物がやはり得意ではないので、コーヒーと温かいミルクだけの入ったものを頼んだ。砂糖やシロップは入れなかった。出来上がりはマイのものほど時間はかからなかった。飲み物を受け取って、俺はマイが待つ席へ戻った。彼女は律儀に飲み物を飲まずに待っていてくれた。
「先に飲んでても良かったのに。」
俺が言うと、彼女が答えた。
「えー、でも、何かせっかく一緒に来たんだから。」
「まあ、そうだよな。」
俺が返すと、彼女は無言で頷いてから、飲み物に口をつけた。俺もまた、飲み物を口に運んだ。
滑らかなクリームの口当たりとコーヒーの適度な苦味が妙に心地よい気がした。
「はーくん、それ美味しいの?」
唐突にマイは聞いてきた。
「どうだろ?俺は何だかこういうのが好きなんだよなあ。」
俺が答えると、彼女は、
「えー、気になる。一口ちょーだい。」
と、言い出す。俺は二人で初めて学校から駅まで歩いた時のことを思い出した。彼女は、俺が飲んでいたスポドリをなんの躊躇もなく飲んでいたことを。
俺はあとで恥ずかしくなったけど、マイはそういうことを気にしないタイプなんだろうとは思った。だから、ここでもったいつけても仕方がないから、俺は静かにカップを差し出す。彼女は受け取って、直ぐに口に運んだ。苦味を感じる表情を少し浮かべてから、
「これが、はーくんの好きな味なんだね。」
ちょっと、しみじみとした言い方で口にしたあと、
「あ、間接キスしちゃった、てへ。」
と、少し笑いながら言った。俺は思わず、
「えー、今更それ言う?」
こう言って、ガクっとなった。
「でも、アタシそーゆーの気にしないんだよ。言葉もついこの前知ったし。」
「だったら、何故唐突に……。」
「キスって感じでいうのが、何かイイって思っちゃった。そっかー、アタシはーくんとキスしちゃったみたいになったんだ、て思った。」
「嫌じゃなかったなら、いいんだけど。」
「正直、あんまり意識はしてないけどね、今でも。」
彼女は自分の飲み物を手に取って俺に渡してきた。
「アタシのも飲んでみる?ストローだから、もっとキスな感じだよ。」
好意を寄せてきている可能性が極めて高いと思った。もう断れない。いや、断る必要などないと思った。俺に躊躇うまでもなくストローに口をつけ、飲み物を吸い込む。口の中には、想像通りの甘い匂いが広がった。同時に唇に伝わる感触。だが、マイを感じられたかは、正直言って微妙だった。間接キスなんて、気にするほどのことはないと俺は思った。きっとマイは少しそういうのをバカバカしく思っていたんだろう。何だか腑に落ちた。
「どうだった?」
「すっごく甘いね。」
「キスって感じ、した?」
「よくわかんないね。気にしすぎたのかも。」
「だよねー。みんな気にしすぎなんだって。」
その後、俺たちは二人で笑った。
飲み物を飲み終わると、店を出た。
「そういえば、はーくんの見たいもの見に行こうよ。ここまで、ずっとアタシの買い物の付き合いだったし。」
「そうだね。でも、街のこと、俺はよくわからないんだよなあ。」
「何系みたいの?もしかしたら分かるかも。」
「財布かなぁ。」
マイが少し考えてから、
「あそこだったら、ありそう。」
と言ったので、俺は素直に従いそこへ行くことにした。歩き出そうとした時、止まったままのマイ。彼女は手を出している。俺は一瞬、何だかわからなかった。彼女は俺に視線を送ってきた。顔が膨れそうになっていた。俺は出されている手を握った。ニッコリ笑顔になった彼女は無言で頷いてから、
「じゃ、行こうか?」と言った。
ようやく歩き出してから彼女は言った。
「ずっと手繋ぎがいいなー。」
俺はあそこで手を出せてよかったと思った。
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